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バーバラ

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 伯爵領ではブドウの栽培が盛んに行われ、品種改良も積極的に行っているそうなのです。

 けれど品種改良には時間とお金がかかります。それはルーベンスでも同じだったのでよく分かります。
 土壌の改良をしても農作物は直ぐに収穫ができるわけではありません。作付けの早いものでも半年はかかるのです。それに今までとやり方を変えようとすると反発する農家も出てくるのです。

 エリザベス姉様は、根気強く相手を説得し、少しずつ、少しずつ農地の土壌を改良されました。

 そんな血の滲むような努力は、お義父さまの領地でも行われてきたのでしょう。

 少しでも味のいいワインを作ることは出来ないだろうか。
 ほかで作られているワインとは違った特色を出すことは出来ないだろうかと。
 たぶん豚肉の方も同じことでしょう。

 ルシエント侯爵家は、ワインや豚の畜産ーーかなり質のいい豚肉が取れるようですが、丁寧に飼育しているため数を増やすのが難しく、ベーコンや腸詰、生ハムなどが高級加工肉として王都で出回っているらしいですーーで、領が潤っているアルトワイス伯爵家が目を付けられたんだろうね、とお義父さまはおっしゃいます。

 資金提供という形で利を得ようとし、次期当主であるアーカード様と令嬢を婚約させれば更なる益を手に入れられるだろうと、半ば押し付けるようにして成された婚約だったといいます。

 そして残念な事に、お義父様にもアーカード様にも、それを拒絶する術はありませんでした。

 貴族の間では、どうしても爵位がものを言います。伯爵であるお義父様は、侯爵家の意に反する事ができなかったのでしょう。せめて辺境伯であったなら、侯爵と位が変わりませんので、対処のしようもあったのでしょうが。

 ちなみに今、品種改良しているブドウは、赤ワイン用のブドウよりもだいぶ色味が薄く、昨年、作付けした分で作ったものはピンク色のワインになっているとの事でした。

 ピンク色のワインなんて、私も見たことがありません。

 しかも、それの甘味を強くしてデザートのようなワインにすることは出来ないか、もしくは泡が出るワインを作ることが出来ないかと、更に研究中でもあるそうです。

 デザートのようなワインも泡が出るワインも、どちらも成功すれば莫大な利益を上げることができるでしょう。

 けれど今回の災害で、そのピンク色のワインのための畑が被害にあってしまいました。
 ルシエント侯爵家は被害を聞いてすぐさま損得計算をしたのでしょう。
 もちろん白ワイン用も赤ワイン用の畑も被害は出ているそうです。しかし、こちらの畑は分散して作られているため、領全体を見れば、まだ何とかできる範囲で治まっているとのこと。
 しかしピンク色のワインの畑はまだ実験段階だったため、そこにしか植えておらず、かなり被害を受けてしまったーー天災で仕方がない事とは言え、私も残念に思ってしまいます。

 そのブドウ畑に資金提供をしていたルシエント侯爵家は、すぐさま資金提供の引き上げを決定し実行。

 ただ、すでに提供された資金の一部は使われており、全額返済はすぐには無理な話だというのに、全額返済しろとルシエント侯爵家は強硬な態度を見せ、令嬢との婚約も破棄すると一方的に言ってきたそうです。

 そして勝手に破棄しておきながら、アルトワイス伯爵家の有責での破棄になるから、慰謝料を寄越せと厚かましい事を言ってきていたのだとか。

 あまりにも一方的ではありませんか。

 確かに資金を提供されているのですから、その畑がダメになったと聞いたら手を引くのも分かります。投資は慈善事業でありませんし、利益が見込めないなら撤退することもあるでしょう。お金は有限なものですから。

「それとね、嫌がらせ、という部分もあったと思うんだ」
「嫌がらせ?」

 お義父様はそう言うと、ため息をつきました。

「そう、嫌がらせ。実はね資金提供と共に、人材も派遣してくれていたのだよ。ほら、うちの国の学院は、専門的なものを研究する大学院があるだろう? そこの出身者を数名派遣してくれていてね」

 私は王都にある貴族用の学校ーー王立の学院に行くことは叶いませんでしたが、嫡男であるニコル兄様と次男であるアベルは、通っておりました。通っていたとは言いますが、全寮制の学院でしたので寮生活をなさっていたのですけれど。
 
 ニコル兄様は優秀だったようで、三年の学院生活のあと、お義父様のおっしゃる大学院へ二年通い、農業についての研究をなさっていたのだとか。

「ルシエント侯爵家とどういう契約をしてうちに派遣されてきたのかは分からなかったけれど、居心地が良かったんだろうねぇ、彼らはルシエント侯爵家との契約は打ち切って、うちで働きたいと言ってくれて。うちとしてはとても嬉しい事だったんだけど、ルシエント侯爵家としてはね」
「ええ、そうですわね」

 私はこくりと頷いて見せますが、少し良く分かりません。

 優秀な人材を流出させるのは、確かに痛手でしょうけれど。

「後でよく聞いてみたら、うちに派遣するためだけに用意された人材だったらしくて、例のブドウ畑の、というよりも品種改良された結果を、ルシエント侯爵家に持って帰らないと研究資金を支援しないと言われていたらしくてね」
「?」
「彼らも自分たちが研究している分野というものがあるんだ。そして研究というものは、やはりお金がかかるものでね。ルシエント侯爵家はあのブドウ畑の技術を手にし、彼らは自分たちの資金を得る、と」

 ピンク色のワインが作れるブドウですものね。この国の中でも、たぶんアルトワイス伯爵領でしか作られてはいないのではないでしょうか。まだ色々と試作段階だという話でもありますし、今のうちに技術を手に入れられることができれば、自分たちの領でも作ることができるかもしれません。

 なるほど、と私は思います。

 その研究者さんたちは、スパイだったという事ですね。
 でも、アルトワイス伯爵家の扱いの方が良かったために、アルトワイス伯爵家に寝返った、と。

「まあ、ルシエント侯爵家としては面白くないだろうね。資金提供も人材の派遣も、改良したうちのブドウを手に入れるためだったんだろうし。けれどルシエント侯爵家としては、表立ってはうちに資金提供しているだけで、そんな悪だくみは考えていません、って体だから、うちが災害に見舞われた時に、嫌がらせに資金引き上げしてやろうとでも思ったのだろうかね」

 それだとしても、災害に合われた伯爵領に追い打ちをかけるように、そういう手段を取るなんて、なんて酷い行いでしょう。

「だからね、ルシエント侯爵家が資金の引き上げなどしなかったなら、うちにある資産で復興することもできたんだけどね」

 そう言って、お義父様が遠い目をなさいました。

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 一部設定が矛盾している箇所がありましたので削除しました。
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