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ニコル

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 そう、バーバラと僕は母親が違う異母兄弟だ。

 けれど、バーバラは生れてすぐに母親とは引き離されて、こちらの屋敷でメイドに育てられる事になり、物心が着く前に現れた妹という存在に、僕は無邪気に妹ができたと喜ぶだけだった。

 そんな僕を見たサーシャ姉様は、少しばかり複雑な表情をしたようだけれど、小さかった僕がそんな姉様の表情に気づくはずもなく。

 それが幸いしたのかは分からないが、バーバラは誰に疎まれることもなくルーベンス子爵家の一員になることができた。もちろん彼女は自分の母親が、母上ではないという事は知らない。

 この時の僕はまだ知らなかったけれど、出生届も母上と父の子として届け出を出していたようだ。
 継承権のない女児だったからという事もあるだろう。
 それに父の血は引いている子だ。
 母上としては見捨てることは出来ないと、そう思ったに違いない。

 本当は母上が何を思い、何を考えているのかは僕には分からなかったけれど、それでもそうあって欲しいと僕は思った。

 そんな事があって、ルーベンス子爵家には少しだけ変化が訪れる事になる。

 まず母上が、王都の社交界に顔を出す頻度を減らした。
 とは言っても、僕を生んだ後からは、ほとんど領地に引っ込んでいたようなものなので、全く顔を出さなくなったと言った方が正しいのかもしれない。

 ただ母上には王都にいる友人が多く、体調をおもんばかる手紙がよく届いた。時には領地に遊びに行ってもいいか、という手紙も届く。

 母上も体調が回復してからは、友人と連絡を取るようになったようで、時折、母上の友人たちがルーベンス子爵家を訪ねてきた。

 そして一様に、元気そうで良かったと、お子さんがたくさんいるのね、と安堵のため息をつく。

 どうして皆さん、母上の姿を見て安心するのかと尋ねれば、母上は誤魔化すものの、サーシャ姉様がしたり顔で、ルーベンス子爵に虐められているんじゃないかと心配してるのよ、なんていうのだ。

 父は家族には無関心だが、母上にはそうでもないと思う。

 僕がそう言えば、「お父さまは、お母さまの事は好きなんだと思うのよ」と姉様たちも言う。

 父は母上を好きなのか、と驚きはしたけれど、なぜか納得することもできて。
 多分、ではあるが母上も父のことが、それなりに好きなんだろうな、と思ったのだ。


 そしてまた変わりなく月日は過ぎていき。

 皮肉なことに、母上がアベルを生んだ。
 おばあ様の言う嫡男のスペアを生んだのは母上だった。
 けれど、ほぼ同時期に第二夫人も身籠っていて、出産も数日違いでエリスが生れた。
 だから僕たちの間では、アベルとエリスは双子、という事になっている。

 おばあ様もアベルスペアが生れた事で納得したのかは分からないけれど、あっさりと第二夫人に手切れ金を渡し、第二夫人の方も生んだ子供に未練はないのか、揉める事もなく別邸から去ってしまった。

 バーバラが生れたときは、僕は単純に妹ができたと喜んだだけだったけれど、さすがにエリスが生れたときには、僕も六歳になっていたから、バーバラとエリスが異母兄弟だというのは理解していた。

 でも母親が実の子供を置いていくなんて、僕にはショックで。

 だって父はあの調子で、子供にはやはり関心がなかったし、残されたバーバラとエリスは、どうなってしまうのか。僕には分からなくて。

 だから僕は母上に思わず言ってしまったんだ。

「バーバラとエリスはどうするんですか? どこかにやってしまうんですか?」

 僕より二つ年下のバーバラは、にいちゃま、にいちゃまと僕の後をついてくる。
 僕が勉強の時間だからと構ってやらなければ、寂しそうにしながらも、おとなしく部屋に戻るようないい子なんだ。

 それに僕にとってバーバラは、やっぱり大事な妹で。

「大丈夫よ、バーバラもエリスも私の大切な子供ですもの」

 そう言って、僕の頭を撫でてくれた母上に、僕はきゅっと抱き着いた。



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 実は問題の多いルーベンス子爵家でした。

 感想等いつもありがとうございます。
 まだ続きますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。
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