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バーバラ
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「あの時は、本当に、私もアーカードも、ほとんど寝ていなくてね。この屋敷は幸い頑丈な造りだったから、被害は庭が荒れるくらいで済んだよ、下働きもメイドも侍従も執事たちも全員総出で、交代で仮眠を取りつつ領内からの情報を集めたり、他領から建物の修繕のために物資や人を手配したり、それこそ猫の手でも借りたいと思っていたくらい忙しかったね」
一年ほど前の話だというのに、お義父様には鮮明な記憶として残っているようです。
疲れたように目を瞑りながら眉間をぐりぐりと揉んでいる様は、今もまだその問題が頭痛の種だと言っているような気がします。
「その日、いつものように仮眠から起き出して、料理長と一緒に炊き出しの準備をしていた」
そう話し出したお義父様によると、炊き出しの準備をし、いざ街へ向かおうとしたお義父様の前に、一台の豪華な馬車が止まったそうです。馬車の横に刻まれた紋章は、ルシエント侯爵家のもの。
その場は一気に緊張に見舞われたと言います。
ルシエント侯爵領は、アルトワイス伯爵領に他領を一つ挟んでいるくらいの割と近しい領地です。だからアルトワイス伯爵領が災害に見舞われた事も知っているはずでした。いえ、資金の引き上げを指示しているくらいですから、知らないはずはないのです。
そんな伯爵家にルシエント侯爵家の紋章入りの馬車が止まれば、使用人たちも何事かといきり立ったことでしょう。
そんなピリピリとした空気の中、現れたのは真っ赤なドレスを身に纏ったルシエント侯爵令嬢であるアリアンナ・ルシエント侯爵令嬢でした。
「あら、皆様揃ってお出迎え? よく分かっていらっしゃるわね」
アリアンナ様は、護衛騎士のエスコートで馬車を降りると、一言そうおっしゃったそうで。
ざわり、とあたりの空気が揺らいだのは忘れもしない、とお義父様がおっしゃいます。
でも、それは仕方のない事だと思います。だって炊き出しの準備をしていたのですよね? これからお義父様も含め、使用人の皆様も街に炊き出しに行く事になっていたはずです。
だというのに、招かれてもいない、どう見ても手伝いにきたわけでもない令嬢が、そんな事を言ったのです。
でも、いつまでも呆けている訳にもいきません。
予定通り街で炊き出しをするために、使用人を先に行かせ、お義父様はアリアンナ様に対峙されたそうです。
「どういったご用件でのご来訪でしょうか。今、我が領は災害にあった後でしてね、碌なお持て成しもできません。それにルシエント侯爵家からご令嬢との婚約は破棄だと、つい先日ようやく書類と共に信書が送られてきたところですが」
「ごきげんよう、伯爵様、そう、その事で私がわざわざ来たのです。私とアーカード様は愛し合っておりますのに、私の父が仲を引き裂こうと、あんな手紙を!」
お義父様は、唖然としたとおっしゃいました。
どこにですか、と問えば、アーカードと愛し合っている、と言い出した事にだよ、とお答えをいただきました。
アーカード様とアリアンナ様は、婚約のお話しをいただいてから、数回しかお会いしていないそうです。なぜかと言えば、社交界が大好きなアリアンナ様は、一年のほとんどを王都のタウンハウスでお過ごしになっていられるからだそうです。
それでは確かに伯爵領にいらっしゃるアーカード様とは、何度もお会いすることは出来ないでしょう。
だと言うのに、平気で嘘を口にするのですね。私も驚いてしまいます。
「だとしても婚約破棄を言い渡されたのです。今は、ごたごたしているのでもう少し時間がかかりますが、書類にはサインをしてお送りします。だから本日はお帰りいただけないでしょうか」
本来、伯爵家の当主と侯爵家の令嬢であれば、当然ご当主様の方が位は上です。なぜなら侯爵家の令嬢だとしても本人にはなんの爵位もないからです。これは良く勘違いされがちですが、【 侯爵 】令嬢であるから、周囲は敬意を払うのであって、なんの爵位もない、功績もない文句や我儘ばかりを言うただの令嬢に、誰が敬意を払うというのでしょう。
「私はアーカード様とお話をしに来たのです! ちゃんとお話をすれば分かって頂けるはずですわ。ですから帰るなどありえません」
そんな事をいいながらアリアンナ様はお義父様を押しのけて、屋敷に入ってしまったそうです。もちろん慌てたのは言うまでありません。
アリアンナ様のメイド二人も騎士たちも、お義父様よりも先にアリアンナ様を追いかけて屋敷に入っていく姿に、お義父様は更に呆然としたそうです。
それはそうでしょう。
ここは他家の屋敷です。いくら自分たちの主が見下しているとはいえ、当主を蔑ろにしていいはずがありません。もちろんお義父様の背後で控えておりました家令のメイソンさんは、怒りに震え、ならず者達をーーどうやらメイソンさんの中で彼らはならず者になってしまったらしいですーーを追いかけました。
ただ、悲劇はそこで治まりませんでした。
アルトワイス伯爵家の屋敷に潜り込んだアリアンナ様は、あろうことかアーカード様を探して回り、仮眠を取られていたアーカード様が、余りの騒々しさに部屋から顔を出してしまい、アリアンナ様に遭遇。
黄色い声をあげアーカード様に抱き着こうとしたアリアンナ様でしたが、後を追ってきた家令のメイソンが華麗に阻止するも、二人の間に距離はそれほどありません。
アリアンナ様がお義父様におっしゃった事を再び訴え、愛し合っているはずのアーカード様はいっそ見事なほどに嫌そうに表情を歪め、声を出さずに「寝言は寝て言え」とおっしゃっていたとかいないとか。
ただアーカード様が無言でいたせいでしょうか、アリアンナ様は我が意を得たりと思ったのでしょう。
「私の部屋を用意していただける? もちろん日当たりのいいお部屋がいいわ」
再び唖然、茫然としたお義父様とメイソンさんです。
アルトワイス伯爵領は災害にあって半月も経ってはいません。
ルシエント侯爵家から資金を引き揚げられたとは言っても、彼らが出していたのは、例のブドウ畑のみです。
私とリカルド様の結婚が問題なく交わされたので、ルシエント侯爵家に煩わされることもないだろうと思っていた矢先の、アリアンナ様の襲来にはきっと頭が痛くなる思いがしたでしょう。
それでも仕方なく部屋を用意したのは、ルシエント侯爵家のご令嬢をそのまま外に放り出すわけにもいかず、またルシエント侯爵家に連絡を入れるためでした。
「結局、ルシエント侯爵家の嫡男が令嬢を迎えに来てね……、婚約破棄の書類にサインするのを全力で嫌がるし、最後にはタウンハウスで生活するための費用は出さないとまで兄君に言われて、ようやくサインしたのだよ」
私もお義父様のお話を聞いているだけで疲れてしまいました。それに対処しなくてはならなかったお義父様やアーカード様のことを考えると、とても尊敬します。私ではきっと対処することなんて無理でしょうから。
「ああ、なんでこんな話をしているのだろうね。今日はもう疲れただろう? 夕食も部屋に運ばせるから、お風呂にでも浸かってゆっくりして、早くお休み」
そうでした。どうやら私たちは随分と長いこと話をしていたようです。応接間の外を見れば、昼過ぎ到着したというのに、空が夕暮れの茜色に染まっています。
考えてみれば、官舎から出て乗合馬車に揺られての五日間でした。
乗合馬車は、早朝に出発して昼過ぎに次の街(町)に到着します。お昼の休憩を挟みまた次の街へ。そしてその町で一泊し、また早朝に町を出るのです。
ルーベンス子爵領から王都に向かった時は、お父様が私の荷物と一緒に色々と手配をしてくれましたので、王都まで三日間で行く事が出来ました。単純に、ルーベンス子爵領の方が王都にアルトワイス伯爵領よりも近いのもありますが、乗合馬車でなかったのも大きかったのでしょう。
でも、さすがに疲れました。
