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バーバラ
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しおりを挟むそれからは兎にも角にも怒涛に日々は過ぎていきました。
なぜなら私の手紙を見たエリザベス姉様が、幾つかの本と資料とルーベンス子爵家の領地にいた研究者の卵を連れて、アルトワイス伯爵領にいきなりやってきたからです。
元々行動的な方でしたが、まさかここまでとは思いもしませんでした。
なぜならエリザベス姉様は、一見華奢な体形をしています。
ウエストも細く見事にくびれ、お胸などは巨乳というほどではありませんが、ぽいんぽいんとされています。手足ももちろん折れそうに細く、難点があるとすれば、どうしても領内を見回るために外出が多いので、少しばかり日焼けをしていらっしゃる事でしょうか。
でも私から見たら、とても健康的に見えます。
貴族の奥方としては、白い肌の方が外聞はよろしいのでしょうが、ニコル兄様も特に気にしてはいないようすなので安心です。それに多少の日焼けなら化粧でごまかすこともできますしね。
お二人は結婚されて既に数年が経っております。その間、領地改革に勤しんでいらっしゃったお二人ではありますが、もう一つの貴族の勤めもしっかりと果たしておりました。
今年三歳になるルーベンス子爵家の嫡男シエルと、一歳になったばかりの長女のジゼル。
シエルはルーベンス子爵家の特徴でもある少し暗めのオレンジ色の髪とオパールグ
リーンの瞳をしています。
長女のジゼルは、エリザベス姉様の髪の色でもあるバーガンディレッドの髪とシエルよりも濃い緑色の瞳です。
ローシェンナの髪色とオパールグリーンの瞳の色は、とても不思議なことにルーベンス子爵家の嫡男にしか現れないので、ニコル兄様とシエルはそっくり同じ色合いなのです。
そして、なぜ私がそんな事を考えているのかというと。
「あら! あなた達来ちゃったの?」
アルトワイス伯爵家の二階から聞こえた華やかな声に、一番に反応したのはニコル兄様抱かれたシエルと乳母に抱かれたジゼルでした。
エリザベス姉様は、二人の子供の声に二階から慌てて駆け下りてきます。現在、アルトワイス伯爵領の例のブドウ畑の改革を実施しているエリザベス姉様は、乗馬服を日常的に着ていらっしゃいます。そのため足取りはしっかりとしているので安心ではあるのですが。
「シエル~、ジゼル~元気にしてた?」
ただ少しばかりエリザベス姉様の言葉は平民よりになっております。ちゃんとした場所では、隙のない子爵夫人の姿なので問題はありません。アルトワイス伯爵家も、知識と未だ卵とは言え研究者を連れてきてくれたエリザベス姉様に感謝をしているので、このような恰好で屋敷を闊歩していても、誰も文句はいいません。
それどころか、ジゼルを抱きしめたエリザベス姉様を見て、ほんわかとした表情を浮かべているメイドや執事がいます。
シエルは自分が抱きしめて貰えなかったからか、ちょっぴり拗ねてしまったようです。ニコル兄様が慌てて高い、高いをしてあげました。するとシエルはすぐに笑顔になるのです。
そのシエルの笑顔に、出迎えにいらっしゃったお義父様は柔らかな笑みを浮かべました。
やはり子供は可愛いのですね。
そう考えると、婚家にいるというのに子供の一人も生んでいない私は、どうにも役立たずに思えて仕方がなくなってきました。
リカルド様と心を寄り添わせての結婚であったなら、きっと今頃この屋敷にも幼い笑い声が聞こえていた事でしょうに。
「……バーバラ、どうしたの?」
まるで私が落ち込んでしまった事に気が付いたのか、突然、私の背後にアーカード様が現れました。しかも耳元でそっと囁くものですから、私はびくりとしてしまいます。
それに、何と言ったらいいのでしょう。エリザベス姉様が来て、怒涛の日々を過ごしているうちに、アーカード様が私の名を呼び捨てるようになっていたのです。
アーカード様はリカルド様よりも五つ年上の三十歳で、大人の男性の色気があるのです。
リカルド様は騎士然とした男らしい方ではありましたが、アーカード様は、少し子供っぽ所もありますが、なんというのか、こう今のように落ち着いた声で囁かれると、大人の色気があるというか、なんというか。
とにかく、私はアーカード様に名前を呼び捨てにされると、どうにも落ち着かないのです。
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すみません、話数が逆になっていたようなので入れ替えました。
ニコル兄様がいつきたのか分からないという指摘を受けたので、加筆修正しています。
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