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ニコル
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しおりを挟むルーベンス子爵家は子沢山で有名だ。
長女のサーシャ姉様を筆頭に、次女のマデリン、長男で嫡子である僕、三女のバーバラ、次男のアベル、四女のエリス、五女のシルヴィア。
男子二人に女子五人、子供だけで七人になるのだから、確かに子沢山だろう。
何もこんなに子供を作らなくても、とは思うものの、この国では嫡男にしか爵位の継承権がない。だから、連続して女児を生んでしまった母上は、おばあ様やおじい様に相当にプレッシャーを掛けられたに違いなかった。
僕らにとって、祖母や祖父はとても気のいいおばあ様であり、おじい様だった。それはそうだろう、領主の仕事を父上にすべて引き継いで、領の端っこにある山あいの温泉地にこじんまりとした屋敷を建てた二人は、そこで悠々自適な暮らしを送り、時折、子爵家を訪れては孫たちを可愛がるだけでいいのだから。
それに比べると七人の子供がいる母上は、毎日が大変だったことだろうと思う。いくらメイドや執事がいると言っても、所詮は子爵家。
七人全員に乳母が付けられるほどの余裕はなく、サーシャ姉様が生れてからは、赤子の世話に、子爵夫人として家の舵取り、近隣の他領主夫人たちと交流を図り、社交シーズンになれば王都に行き、王家主催の夜会や子爵家、男爵家が中心のお茶会を主催したり参加をしたり、時折招待される高位貴族の夜会には夫婦で参加をし。これに自領での慈善活動やら、そのための資金集めやらが加われば、母上にゆっくりする暇などないよう見えた。
実際、その通りだったのだろう。
次女のマデリンを生んでも、母上の生活は変わらなかった。
いくら若くして子爵家へ嫁いできたとしても、二人の子供の面倒を見ながら今まで通りの生活など、乳母がいない状態でこなせるものではない。
そのうえ父は無能ではなかったけれど、家の中の事になると全て母上任せで、執務室に籠って仕事をしているような人だった。もちろん自分の子供の面倒など見るはずもなく、朝食と夕食を一緒に取る時にしか顔を見ることがないと、子供たちにそう認識される人。
サーシャ姉様やマデリン姉様に言わせると、お父様は典型的な貴族の男ね、ということだ。
僕にはよく分からなくて、どうしてと尋ねてみれば、子爵家の当主として領内には心を配ることができるけれど、家の事にも家族にも無関心。けれど嫡男を作らなければならないために、その手の事には積極的で。まあ、だからこそうちは子沢山なわけだけれど。
「あなたを身籠った時のお母様は、いつ見ても倒れてしまいそうで怖かったわ」
今でも何かの折に、サーシャ姉様はそう言って僕を脅かす。
どうもサーシャ姉様自身には、そういうつもりはないようだけれど、悪阻が酷くて何も食べれずにやせ細っていくお母様の話や、安定期に入っても食欲が戻らず寝ている姿が多かったという話を聞かされたうえに、しまいには難産でお母様が死んでしまうかと思ったのよ、なんて言われるのだ。
けれど、そんな事、僕には関係ないという事も出来ない。
だってその時、お母様のお腹にいたのは僕だったから。
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ここからニコル視点、ルーベンス子爵家の話が続きます。
設定に矛盾があった部分を修正しています。
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