3 / 16
第1章 魔剣覚醒
戦慄のペロペロ
しおりを挟む
「ふ……ふ……。ウチの尾行を見破るなんて、なかなかやるやんかキミら」
電柱の陰からこけた少女が、動揺を押し隠すように不敵に笑った。
彼女が軽やかな足取りで、シュンとメイのところまで歩いてくる。
「あたりめーだろ! そんな怪しいカッコで電柱にくっついてたら、誰だって気が付くわ!」
「しゃーないやろ! ウチは美少女で目立つから、隠密行動にはコレが欠かせないんや!」
シュンが少女のマスクとグラサンを指差して、あきれ顔でそう突っ込む。
少女が変な逆切れをしながら、2人の方にやってきた。
「じ、自分で美少女とか言ってるし……」
メイもあきれ顔でそう呟いた。
「はー。イザという時まで、顔バレしたくなかったんやけどなぁ……」
「うっ!」
シュンとメイの前に立った少女が、渋々といった様子で顔からマスクとグラサンを取った。
少女の素顔を見て、シュンは小さく息を飲んだ。
確かに、隠密行動には向かないかもしれない。
無造作に束ね上げられた少女のセミロングは、燃え立つ炎のような紅色。
体つきは小柄だが、スラリと伸びた手足はいかにもすばしっこそう。
顏立ちのほうも、自分で美少女と言うだけあって、なかなかに整った目鼻立ちだった。
だがクリクリ良く動く大きな金色の瞳と、太くてギザギザのこれまた真っ赤な炎のようなの眉毛のせいで、美少女というよりは、どこか子猫を思わせる雰囲気だ。
「ねえ。あなたなの? どうして? この前から家の前や道端から、私をずっとつけまわしたりして……?」
「この前?」
メイが不審な顔で、目の前の少女にそう問いただすと、少女もまた不思議そうに首を傾げた。
「人違いやろ? この前もなにも、ウチがこっちに越して来たんは昨日やで? 人に変なヌレギヌきせて、ストーカー扱いすんのやめてくれん?」
「おい待て」
腕組みをしながら、そう抗議する彼女だったが、シュンは冷静に突っ込んだ。
「ストーカー扱いもなにも、さっき自分でハッキリ『尾行』って言ってたじゃねーか! シラ切るのかよ!」
「ああ。それは『今日から』の話や」
声を荒げて問いただすシュンに、少女がアッサリそう答えた。
「『今日から』って一体……」
呆れかえるシュンとメイ。
「そや。『警護対象』の家、通学路、行動パターンはしっかり把握しとかなあかんからな。この学校の内部にも、『敵』が潜んでないとは限らんし……」
少女が、訳の解らない事を言いながらシュンの方を向いた。
「君もな、まさかとは思うけどな……」
少女はそう言いながら、シュンの顔に自分の鼻先を寄せる。
「ウッ!?」
シュンは面食らった。少女の顏が、シュンの目と鼻の先まで近づいたのだ。
クンカ クンカ クンカ……
そして少女が、まるで犬か何かのように、シュンの周りを嗅ぎまわる。
「うーん、おかしいなぁ、さっき少し『匂った』ような気がしたんやけど……?」
不審そうに何度も首を傾げながら、シュンの顔に更に自分の顔をよせて、
ペロン。
少女がいきなり舌を出すと、シュンの頬をペロリと一舐めした!
「おわぁあああああああああ!」
「ちょちょちょちょ! 何やってんのよ! あんた!」
少女の突如の奇行に、シュンが悲鳴を上げて道端に尻もちをついた。
メイもまた愕然として悲鳴を上げる。
「無味無臭。やっぱりウチの勘違いかな? ごめんごめん、君は無関係の一般ピーポーやね」
少女が少しガッカリしたように息をつくと、シュンを見下ろして謝った。そして……
「問題は、やっぱり『警護対象』。君の方やね」
少女はメイの方を向くと、またもや訳の解らない事を呟いた。
「何言ってるのよ! 変態! 痴漢……じゃなくて痴女! もー早くあっち行きなよ!」
「本当に不思議や。どう見ても人間なのに、匂いはどう考えても『向こう側』……」
目の前でシュンを「味見」されたメイが、憤懣の声を上げて少女を振り払おうとするが、
クンカ クンカ クンカ……
メイの言葉を全く気にせず、今度はメイに顔を寄せて彼女の身体を嗅ぎ始めた。
「ひっ!」
少女の不気味な行動に固まるメイ。
「おそらく、味も……」
男女は関係ないらしかった、メイの頬に顔を寄せて、その舌先でメイを「味見」しようとする少女だったが、だがその時。
ゴチン!
少女の頭上に、拳固が命中した。
「あたたたたーーーー!」
「なにしてくれやがんだよ! この変態! 痴漢……じゃなくて痴女!」
堪らずメイから離れて、自分の頭を押さえつける少女にシュンが怒りの声を上げた。
拳固の主は道端から立ちあがったシュンだったのだ。
「ちょ……違うんや! これには色々、深ーい理由があってな。ウチはな、違いが判る女なんや! ダバダーダバダーなんや!」
少女が慌ててシュンとメイに訳の解らない言い訳を始めるものの、
「おまわりさーん。こっちでーす!」
「痴女がいまーす。変態で-す!」
シュンとメイは聞く耳を持たない。
周囲であわただしく働いている警官たちに呼びかけて、少女を警察に突き出そうとしているところだった。
「ななななな……! 公権力に頼ろうってか!? 卑怯やでぇ!」
少女が頭をおさえながら、狼狽して辺りを見回すと、
「ちくしょー! 覚えときー!」
燃え立つ炎のようなセミロングを振り乱しながら、シュンとメイの元から駆け去って行ってしまった。
「な……何だったんだ、あいつ?」
「さあ……?」
シュンとメイはしばし呆然、通学路の真ん中に立ち尽くしていた。
キンコンカンコーン。
道の向こうから、始業を告げる鐘が聞こえてきた。
「やば! 遅刻だ!」
シュンとメイが、走り出した。
2人は、聖ヶ丘中学の厳めしい校門を駆け足でくぐりぬけた。
#
どうにかこうにか、2年C組の教室に駆けこんだシュンとメイ。
「あら~2人とも、今日もなかよく、遅刻ギリギリなんだからーー」
前の席に座るクラス委員長の藤枝瑠奈が、眼鏡を光らせながら意地悪く2人に言った。
西安達ヶ原の大地主、藤枝家のお嬢様だが、本人は微塵もそんなことを感じさせない真面目な佇まい。
自分にも他人にも、ルーズな事が我慢できない性分なのだ。
「うっさいなー委員長! 今日は、仕方なかったんだよ!」
言い訳がましく着席するシュン。その時。
「やっべー! 間に合った! セーーフ!」
学ランを肩に羽織ったツンツン頭、時河航《ときかわワタル》が、慌ただしく教室に駆けこんできた。
シュンの親友だが、これまたシュンに輪をかけた遅刻魔。
万年遅刻大王の名をシュンと争う、学年の『双璧』だった。
「わ……ワタルくん……!」
ルナが困った顔で彼から目をそらした。
「こらっ! お前はセーフじゃないだろ!」
教卓からコウの襟首をひっ捕まえたのは、担任の緋川七瀬。
飄々とした物腰の美術教師だが、生徒のサボり、遅刻には暴力も辞さない『武闘派』だ。
「でーー! す、すんませーん!」
ナナセに締めあげられて涙目のワタル。
「ワタルくん……どうしていつもあと5分早く……」
ルナは、いたましそうな顔で、伏し目がちにコウを見ていた。
#
「そんなことより、今日はみんなに新しい仲間を紹介する。転入生だ、比良坂。入ってこい」
緋川が教室の外で待つ誰かに合図した。
「はーい」
そいつが、教室に入って来た。
「「あ!」」
シュンとメイが、同時に驚きの声を上げた。
入って来たのは、燃え立つ炎のような紅髪を靡かせた、朝の通学路で2人が出会った少女だったのだ。
「どうも! 滋賀県から転校してきた比良坂詩菜いいます。みんな、よろしうたのんます!」
シーナと名乗った少女がそう挨拶して、ニヘッと笑った。
電柱の陰からこけた少女が、動揺を押し隠すように不敵に笑った。
彼女が軽やかな足取りで、シュンとメイのところまで歩いてくる。
「あたりめーだろ! そんな怪しいカッコで電柱にくっついてたら、誰だって気が付くわ!」
「しゃーないやろ! ウチは美少女で目立つから、隠密行動にはコレが欠かせないんや!」
シュンが少女のマスクとグラサンを指差して、あきれ顔でそう突っ込む。