お義父様のおっしゃるように、お風呂をいただいて夕食を食べましたら、お休みさせていただきましょう。
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ここで一区切りな感じになりました。
一年ほど前の話だというのに、お義父様には鮮明な記憶として残っているようです。
疲れたように目を瞑りながら眉間をぐりぐりと揉んでいる様は、今もまだその問題が頭痛の種だと言っているような気がします。
「その日、いつものように仮眠から起き出して、料理長と一緒に炊き出しの準備をしていた」
そう話し出したお義父様によると、炊き出しの準備をし、いざ街へ向かおうとしたお義父様の前に、一台の豪華な馬車が止まったそうです。馬車の横に刻まれた紋章は、ルシエント侯爵家のもの。
その場は一気に緊張に見舞われたと言います。
ルシエント侯爵領は、アルトワイス伯爵領に他領を一つ挟んでいるくらいの割と近しい領地です。だからアルトワイス伯爵領が災害に見舞われた事も知っているはずでした。いえ、資金の引き上げを指示しているくらいですから、知らないはずはないのです。
そんな伯爵家にルシエント侯爵家の紋章入りの馬車が止まれば、使用人たちも何事かといきり立ったことでしょう。
そんなピリピリとした空気の中、現れたのは真っ赤なドレスを身に纏ったルシエント侯爵令嬢であるアリアンナ・ルシエント侯爵令嬢でした。
「あら、皆様揃ってお出迎え? よく分かっていらっしゃるわね」
アリアンナ様は、護衛騎士のエスコートで馬車を降りると、一言そうおっしゃったそうで。
ざわり、とあたりの空気が揺らいだのは忘れもしない、とお義父様がおっしゃいます。
でも、それは仕方のない事だと思います。だって炊き出しの準備をしていたのですよね? これからお義父様も含め、使用人の皆様も街に炊き出しに行く事になっていたはずです。
だというのに、招かれてもいない、どう見ても手伝いにきたわけでもない令嬢が、そんな事を言ったのです。
でも、いつまでも呆けている訳にもいきません。
予定通り街で炊き出しをするために、使用人を先に行かせ、お義父様はアリアンナ様に対峙されたそうです。
「どういったご用件でのご来訪でしょうか。今、我が領は災害にあった後でしてね、碌なお持て成しもできません。それにルシエント侯爵家からご令嬢との婚約は破棄だと、つい先日ようやく書類と共に信書が送られてきたところですが」
「ごきげんよう、伯爵様、そう、その事で私がわざわざ来たのです。私とアーカード様は愛し合っておりますのに、私の父が仲を引き裂こうと、あんな手紙を!」
お義父様は、唖然としたとおっしゃいました。
どこにですか、と問えば、アーカードと愛し合っている、と言い出した事にだよ、とお答えをいただきました。
アーカード様とアリアンナ様は、婚約のお話しをいただいてから、数回しかお会いしていないそうです。なぜかと言えば、社交界が大好きなアリアンナ様は、一年のほとんどを王都のタウンハウスでお過ごしになっていられるからだそうです。
それでは確かに伯爵領にいらっしゃるアーカード様とは、何度もお会いすることは出来ないでしょう。
だと言うのに、平気で嘘を口にするのですね。私も驚いてしまいます。
「だとしても婚約破棄を言い渡されたのです。今は、ごたごたしているのでもう少し時間がかかりますが、書類にはサインをしてお送りします。だから本日はお帰りいただけないでしょうか」
本来、伯爵家の当主と侯爵家の令嬢であれば、当然ご当主様の方が位は上です。なぜなら侯爵家の令嬢だとしても本人にはなんの爵位もないからです。これは良く勘違いされがちですが、【 侯爵 】令嬢であるから、周囲は敬意を払うのであって、なんの爵位もない、功績もない文句や我儘ばかりを言うただの令嬢に、誰が敬意を払うというのでしょう。
「私はアーカード様とお話をしに来たのです! ちゃんとお話をすれば分かって頂けるはずですわ。ですから帰るなどありえません」
