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第12章 妖傀儡師〈ツァーンラート〉

機械迷宮

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「アンカラゴン! 揺卵期・・・に戻って影の森シャテンバルトで眠りについているはずの黒竜がなぜここに……!?」
 マシーネの切れ長の目が驚きに見開かれていた。
 廃墟と化した路地から彼女が見上げる夜の空を、漆黒の翅をしなわせて悠然と上昇していく竜の姿を……
 ルシオンを前足につかんで風を切って飛ぶ、黒竜アンカラゴンの姿をキッとにらみつけて!

「く……! 深幻想界シンイマジア創世の刻より生きる古の竜といえど、わが機巧都市ウルヴェルクで勝手を働くことは許しません。撃墜おとしなさい、ロック将軍!」
 形の良い唇を厳しく結んで、マシーネは頭上に停船した自身の飛空艇ドッペルアドラーを見上げた。

「で、ですがあの竜はマシーネ様……それに、これ以上機巧都市ウルヴェルクの上空で砲撃を繰り返せば市街の臣民たちが……!」
「かまいません将軍。深幻想界シンイマジア最強の黒竜といえど、今はタダの幼竜にすぎません。我がドッペルアドラーの敵ではありません……」
 耳元に響いてくる野太い男の声……獣鬼トロールのロック将軍の声にそう答えながら、マシーネは冷たい目でドッペルアドラーの真っ赤な船体からせりだした艦橋をにらんだ。

「それに、誰が大砲を使えと言いました。誘導弾の使用を許可します。何発使ってもよいから、必ずあの竜を撃墜おとすのです……ロック・グリッド!」

  #

「ば……馬鹿な、何を言っているのだマシーネ様は……?」
 機巧都市ウルヴェルクの上空。
 巨大飛空艇の艦橋で操縦桿を握った隻眼の獣鬼トロールが、耳元の通信機ごしに下されたマシーネの命令に戸惑いの声を上げる。
 刀傷に覆われたロック将軍のいかつい顔が、苦虫を噛みつぶしたみたいに歪んでいた。

「小娘の体1つさらうために、ドッペルアドラーの『超空間航行』まで使用し……おまけに高価な誘導弾まで! もしこの船の力が尽きかけて・・・・・いることを……他の魔王たちに知られるようなことになれば……!」
「ん……! 何か言いましたか将軍?」
 声にならないくらいの小さな声で、ブツブツと何かを呟くロック将軍の耳元に、苛立たしげなマシーネの声が響く。

「将軍! どうされますか、このままでは目標は射程の外に!」
「グウウウウ……わかっている。誘導弾、全弾発射……!」
 不安そうな声を上げる艦橋の船員たちに、将軍は重苦しい声でそう指示を下した。

  #

「あの船……なにか仕掛けてくるぞアンカラゴン!」
「キューーーン!」
 黒竜の背中の角につかまったグリザルドが、飛空艇の方角を向いて焦燥の声を上げた。
 ドッペルアドラーの真っ赤な船体から次々に何かがせり出してくる。
 それは船腹に何門も備わった巨大な大砲とは異なる形の……まるで捕鯨に使うモリみたいな突起の飛び出した禍々しい形の砲門だった。

 バシュンッ!
 バシュンッ!
 バシュンッ!
 
 そして、耳をつんざくような爆音と同時に。
 砲門から飛び出した銀色の銛が、黒煙を吹き上げながら一斉にアンカラゴンの方に向かって発射された。

「いかああああん! 避けろアンカラゴン!」
「キューン!」
 グリザルドの叫びに答えるように、黒竜が吠える。
 真っ黒な翅を羽ばたかせて、縦横無尽に夜の空を旋回するアンカラゴンだが……
 その軌跡をなぞるように、発射された銛の軌道はピッタリと黒竜の背中を捕らえて、徐々に徐々にその距離を締めてゆく!

「そんな! 逃げ……きれない?」
 黒煙を吹き上げながら、ジリジリと自分たちの背後に迫ってくる銀色の銛の切っ先を見つめて、グリザルドが絶望のうめきを漏らした。
 だが、その時だった。

「キューーン……」
 アンカラゴンが、ひときわ甲高い一声を上げた。
  
 シュウゥウウウ……
 そして竜の体を覆った黒銀色の鱗から、何か・・が流れ出していた。

「あれは『暗黒の霧ダークミスト』……? しまった!」
 地上から、空を舞う竜と、それを追う誘導弾の行方を見つめていた魔王マシーネは歯ぎしりをしてそう呻いていた。
 竜の体から噴き出した、まるで夜の闇のように真っ黒なが。
 マシーネの見上げた空一面を覆い、飛空艇の艦橋を覆い、路地を覆い、広場を覆い……
 機巧都市ウルヴェルクの街並みそのものを、深い闇の中へと沈めていく……。

  #

「黒竜の『暗黒の霧ダークミスト』……強力な竜圧ドラゴンオーラであたりの魔素エメリオを遮蔽してその探知を阻んでしまう……」
 街を覆ってゆく黒い霧を見回しながら、マシーネは美しい顔を忌々しげに歪めた。

「うかつだった。これではアンカラゴンもゼクトの末妹も野放しのまま。それに……」
 魔王の切れ長の目が上空に停船した飛空艇の方を見つめる。
 
 ドガンッ!
 ドガンッ!
 ドガンッ!

 マシーネの頭上からたて続けに爆音が轟き、あたりにパラパラと微細な金属片が降ってきた。
 空中で霧に阻まれて黒竜の行方を見失ったドッペルアドラーの誘導弾が、あてどなくまわりを飛び回りあたりの屋敷や尖塔にぶつかって爆発したのだ。

「わたくしの機巧都市ウルヴェルクが! 許しませんよゼクトの末妹。あの小娘には相応・・の罰を与えてジワジワ苦しめてから、このわたくしの装身具アクセサリーに……!」
 灰になって失われた自分の右手だった場所を見据えながら、玲瓏とした魔王の声が怒りに震えていた。

「マシーネ様あああ!」
 その時だった。
 ガラガラと物々しい車輪の音を響かせながら、霧の向こうからマシーネのもとに近づいてくる者たちがいた。
 それは2頭の黒馬に引かれた黒銀色の戦車チャリオットに、デップリと太った巨体をあずけた醜怪な小鬼ゴブリンと、そのあとに続く何人も番兵たち。
 騎士長ポーフと彼の部下たちが、ドッペルアドラーから降り立ったマシーネの姿に気づいて彼女のもとに駆けつけてきたのだ。

「ご無事でしたか、マシーネ様……まさか御自おんみずからがこのような場所に!」
 戦車から飛び降りたポーフが、太った体を揺らしてマシーネの方まで駆け寄ってきた。

「ご無事・・でしたか……?」
 騎士長の言葉に、マシーネの形の良い眉がピクリと引きつった。

「お前が……この地区の警備をあずかる騎士長ですね。ならば……」
「あ、いえ私はそのような大それた」
 冷たく光った切れ長の目でギッとポーフを見据えたマシーネが、彼にそう尋ねる。
 マシーネの言葉に圧倒されたように、ポーフがその場から一歩身を引いた、その時だった。
 
 スラリ……
 マシーネが残された左手を、たおやかな物腰でポーフの方に向けた。
 魔王の優美な指先が、何か・・を手繰るようにスッ……と空を掻いた。
 次の瞬間。

 ゴロン。
 何かを言い訳するように口を開きかけたポーフの頭が、太った体から落ちて路地に転がった。
 騎士長の巨体が、その首のあった場所から真っ赤な血を吹き上げながら、ドサリと石畳に倒れこむ。

「その醜い顔をわたくしに近づけるな。今宵のわたくしは、とてもとても機嫌が悪い……!」
「ヒッ! ヒイイイイイッ!」
 ポーフの死体を見下ろして、マシーネは氷のような声でボソリとそう呟いた。
 騎士長のあとに続いてきた番兵たちが、恐怖のうめきを漏らして一斉にその場にひざまずく。

