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バーバラ
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しおりを挟む「バーバラさん、なんて、ことを言うんだね……」
お義父様に、とうとう泣かれてしまいました。
お義父様は、滂沱の涙を流しがら口を開こうとするのですが、泣きすぎてお話ができる状態ではないようです。
するといきなりドゴッという音がアーカード様の方から聞こえました。
びっくりしてアーカード様を見れば、どうやらソファのアームに拳を叩きつけた音だったようです。
「あんの、馬鹿野郎、何考えてんだ。バーバラさんは何も悪くないだろうが、それなのに」
アーカード様は呻くように、少々乱雑な言葉を吐き出されました。
リカルド様は見事な体躯を持つ美丈夫でしたけれど、アーカード様もリカルド様とはまた違った方向の麗しさを持った方だと思います。
そんな方が眉間に皺を寄せて、私のために怒りを覚えてくれている。それを怖いとは思いません。
先ほどだって、自分ではリカルド様を殴ることは出来ないけれど、羽交い絞めするから私が平手打ちすればいいなんて言ってくださったのです。
アーカード様は、きっと他人を思いやれる優しい方なのでしょう。
だから私は、そんなに怒らないでくださいと、思ってしまいます。だって私は最初から分かっておりましたもの。
「最初から分かっておりましたから、そうお怒りにならないでくださいアーカード様」
そのまま口にすれば、アーカード様はとても悔しそうに唇を噛み締めました。
ああ、せっかく綺麗な唇をしておりますのに、傷がついてしまいます。
私はそんな事が気になりましたが、男性であるアーカード様は全く気にしてはいないようでした。
そして、やはり、私を気遣う言葉をかけてくれるのです。
「そう言ったって、結婚した相手を一年も放っておいて、いきいなり官舎を追い出して実家に行けだなんて、あんまりだろう? いくら相手が気に入らなかったとしても、うちが支援を受けるために成された結婚じゃないか」
私は優しいアーカード様の言葉に嬉しさを感じますが、その感情を相手に見せることはしませんでした。
「ええ、そうですわね。でも政略結婚というものは、そういうものでございましょう?」
背筋をピンと伸ばして、私はさも当然のように言い放ちます。
私は、エリザベス姉様ほど教養もマナーも身についてはいないと思っておりますけれど、それでも貴族とはどういったものであるのか、自分たちは何のためにいるのか、私は、いえ私たちは父や母から教わってきているつもりです。
それは恋愛結婚したサーシャ姉様もマデリン姉様も同じだと思っております。しかし、家のため、ひいては家族や領民のため、少しでも有利になるように、少しでも益になるように。
旦那様になる人を想っていたとしても、頭の隅にはその考えが必ずあったはずなのです。
それは貴族子女として生まれて、当然の考え方です。
それに私は、私の我儘で家のための早く結婚しなければいけないのに、あれだけ引き延ばしたのです。
もしかしたら一生誰とも結婚することなく、家の役にも立つことができないかもしれないと思っていたくらいなのです。
それが我が家のため、伯爵領の領民のために、リカルド様と結婚することになりました。
ああ、私もこれで役に立つことができるのだと、そう思ったのですけれど。
だからこそ、この結婚に異議を唱えようとは思いませんでした。
けれど、今振り返ってみると、結婚という形でなくてもよかったのかもしれません。
でも、たぶん、伯爵領を助けたいという善意だけでは、父も無償でお金を渡すわけにもいかなかったのでしょう。
「実を言えば、君の父上には君たちの結婚後にも、助けて貰っているんだ」
ぽつりと零れた言葉は、アルトワイス伯爵からで。
「娘の嫁いだ先が苦労しているなら、手を貸してやらなくては、と言ってくれてな」
「本当に助かったんだ。おかげで我が領はだいぶ持ち直してきている。あともう少しなんだ。領民もちゃんと分かってくれているから、今は懸命に復興しようと努力してくれている。そして恩を必ず返すんだと……なのに」
ああ、お父様。お父様はやっぱり立派な貴族ですのね。そう思うと私は嬉しくなっている自分に気が付きました。
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