6 / 66
バーバラ
6
しおりを挟む
本の価値に気づいた私は、せっせと小物を作って売りました。けれど小物の売り上げ程度で本を買うことは出来ません。少しずつ貯めたお金で貸本屋に行って、本を借りればいいと私は気が付きました。
けれどこういった生活は、結婚したらできなくなってしまいます。
そう思っていた私は、できるだけ婚期を引き延ばして、引き延ばして、エリスが結婚しても、シルヴィアに婚約者が出来ても一人でいたのです。
その事に後悔はありません。
年に数回ある王家主催の夜会やお茶会で、どんなに陰口を叩かれてもあまり気にはなりませんでした。けれど、そのせいでしょうか。このような事になってしまったのは。
この国の貴族の令嬢の婚期は、14歳から20歳くらいまでとされています。それを過ぎれば行き遅れと呼ばれ、身体に何か欠陥でもあるのではないかとか好き勝手に言われます。
私は22歳になるまで結婚しませんでした。本当はもっと延ばせる事なら延ばしたいと思ったのですけれど、お父様に「そろそろ結婚しないか?」と泣きつかれてしまうと、頷かない訳にもいかなくて。
そこで結婚相手として引き合わされたのが、リカルド・アルトワイス伯爵令息でした。
リカルド様は伯爵家の次男という事で、伯爵家はお兄様が継ぐため十五の頃から騎士団に所属していたそうです。
鍛えられた身体はとても逞しく、短く揃えられた鈍色の髪とセルリアンブルーの瞳が印象的な美丈夫でした。
けれど初めて引き合わされた彼の表情は、不本意だとでもいうかのように憮然としており、私の顔も強張ります。
愛想など振りまけるような空気ではなかったのです。
私に結婚したいという願望はありませんでしたが、結婚とは、サーシャ姉様やエリザベス姉様のように、旦那様と一緒に協力して生活していくものだと、そう思っていたのです。
しかしリカルド様の表情を見る限りだと、そうもいかないかもしれません。
けれどこの結婚話は、アルトワイス伯爵家から申し出てきたものです。
どうやらアルトワイス伯爵家は、領地が天災にあってしまい、借金をしなくては村や街などの復興もままならない状態だというのです。
我が家はエリザベス姉様とお兄様のおかげで、この頃には生活にだいぶゆとりがありました。それにアルトワイス伯爵とルーベンス子爵である父とは、学友だったそうで、若かりし頃はよくやんちゃしたものだよ、などと二人して笑っていらっしゃいましたので、気心は知れているのでしょう。
けれど互いに面識のない私とリカルド様には、結局のところ、私の持参金を目的とした契約結婚のようなものでしかありません。リカルド様は次男である自分が、そんな役目を課される事に納得がいってなかったのだと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
けれどこういった生活は、結婚したらできなくなってしまいます。
そう思っていた私は、できるだけ婚期を引き延ばして、引き延ばして、エリスが結婚しても、シルヴィアに婚約者が出来ても一人でいたのです。
その事に後悔はありません。
年に数回ある王家主催の夜会やお茶会で、どんなに陰口を叩かれてもあまり気にはなりませんでした。けれど、そのせいでしょうか。このような事になってしまったのは。
この国の貴族の令嬢の婚期は、14歳から20歳くらいまでとされています。それを過ぎれば行き遅れと呼ばれ、身体に何か欠陥でもあるのではないかとか好き勝手に言われます。
私は22歳になるまで結婚しませんでした。本当はもっと延ばせる事なら延ばしたいと思ったのですけれど、お父様に「そろそろ結婚しないか?」と泣きつかれてしまうと、頷かない訳にもいかなくて。
そこで結婚相手として引き合わされたのが、リカルド・アルトワイス伯爵令息でした。
リカルド様は伯爵家の次男という事で、伯爵家はお兄様が継ぐため十五の頃から騎士団に所属していたそうです。
鍛えられた身体はとても逞しく、短く揃えられた鈍色の髪とセルリアンブルーの瞳が印象的な美丈夫でした。
けれど初めて引き合わされた彼の表情は、不本意だとでもいうかのように憮然としており、私の顔も強張ります。
愛想など振りまけるような空気ではなかったのです。
私に結婚したいという願望はありませんでしたが、結婚とは、サーシャ姉様やエリザベス姉様のように、旦那様と一緒に協力して生活していくものだと、そう思っていたのです。
しかしリカルド様の表情を見る限りだと、そうもいかないかもしれません。
けれどこの結婚話は、アルトワイス伯爵家から申し出てきたものです。
どうやらアルトワイス伯爵家は、領地が天災にあってしまい、借金をしなくては村や街などの復興もままならない状態だというのです。
我が家はエリザベス姉様とお兄様のおかげで、この頃には生活にだいぶゆとりがありました。それにアルトワイス伯爵とルーベンス子爵である父とは、学友だったそうで、若かりし頃はよくやんちゃしたものだよ、などと二人して笑っていらっしゃいましたので、気心は知れているのでしょう。
けれど互いに面識のない私とリカルド様には、結局のところ、私の持参金を目的とした契約結婚のようなものでしかありません。リカルド様は次男である自分が、そんな役目を課される事に納得がいってなかったのだと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
98
お気に入りに追加
5,903
あなたにおすすめの小説
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる