旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり

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バーバラ

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 嫡男であるのニコル兄様も、裕福な男爵家のご令嬢と結婚し、かなりの持参金が我が家に入りました。
 もちろんそれは、彼女が婚家でも苦労しないようにするためのものですが、彼女はそのお金を我が家が預かっている領地に使ってくれたのです。

 農地を開墾し、新たな土地を増やし、作物の生育をよくするために土壌を改良し。
 元々そういう事が好きなのよ、とニコル兄様と二人で領地経営をこなしている兄嫁のエリザベス姉様は、快活に笑ってそう言ってくれました。あまりにも出来た人で、兄にはもったいないくらいです。

 そして我が家は少しばかり余裕ができました。

「このままいけばバーバラにもエリスにもシルヴィアにも、ちゃんと持参金を持たせてあげられるわ」

 エリザベス姉様にそう言われた時には、本当に頭が上がりませんでした。

 三女である私は、きっと結婚などできないと思っていたのです。

 だからこそ私は手に職をつけようと思いました。けれど貴族子女に力仕事はできません。

 屋敷の家令に無理を言って、メイドの仕事を一通り体験してもみましたが、洗濯は重労働、掃除も簡単そうに見えて難しく、料理と裁縫だけはなんとかこなすことができました。

 ただ料理に関しては、鳥を捌いたりは出来なかったのです。特に血に塗れた内臓を見たときには、私、失神してしまいました。

 おかげで料理長には「貴族のお嬢様じゃ、しょうがないですよ。それでもお嬢様が料理をする事になったら、最初から捌いてあるものを仕入れるしかありませんな」なんて笑われてしまいましたけれど。

 唯一何とかなりそうで、令嬢としても遜色のない、裁縫ーー刺繍やレース編み等に力を入れることにしたのは当然と言えば当然の事でした。

 そして手慰みのように毎日、毎日色々な小物を作っておりましたら、サーシャ姉様の旦那様が、これだけのものなら売ってみてもいいかもしれない、とおっしゃてくれたのです。

 私が作り出すものは、ほんの小さなワンポイントの刺繍でも2,3色糸を使います。それでも使う糸の量は微々たるもの。

 今までは使いたい色を刺繍糸などを扱っている店に、少量を買いに行くだけでしたが、サーシャ姉様の旦那様は、ある程度大量に買い付ければ一つのコストはかなり安くできるだろう、木綿のハンカチであれば半銅貨一枚もかからない。けれど在庫を抱えるという事は、品物を作って売らなければ手元に金は入ってこないという事だ。だから商売をしようとするのなら、ちゃんとした仕入れ先と納品先を決めて、値段を交渉し、期日を守る必要がある、と教えてくださいました。

 そして私が商売を始めたいと思うのなら、サーシャ姉様の旦那様が、最初の信頼を与えてやろうと言ってくれたのです。

 サーシャ姉様の旦那様と私の付き合いは、それほど多くはありません。
 何せ大店の店主です。毎日忙しく動き回って、月の半分は他国に仕入れに行っております。長ければ三月ほど帰って来ない事もあると、サーシャ姉様は困ったように笑っていたものでした。

 そんなサーシャ姉様の旦那様は、きっと私が結婚できないと思っている事に気が付いていたのでしょう。

 だからマデリン姉様のように、結婚したいなら持参金は用意してやる、なんて私には言わなかったのだと思います。
 でもその代わりに、私に商売というものを教えてくれました。


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