少女が変な逆切れをしながら、2人の方にやってきた。
「じ、自分で美少女とか言ってるし……」
メイもあきれ顔でそう呟いた。
「はー。イザという時まで、顔バレしたくなかったんやけどなぁ……」
「うっ!」
シュンとメイの前に立った少女が、渋々といった様子で顔からマスクとグラサンを取った。
少女の素顔を見て、シュンは小さく息を飲んだ。
確かに、隠密行動には向かないかもしれない。
無造作に束ね上げられた少女のセミロングは、燃え立つ炎のような紅色。
体つきは小柄だが、スラリと伸びた手足はいかにもすばしっこそう。
顏立ちのほうも、自分で美少女と言うだけあって、なかなかに整った目鼻立ちだった。
だがクリクリ良く動く大きな金色の瞳と、太くてギザギザのこれまた真っ赤な炎のようなの眉毛のせいで、美少女というよりは、どこか子猫を思わせる雰囲気だ。
「ねえ。あなたなの? どうして? この前から家の前や道端から、私をずっとつけまわしたりして……?」
「この前?」
メイが不審な顔で、目の前の少女にそう問いただすと、少女もまた不思議そうに首を傾げた。
「人違いやろ? この前もなにも、ウチがこっちに越して来たんは昨日やで? 人に変なヌレギヌきせて、ストーカー扱いすんのやめてくれん?」
「おい待て」
腕組みをしながら、そう抗議する彼女だったが、シュンは冷静に突っ込んだ。
「ストーカー扱いもなにも、さっき自分でハッキリ『尾行』って言ってたじゃねーか! シラ切るのかよ!」
「ああ。それは『今日から』の話や」
声を荒げて問いただすシュンに、少女がアッサリそう答えた。
「『今日から』って一体……」
呆れかえるシュンとメイ。
「そや。『警護対象』の家、通学路、行動パターンはしっかり把握しとかなあかんからな。この学校の内部にも、『敵』が潜んでないとは限らんし……」
少女が、訳の解らない事を言いながらシュンの方を向いた。
「君もな、まさかとは思うけどな……」
少女はそう言いながら、シュンの顔に自分の鼻先を寄せる。
「ウッ!?」
シュンは面食らった。少女の顏が、シュンの目と鼻の先まで近づいたのだ。
クンカ クンカ クンカ……
そして少女が、まるで犬か何かのように、シュンの周りを嗅ぎまわる。
「うーん、おかしいなぁ、さっき少し『匂った』ような気がしたんやけど……?」
不審そうに何度も首を傾げながら、シュンの顔に更に自分の顔をよせて、
ペロン。
少女がいきなり舌を出すと、シュンの頬をペロリと一舐めした!
「おわぁあああああああああ!」
「ちょちょちょちょ! 何やってんのよ! あんた!」
少女の突如の奇行に、シュンが悲鳴を上げて道端に尻もちをついた。
メイもまた愕然として悲鳴を上げる。
「無味無臭。やっぱりウチの勘違いかな? ごめんごめん、君は無関係の一般ピーポーやね」
少女が少しガッカリしたように息をつくと、シュンを見下ろして謝った。そして……
「問題は、やっぱり『警護対象』。君の方やね」
少女はメイの方を向くと、またもや訳の解らない事を呟いた。
「何言ってるのよ! 変態! 痴漢……じゃなくて痴女! もー早くあっち行きなよ!」
「本当に不思議や。どう見ても人間なのに、匂いはどう考えても『向こう側』……」
目の前でシュンを「味見」されたメイが、憤懣の声を上げて少女を振り払おうとするが、
クンカ クンカ クンカ……
メイの言葉を全く気にせず、今度はメイに顔を寄せて彼女の身体を嗅ぎ始めた。
「ひっ!」
少女の不気味な行動に固まるメイ。
「おそらく、味も……」
男女は関係ないらしかった、メイの頬に顔を寄せて、その舌先でメイを「味見」しようとする少女だったが、だがその時。
ゴチン!
