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Ⅱ バーバラ
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しおりを挟むいったいどうしたのでしょうか。
ディオーナ様が伯爵夫人だという事は分かりましたが、まだ何かあるのでしょうか。
それよりもエスコートの件をお断りする方法を考えていただきたいのですけれど。
「バーバラはエイドラ公爵家は知っているかな」
ニコル兄様が私に聞いてきます。私はふるりと首を振りました。
あ、でもディオーナ様はエイドラ伯爵夫人と言ってましたよね、ご関係がある家なのでしょうか。
「じゃあ、アルベルティーナ・エイドラ公爵令嬢のことは?」
どこかで聞いたような気もしますが、私の記憶には残っていないようです。取り合えずお客様にその名前の方はいらっしゃいません。
ニコル兄様に先ほど同じように首を振りますと、そうか、と返されてしまいました。
「この間少しだけ話したろう。王太子殿下の元婚約者の話」
「ええ、流行り病でなくなってしまった方でしょう?」
お義父様の言葉に、私はそう言えばそんな話もしたと思い出します。
確かルシエント侯爵家のアリアンナ様の事を話していた時だったと思います。王太子殿下(当時は王子殿下でしたけれど)は、婚約者の方をたいそう愛しておられたけれど、その婚約者の方は流行り病で亡くなられたと。
その頃の私はまだ子供で、お名前までは知りませんでしたけれど、マデリン姉様やサーシャ姉様が酷く嘆いていたことは覚えております。
特にマデリン姉様とは同じ年だったからか、デビュタントの時にお世話になったのだと、その後も滅多に来ることのない子爵家の令嬢が夜会に訪れると、必ず声をかけてくれたと言っていた記憶があります。
たぶん、とても優しい方だったのでしょう。
「その殿下の婚約者だったご令嬢の名前が、アルベルティーナ・エイドラ公爵令嬢だよ、バーバラ」
ニコル兄様にそう言われても、私はどう応えたらいいのか分かりませんでした。
「当時、流行り病が流行った地域に、薬事局の局長でもあったエイドラ公爵と優秀な薬師でもある公爵夫人、それとアルベルティーナ嬢が薬を運んで行った。知らせを聞いてから即時対応したおかげで、その年はそれ以上流行り病が広がる事はなかったが、エイドラ公爵夫妻とアルベルティーナ嬢を病で失った」
ニコル兄様は、授業でも始めるかのように話し始めました。私はそれを黙って聞くことにします。
「エイドラ公爵には嫡男のラーシュ殿がいた。当時はまだ11歳か12歳だったか。もし万が一の事があった場合、嫡男がいれば家を潰すこともないと、前公爵夫妻に預けて行った。そして前公爵はブルーノ・エイドラ公爵、夫人の名をディオーナ様と言うんだけれど」
「まあ、ディオーナ様は前公爵夫人なのですか?」
「たぶん、そうだと思うよ。ただ今はご子息のラーシュ殿が公爵位を継いでいるから、前々公爵と夫人ということになるのかな」
「そうですね、公爵家や侯爵家ともなると、それまでに拝領した領地や爵位を持っている事が多いため、今はエイドラ伯爵と名乗っているのではないかな」
ニコル兄様の話に継ぎ足すようにお義父様がおっしゃいます。
「となると、孫というのはラーシュ・エイドラ公爵になるわけだよね」
アーカード様が困ったようにそうおっしゃいました。確かに、今のお話を聞いた限りではそうなります。私は益々どうしていいか分からなくなってしまいました。
だって相手は公爵様です。ただでさえ子爵家の令嬢で、今は騎士爵夫人です。私はディオーナ様に結婚したことをお話していなかったでしょうか。
「取りあえずは、その話はまた後にしましょう、アルトワイス伯爵、手紙の方は」
「うむ、だいたいは読み終わった」
「ならば今後の事を話しましょう」
お義父様は、ニコル兄様に問われると、クシャリをと表情を歪めました。それはどこか辛そうな表情で、お手紙にはいったい何が書かれていたというのでしょうか。
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