そんな事をいいながらアリアンナ様はお義父様を押しのけて、屋敷に入ってしまったそうです。もちろん慌てたのは言うまでありません。
アリアンナ様のメイド二人も騎士たちも、お義父様よりも先にアリアンナ様を追いかけて屋敷に入っていく姿に、お義父様は更に呆然としたそうです。
それはそうでしょう。
ここは他家の屋敷です。いくら自分たちの主が見下しているとはいえ、当主を蔑ろにしていいはずがありません。もちろんお義父様の背後で控えておりました家令のメイソンさんは、怒りに震え、ならず者達をーーどうやらメイソンさんの中で彼らはならず者になってしまったらしいですーーを追いかけました。
ただ、悲劇はそこで治まりませんでした。
アルトワイス伯爵家の屋敷に潜り込んだアリアンナ様は、あろうことかアーカード様を探して回り、仮眠を取られていたアーカード様が、余りの騒々しさに部屋から顔を出してしまい、アリアンナ様に遭遇。
黄色い声をあげアーカード様に抱き着こうとしたアリアンナ様でしたが、後を追ってきた家令のメイソンが華麗に阻止するも、二人の間に距離はそれほどありません。
アリアンナ様がお義父様におっしゃった事を再び訴え、愛し合っているはずのアーカード様はいっそ見事なほどに嫌そうに表情を歪め、声を出さずに「寝言は寝て言え」とおっしゃっていたとかいないとか。
ただアーカード様が無言でいたせいでしょうか、アリアンナ様は我が意を得たりと思ったのでしょう。
「私の部屋を用意していただける? もちろん日当たりのいいお部屋がいいわ」
再び唖然、茫然としたお義父様とメイソンさんです。
アルトワイス伯爵領は災害にあって半月も経ってはいません。
ルシエント侯爵家から資金を引き揚げられたとは言っても、彼らが出していたのは、例のブドウ畑のみです。
私とリカルド様の結婚が問題なく交わされたので、ルシエント侯爵家に煩わされることもないだろうと思っていた矢先の、アリアンナ様の襲来にはきっと頭が痛くなる思いがしたでしょう。
それでも仕方なく部屋を用意したのは、ルシエント侯爵家のご令嬢をそのまま外に放り出すわけにもいかず、またルシエント侯爵家に連絡を入れるためでした。
「結局、ルシエント侯爵家の嫡男が令嬢を迎えに来てね……、婚約破棄の書類にサインするのを全力で嫌がるし、最後にはタウンハウスで生活するための費用は出さないとまで兄君に言われて、ようやくサインしたのだよ」
私もお義父様のお話を聞いているだけで疲れてしまいました。それに対処しなくてはならなかったお義父様やアーカード様のことを考えると、とても尊敬します。私ではきっと対処することなんて無理でしょうから。
「ああ、なんでこんな話をしているのだろうね。今日はもう疲れただろう? 夕食も部屋に運ばせるから、お風呂にでも浸かってゆっくりして、早くお休み」
そうでした。どうやら私たちは随分と長いこと話をしていたようです。応接間の外を見れば、昼過ぎ到着したというのに、空が夕暮れの茜色に染まっています。
考えてみれば、官舎から出て乗合馬車に揺られての五日間でした。
乗合馬車は、早朝に出発して昼過ぎに次の街(町)に到着します。お昼の休憩を挟みまた次の街へ。そしてその町で一泊し、また早朝に町を出るのです。
ルーベンス子爵領から王都に向かった時は、お父様が私の荷物と一緒に色々と手配をしてくれましたので、王都まで三日間で行く事が出来ました。単純に、ルーベンス子爵領の方が王都にアルトワイス伯爵領よりも近いのもありますが、乗合馬車でなかったのも大きかったのでしょう。
でも、さすがに疲れました。
お義父様のおっしゃるように、お風呂をいただいて夕食を食べましたら、お休みさせていただきましょう。
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ここで一区切りな感じになりました。
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