少女の頭上に、拳固が命中した。
「あたたたたーーーー!」
「なにしてくれやがんだよ! この変態! 痴漢……じゃなくて痴女!」
堪らずメイから離れて、自分の頭を押さえつける少女にシュンが怒りの声を上げた。
拳固の主は道端から立ちあがったシュンだったのだ。
「ちょ……違うんや! これには色々、深ーい理由があってな。ウチはな、違いが判る女なんや! ダバダーダバダーなんや!」
少女が慌ててシュンとメイに訳の解らない言い訳を始めるものの、
「おまわりさーん。こっちでーす!」
「痴女がいまーす。変態で-す!」
シュンとメイは聞く耳を持たない。
周囲であわただしく働いている警官たちに呼びかけて、少女を警察に突き出そうとしているところだった。
「ななななな……! 公権力に頼ろうってか!? 卑怯やでぇ!」
少女が頭をおさえながら、狼狽して辺りを見回すと、
「ちくしょー! 覚えときー!」
燃え立つ炎のようなセミロングを振り乱しながら、シュンとメイの元から駆け去って行ってしまった。
「な……何だったんだ、あいつ?」
「さあ……?」
シュンとメイはしばし呆然、通学路の真ん中に立ち尽くしていた。
キンコンカンコーン。
道の向こうから、始業を告げる鐘が聞こえてきた。
「やば! 遅刻だ!」
シュンとメイが、走り出した。
2人は、聖ヶ丘中学の厳めしい校門を駆け足でくぐりぬけた。
#
どうにかこうにか、2年C組の教室に駆けこんだシュンとメイ。
「あら~2人とも、今日もなかよく、遅刻ギリギリなんだからーー」
前の席に座るクラス委員長の藤枝瑠奈が、眼鏡を光らせながら意地悪く2人に言った。
西安達ヶ原の大地主、藤枝家のお嬢様だが、本人は微塵もそんなことを感じさせない真面目な佇まい。
自分にも他人にも、ルーズな事が我慢できない性分なのだ。
「うっさいなー委員長! 今日は、仕方なかったんだよ!」
言い訳がましく着席するシュン。その時。
「やっべー! 間に合った! セーーフ!」
学ランを肩に羽織ったツンツン頭、時河航《ときかわワタル》が、慌ただしく教室に駆けこんできた。
シュンの親友だが、これまたシュンに輪をかけた遅刻魔。
万年遅刻大王の名をシュンと争う、学年の『双璧』だった。
「わ……ワタルくん……!」
ルナが困った顔で彼から目をそらした。
「こらっ! お前はセーフじゃないだろ!」
教卓からコウの襟首をひっ捕まえたのは、担任の緋川七瀬。
飄々とした物腰の美術教師だが、生徒のサボり、遅刻には暴力も辞さない『武闘派』だ。
「でーー! す、すんませーん!」
ナナセに締めあげられて涙目のワタル。
「ワタルくん……どうしていつもあと5分早く……」
ルナは、いたましそうな顔で、伏し目がちにコウを見ていた。
#
「そんなことより、今日はみんなに新しい仲間を紹介する。転入生だ、比良坂。入ってこい」
緋川が教室の外で待つ誰かに合図した。
「はーい」
そいつが、教室に入って来た。
「「あ!」」
シュンとメイが、同時に驚きの声を上げた。
入って来たのは、燃え立つ炎のような紅髪を靡かせた、朝の通学路で2人が出会った少女だったのだ。
「どうも! 滋賀県から転校してきた比良坂詩菜いいます。みんな、よろしうたのんます!」
シーナと名乗った少女がそう挨拶して、ニヘッと笑った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる