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Ⅱ バーバラ

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 リカルド様からの手紙を手に取り、再びベッドに腰を下ろします。

 二つ折りにされただけの手紙は、すぐに文字が目に飛び込んできました。

 そこに書かれている文字は、すまない、申し訳ないという言葉から始まっています。

 その後はただ、私と突然結婚することになったことに驚き、不機嫌だったことを謝り、彼女さんに別れを告げに行ったら、子供が出来たと言われた、と書かれておりました。

 私はその事に驚いてしまいます。

 手紙はその後もさんざん悩んだこと、私やお義父様に相談しなくてはいけないと思っていたこと、けれど私への罪悪感が、私から逃げ出したいという思いに繋がってしまったと書かれています。

 ただ私は彼女さんに子供が出来たというのが、もし私たちが結婚した時に言われたのだとしたら、あれからほぼ一年に近い月日が経っているのです。子供が生まれていたとしてもおかしくはないでしょう。

 しかし手紙には子供の事については触れてはおりませんでした。

 その後もアルトワイス伯爵領を襲った災害の調査や日々の業務に追われ、また突然、長期遠征に組み込まれ、西の魔の森へと行っていたこと、所属している第三騎士団の団長が死亡した事、リカルド様自身も肋骨をやられ二か月ほど西の辺境伯のところで養生していたこと、そして私に長期遠征について連絡しなかったことを謝っておられます。

 そして騎士団の事務方に生活費の支給の手続きをしておいたが問題はなかっただろか、という問いかけに、私はニコル兄様が仰っていたことが正しかったと分かりました。

 確かにリカルド様は、手続きをされていたのです。生活費の心配をされているのに家賃の心配をしていないという事は、これもまたニコル兄様の言葉が正しかったという事でしょう。

 そしてなぜ私を実家に行くように無理やり官舎から追い出したのか。

 それについては、彼女さんが不味い事に巻き込まれているらしいとしか書いてありません。そしてもしかすると自分にも影響が出るかもしれないと、だから離縁届と役に立つかは分からないが【 白い結婚 】の証明書を送るので、なるべく早く届けを出すように、と書かれておりました。

 どういう事でしょうか。

 リカルド様に影響が出るほどの何か不味い事があって、私を巻き込まないために離縁するという事なのでしょうか。それとも何か別の意味があるのでしょうか。

 そして彼女さんとの子供はいったいどうなったというのでしょう。

 せっかくリカルド様からの手紙に目を通したというのに、これでは詳しいことが何も分かりません。

「ニコル兄様」
「ん?」
「この手紙、ニコル兄様もお読みになったのですか?」

 私はベッドに腰かけ手紙を手にしたままニコル兄様に問いかけました。

「いや、全部には目を通していないよ。ただ最初に済まない、申し訳ないとあったから、すぐ読むのをやめた」
「そう、ですか」
「何が書いてあったんだい?」
「何も」
「なにも?」

 思わず不審そうな声を出したニコル兄様に、私は手紙から顔をあげてニコル兄様を見つめます。

「今までの経緯と、彼女さんに子供が出来たらしいことと」
「はあ? 子供?」
「よく分かりませんが、何か不味い状況らしいという事ぐらいしか分かりません」

 リカルド様にもし会う事がありましたら、私はこの手紙について文句を言ってもいいでしょうか。

 一応、リカルド様も貴族の子弟であったと思うのですが、手紙の書き方としてはあまりにも説明が足りなさ過ぎます。別に季節の挨拶だとかそういったものは求めていません。

 ただ事情を説明するにしても、この内容はあんまりです。
 騎士団に所属しているのですから、もう少し内容をまとめて分かりやすく書くこともできると思うのですが。

「ちょっと手紙を読ませてもらっても?」
「どうぞ」

 ニコル兄様ならもしかしたら、リカルド様の書きたい内容が理解できる部分があるかもしれません。そう思った私は、素直に手紙を渡しました。

 それから数分もしないうちに、ニコル兄様が深いため息を吐き出します。

「いったい何が起こっているのかすら分からない」
「……そうですよね。子供はいったいどうなったのでしょう。無事生まれているのでしょうか、それとも。それに不味い状況ってどういう事でしょう」
「うん、それは僕にも分からないけれども」

 私はニコル兄様から手紙を返されて、そのまま元の通り半分に畳みました。そして私は真っ直ぐニコル兄様を見つめます。

「私は王都に行きたいと思います。王太子殿下主催の夜会に出席するかどうかも、あちらでディオーナ様と話をさせていただきたいと思いますし、何よりリカルド様の状況というのも気にかかります」
「うん、そうだね。騎士団の横領だか着服だかの疑惑もある事だし、バーバラが王都に行くというなら僕も一緒に行った方がいいか」
「いいのですか?」
「いいよ、どうせ僕にも夜会の招待状は届いているし、騎士団の件はルチア嬢に直接話をもっていかないともみ消される可能性もあるしね。今回、エリザベスは子供たちがいるから一緒に行くのは無理だろうから、もしバーバラが夜会に出たいのならエスコートだってしてあげるよ」

 先ほど泣いてしまわれたからでしょう、ニコル兄様の目元はまだ赤く染まっておりました。けれど、ニコル兄様が一緒に行ってくださるのなら、私も安心できます。

 しかもニコル兄様が私についていく事を負担に思わせないためか、わざと夜会の件を茶化して口にしてくださいました。その気持ちが私は嬉しいです。

 多分私が夜会に出席する事はないでしょうけれど、ニコル兄様にエスコートして頂けるのなら一度くらい参加してもいいかもしれません。私はふとそう思いました。


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 リカルドの手紙の内容は、色々と考えてみましたが、どう考えてもいい訳のオンパレードにしかならないような気がしました。ので、こんな形ですみません。
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