10 / 66
バーバラ
10
しおりを挟む
「……いきなり済みません、泣くつもりはなかったのですけれど……」
そう言ってアーカード様から差し出されたハンカチに、涙を吸わせ深呼吸をひとつ。
私は今回の事で、心に決めた事があるのです。それは私一人の事ではないので、お義父様にも聞いていただければなりません。
「お義父様、お願いがございます」
そう言って、お義父様を見つめれば、お義父様まで少し涙ぐんでおりました。何故お義父様まで、とは思いますが、話を進めるために私はそのまま話を続けます。
「リカルド様と結婚をしてから、ほぼ一年になりますが、リカルド様と私はベッドを共にしておりません。今回のことで、リカルド様は私と一緒に居る事が嫌なのではないかと思いました。ですので、少々時間はかかりますが、あと二年このままの状態であれば、【 白い結婚 】を申し出ることができます。教会も認めて下さるでしょう、そうすればリカルド様を煩わせることなく離縁が可能となります。ですので、どうかこのまま、今しばらくここに置いていただけませんでしょうか。」
「……」
「……」
私の言葉に、お二人とも黙ってしまわれました。
それも当然の事だと思います。
女の私から離縁を口にするなんてこと、貴族社会の中でははしたない事であり、あってはいけない事なのです。
私たち貴族の子女は、子供時分は親に従い、結婚したら夫に従えと教えられます。
幸い我が家では理不尽さを感じることもなかったので、その教えも当然の事として受け止めておりました。
けれど、こうなってみて思います。
一度、結婚してしまったら、どんなに理不尽な扱いを受けても、たとえ暴力を振るわれたとしても、女性から離縁など口にすることは本来できないのです。
もし離縁ができるとしたら、何年経ってもお子が生まれない場合や、旦那様に離縁に申し付けられた時だけです。
嫡男を必要とする貴族の家では、お子を作るのは義務となります。そのため、妻が子を成せない場合、愛人を屋敷に住まわせることもあるそうです。
我が国は一夫一婦制ではあるのですけれど、子が成せない妻などいる意味がないとばかりに、愛人を囲う殿方も多いと聞きまーー中には、子を成していても愛人を囲う方もいるようですが。
家同士の政略結婚だと、なおさらその傾向が強まります。
本来であれば、リカルド様が望まなければ離縁など成立しないでしょう。
もしリカルド様が離縁を望まれたとしても、アルトワイス伯爵家から籍を抜いていないリカルド様の意見は、当主であるアルトワイス伯爵様に拒否されれば、やはり成立しないのです。
けれど【 白い結婚 】です。
夫婦としての営みが無いことを告白するのは、私も気恥ずかしくはありますが、【 白い結婚 】を申し立てる事だけが、女性側に唯一許された離縁の方法ですから仕方がないのですけれど。
しかし今回の結婚は、アルトワイス伯爵家を助けるためのものでした。ですからお義父様が離縁に渋るのは当然だと思います。だから私は言葉を続けます。
「もちろん、それで持参金を返せなどとは申しません。ただ少なくない金額ではありますので、融資という形でお貸ししていることにして、無利息で構いませんので、領が再興しましたらルーベンス子爵家へ徐々に返済ねがえればと」
お父様には確認しておりませんが、私がこう言っても怒りはしないでしょう。元々、私の結婚は諦めかけていた父です。少々外聞は悪いですが、王都で社交にでも出ない限り私が煩わされる心配はないですし、【 白い結婚 】であると認められれば、王都にいる令嬢たちに気づかれる事はありません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もう少し短いお話しの予定でしたが、山場までまだ少しかかりそうです。
というよりもちゃんとざまぁできるといいのですが。
そう言ってアーカード様から差し出されたハンカチに、涙を吸わせ深呼吸をひとつ。
私は今回の事で、心に決めた事があるのです。それは私一人の事ではないので、お義父様にも聞いていただければなりません。
「お義父様、お願いがございます」
そう言って、お義父様を見つめれば、お義父様まで少し涙ぐんでおりました。何故お義父様まで、とは思いますが、話を進めるために私はそのまま話を続けます。
「リカルド様と結婚をしてから、ほぼ一年になりますが、リカルド様と私はベッドを共にしておりません。今回のことで、リカルド様は私と一緒に居る事が嫌なのではないかと思いました。ですので、少々時間はかかりますが、あと二年このままの状態であれば、【 白い結婚 】を申し出ることができます。教会も認めて下さるでしょう、そうすればリカルド様を煩わせることなく離縁が可能となります。ですので、どうかこのまま、今しばらくここに置いていただけませんでしょうか。」
「……」
「……」
私の言葉に、お二人とも黙ってしまわれました。
それも当然の事だと思います。
女の私から離縁を口にするなんてこと、貴族社会の中でははしたない事であり、あってはいけない事なのです。
私たち貴族の子女は、子供時分は親に従い、結婚したら夫に従えと教えられます。
幸い我が家では理不尽さを感じることもなかったので、その教えも当然の事として受け止めておりました。
けれど、こうなってみて思います。
一度、結婚してしまったら、どんなに理不尽な扱いを受けても、たとえ暴力を振るわれたとしても、女性から離縁など口にすることは本来できないのです。
もし離縁ができるとしたら、何年経ってもお子が生まれない場合や、旦那様に離縁に申し付けられた時だけです。
嫡男を必要とする貴族の家では、お子を作るのは義務となります。そのため、妻が子を成せない場合、愛人を屋敷に住まわせることもあるそうです。
我が国は一夫一婦制ではあるのですけれど、子が成せない妻などいる意味がないとばかりに、愛人を囲う殿方も多いと聞きまーー中には、子を成していても愛人を囲う方もいるようですが。
家同士の政略結婚だと、なおさらその傾向が強まります。
本来であれば、リカルド様が望まなければ離縁など成立しないでしょう。
もしリカルド様が離縁を望まれたとしても、アルトワイス伯爵家から籍を抜いていないリカルド様の意見は、当主であるアルトワイス伯爵様に拒否されれば、やはり成立しないのです。
けれど【 白い結婚 】です。
夫婦としての営みが無いことを告白するのは、私も気恥ずかしくはありますが、【 白い結婚 】を申し立てる事だけが、女性側に唯一許された離縁の方法ですから仕方がないのですけれど。
しかし今回の結婚は、アルトワイス伯爵家を助けるためのものでした。ですからお義父様が離縁に渋るのは当然だと思います。だから私は言葉を続けます。
「もちろん、それで持参金を返せなどとは申しません。ただ少なくない金額ではありますので、融資という形でお貸ししていることにして、無利息で構いませんので、領が再興しましたらルーベンス子爵家へ徐々に返済ねがえればと」
お父様には確認しておりませんが、私がこう言っても怒りはしないでしょう。元々、私の結婚は諦めかけていた父です。少々外聞は悪いですが、王都で社交にでも出ない限り私が煩わされる心配はないですし、【 白い結婚 】であると認められれば、王都にいる令嬢たちに気づかれる事はありません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もう少し短いお話しの予定でしたが、山場までまだ少しかかりそうです。
というよりもちゃんとざまぁできるといいのですが。
87
お気に入りに追加
5,904
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから
水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」
「……はい?」
子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。
だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。
「エリオット様と別れろって言っているの!」
彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。
そのせいで、私は怪我をしてしまった。
いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。
だって、彼は──。
そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。
kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」
父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。
我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。
用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。
困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。
「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。
けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。
悪夢はそれで終わらなかった。
ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。
嵌められてしまった。
その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。
裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。
※他サイト様でも公開中です。
2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。
本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる