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Ⅱ バーバラ
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しおりを挟む「じゃあ、その三年、いやもうほとんど二年かな、その残り二年をバーバラはどう過ごすつもりだったの?」
ニコル兄様に問われて、私は思わずニコル兄様を見つめてしまいます。だって今の今まで、先の事など私は考えていなかったと、その事に気づいてしまったからでした。
「……どこかに部屋を借りて」
「ルーベンス子爵家には帰って来ないつもり?」
ニコル兄様の言葉に私は黙るしかありません。
「そっかー、戻ってきたらまた、どこかに嫁に出されるかもしれないものね」
そうですね。そうですわ。
ルーベンス子爵家に戻ることになったら、私はまたどこかに嫁がなくてはいけないかもしれないのです。
確かにお父様の言うことを聞いて、リカルド様と結婚しました。
旦那様になったはずのリカルド様には放置されておりましたけれど、存外あの生活は悪くなかったのです。
一人静かな環境で、刺繍をしたりレースを編んだり。
最近は羊毛というものが新しく入荷されてきましたから、これの編み方も覚えたいのです。
特にクラウディシープという魔物の毛糸が、ふわふわでもこもこしておりました。しかもこのクラウディシープ、繁殖力が強いらしくて魔物の素材なのに、それほど高くないのです。
この間、サーシャ姉様の旦那様が、サンプルとして送ってくださって、しかも編み棒というものと簡単な編み方の本まで一緒に送ってくださいました。
そして作品が出来たら、また送って寄こせ、と手紙に書いてあったら頑張りたくなりますよね。
そうです。
リカルド様が与えてくれたあの生活を、できればこれから先も続けていきたいと、私は思っているのです。
そしてその期間があと二年はあると、心のどこかで思っていたのでしょう。
それが直ぐに離縁できるとなれば、それは戸惑いもしてしまいます。
「存外、一人でのんびり暮らせる生活が性に合っていたのです、ニコル兄様」
「そっかー、そうだろうね、バーバラにはそんな生活が馴染みそうだ。でも一人で生活するのは大変だよ? 家の掃除もしなくちゃいけないし、洗濯に料理、庭の手入れもしなくちゃね。それにもちろん家賃も自分で稼いで支払わないといけない」
茶化すように言うニコル兄様に、私は苦笑するしかありません。
だって家賃の件は、私が迂闊だったのです。
本当ならリカルド様に確認すればいいだけの話で、もしリカルド様とお話しが出来ないのならば、他の騎士様や同じ官舎に住んでらっしゃる騎士様の奥方様たちに聞いてみればよかったのです。
いくら私が子爵家の出だと知っている人たちでも、質問をしたら応えてくれたでしょう。
私はあまりにも一人で住む快適な空間に居すぎました。
自ら引き籠り他人と最小限にしか関わらず、そのうえ時折訪れるリカルド様のことも、やんわりと拒絶していたのだと思います。
だって今思えば、リカルド様は私の顔を見るたびに何かを仰ろうとしていた、ような気がしますもの。
それはたぶん彼女さんの事だったのかもしれません。
ですが私はリカルド様が何かを仰ろうとしているような気がしても、特に言葉を促すような事はしませんでした。それどころか、テーブルの上に商品であるハンカチやレース糸を広げて作業に没頭しておりましたし、お金を渡された時でも、お身体は大事にしてくださいね、としか声をかけませんでした。
意識はしておりませんでしたが、あれではリカルド様も私と一緒に居たいと思えなかったかもしれません。
「ニコル兄様、私ももう小さな子供じゃないんですよ? メイドさんたちのようなプロの仕事は出来なくても、自分の生活ぐらいは何とかなりますし、何とかします」
私の言葉にニコル兄様は笑ってくれました。
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