旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり

文字の大きさ
上 下
20 / 66
ニコル

1

しおりを挟む

 ルーベンス子爵家は子沢山で有名だ。

 長女のサーシャ姉様を筆頭に、次女のマデリン、長男で嫡子である僕、三女のバーバラ、次男のアベル、四女のエリス、五女のシルヴィア。

 男子二人に女子五人、子供だけで七人になるのだから、確かに子沢山だろう。

 何もこんなに子供を作らなくても、とは思うものの、この国では嫡男にしか爵位の継承権がない。だから、連続して女児を生んでしまった母上は、おばあ様やおじい様に相当にプレッシャーを掛けられたに違いなかった。

 僕らにとって、祖母や祖父はとても気のいいおばあ様であり、おじい様だった。それはそうだろう、領主の仕事を父上にすべて引き継いで、領の端っこにある山あいの温泉地にこじんまりとした屋敷を建てた二人は、そこで悠々自適な暮らしを送り、時折、子爵家を訪れては孫たちを可愛がるだけでいいのだから。

 それに比べると七人の子供がいる母上は、毎日が大変だったことだろうと思う。いくらメイドや執事がいると言っても、所詮は子爵家。

 七人全員に乳母が付けられるほどの余裕はなく、サーシャ姉様が生れてからは、赤子の世話に、子爵夫人として家の舵取り、近隣の他領主夫人たちと交流を図り、社交シーズンになれば王都に行き、王家主催の夜会や子爵家、男爵家が中心のお茶会を主催したり参加をしたり、時折招待される高位貴族の夜会には夫婦で参加をし。これに自領での慈善活動やら、そのための資金集めやらが加われば、母上にゆっくりする暇などないよう見えた。

 実際、その通りだったのだろう。

 次女のマデリンを生んでも、母上の生活は変わらなかった。
 いくら若くして子爵家へ嫁いできたとしても、二人の子供の面倒を見ながら今まで通りの生活など、乳母がいない状態でこなせるものではない。

 そのうえ父は無能ではなかったけれど、家の中の事になると全て母上任せで、執務室に籠って仕事をしているような人だった。もちろん自分の子供の面倒など見るはずもなく、朝食と夕食を一緒に取る時にしか顔を見ることがないと、子供たちにそう認識される人。

 サーシャ姉様やマデリン姉様に言わせると、お父様は典型的な貴族の男ね、ということだ。

 僕にはよく分からなくて、どうしてと尋ねてみれば、子爵家の当主として領内には心を配ることができるけれど、家の事にも家族にも無関心。けれど嫡男を作らなければならないために、その手の事には積極的で。まあ、だからこそうちは子沢山なわけだけれど。

「あなたを身籠った時のお母様は、いつ見ても倒れてしまいそうで怖かったわ」

 今でも何かの折に、サーシャ姉様はそう言って僕をおびやかす。
 どうもサーシャ姉様自身には、そういうつもりはないようだけれど、悪阻つわりが酷くて何も食べれずにやせ細っていくお母様の話や、安定期に入っても食欲が戻らず寝ている姿が多かったという話を聞かされたうえに、しまいには難産でお母様が死んでしまうかと思ったのよ、なんて言われるのだ。

 けれど、そんな事、僕には関係ないという事も出来ない。

 だってその時、お母様のお腹にいたのは僕だったから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ここからニコル視点、ルーベンス子爵家の話が続きます。

 設定に矛盾があった部分を修正しています。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

21時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

王国一の悪妻は、憎しみあう夫との離縁を心から願う~旦那様、さっさと愛する人と結ばれて下さい。私は私のやり方で幸せになりますので~

ぽんた
恋愛
アン・サンドバーグ侯爵夫人とマイケル・サンドバーグ侯爵は、子どもの頃からの幼馴染みである。しかし、ふたりはずっと憎しみあっているライバルどうし。ふたりは、親どうしが決めた結婚を強いられ、やむなく結婚する。そして、結婚後もかわらず憎しみあっている。結婚の際、アンはマイケルから「おれは、家名を傷つけない程度に好きなことをする。だから、おまえも好きなことをすればいい」と宣言される。結婚後、マイケルは王都にて宰相として活躍し、アンは王都にいるマイケルに代わってサンドバーグ侯爵領を管理している。しかし、王都ではアンは悪女として名高く、社交界で非難と嘲笑の的にされている。そして、マイケルには「まことに愛する人」の存在が。ふたりは、それぞれの仕事や私生活が忙しく、ほとんど会うことのないすれ違いの生活を五年以上もの間続けている。運命に縛られ、抗えないふたり。マイケルはアンを憎み、そしてアンはマイケルを憎む。たまに会ったとしても、アンと目さえ合わせないマイケル。そのマイケルに離縁をして欲しい、と言えないアン。 そんなあるとき、アンは隣接するバークレー公爵領で行われている不正を正す為王都を訪れる。そして、あるパーティーでマイケルが彼の「ほんとうに愛する人」と密会しているのを見てしまう。 愛のない結婚。憎しみあう夫と妻。 しかし、アンの心の底に封印されている真実は……。そして、マイケルの心の奥底の真実は……。 ※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。タイトル変更するかもしれません。ご容赦願います。 ※「小説家になろう」様でも公開する予定です。

処理中です...