「ロック将軍。西部居住区の警備を預かる騎士長に欠員・・が出ました。誰か次を……適当な者を手配なさい。これよりドッペルアドラーに戻ります。船を重力城グラヴィオンに帰投させるのです……」
 上空の巨大飛空艇ドッペルアドラーを見上げて、マシーネは機巧都市ウルヴェルクの中心の方角を指さした。
 左手に広げた黒い日傘をクルクルと回転させながら、マシーネの優美な長身がフワリと路地から浮かび上がった。
 あたりを覆った黒い霧の中から飛び出して、魔王マシーネがドッペルアドラーに還ってゆく。

  #

「西部居住区の騎士長に欠員? 次を見繕う・・・!? まったくあのお方は、どこまで下の者・・・に興味がないのだ……」
 ドッペルアドラーの艦橋では、通信機ごしのマシーネの命令を聞き届けたロック将軍が、呆れた顔で肩を落としていた。

「まあいい。船を出すぞ、これよりドッペルアドラーを重力城グラヴィオンに帰投させる……!」
「わかりました将軍!」
 将軍が気を取り直したように操舵感を握って部下たちに号令すると、艦橋の船員たちが一斉にそう答えた。
 真っ赤な飛空艇が街の中心部に向かって、再び悠然と空を泳ぎだした。

  #

「グアアアッあ痛つつつつ……!」
「グリザルド……大丈夫かグリザルド……!」
「みょーみょーみょー!」
 黒い霧に紛れてマシーネの目を逃れたルシオンたちが、街はずれのスラムみたいな場所にその身を隠していた。
 『暗黒の霧ダークミスト』を振りまいて力を使い果たしてしまったのか。
 再び小さな幼竜の姿に戻ってしまったアンカラゴンが、心配そうな鳴き声を上げながら、地面に倒れた盗賊グリザルドのまわりを飛び回っている。
 ルシオンと揉み合いになって、彼女の光矢アローで貫かれたグリザルドが、体のそこかしこから血を流して苦しそうに呻いていた。

「さっきはその……すまなかった。わたしも必死で……その……お前から受けた恩を忘れて……その……」
「フン。なに、この程度の傷ならすぐ治る。それよりもお前は……」
 盗賊の傷を押さえながら、ルシオンはしどろもどろで目を泳がせる。
 ようやく地面から上体を起こしたグリザルドが、痛みに口元を歪めながらギラついた目でルシオンを見た。

「まだ諦めてないんだな? まだ自分の手でおまえの姉貴を……助けるつもりなんだな?」
「そ、そうだ! だからその、お前には……」
「そうかい、だったら……」
 ルシオンがおずおずとそう頷いて、すがるような目で盗賊に何かを言いかけた……
 その時だった。

 ゴッ!

「うあああああっ!」
 ルシオンの小さな体が、悲鳴と同時に地面に転がっていた。
 グリザルドの拳が、ルシオンの美しい顔を思い切りグーで殴りつけていたのだ。

「だったらまだ、手を貸そう。これは俺とお前が交わした約束だ王女。お前の姉貴を助けるために、手を貸すって約束はな。だがな、忘れるんじゃねーぞ王女……」
 グリザルドが、ものすごい目で地面から起き上がったルシオンを見つめていた。

「もし今度アイツにあんなマネをしてみろ。俺はお前を、絶対に許さねえ。命がけで、一生掛けてもお前を追いかけてその喉首を噛みちぎってやるからな。だからお前も約束しろ王女!」
「グウウウ……わかった、約束する。もうアイツに……勝手なマネはしないって……」
 グリザルドの剣幕に押されるみたいに、ルシオンは滴る鼻血を押さえながら何度も何度もうなずいた。

「よし……いいか王女。もうマキシの旦那はいねえ。この街で頼れるヤツは誰もいねえ。俺とお前……2人きりだ。お前は姉貴を助ける、俺はアイツを助ける。これはお前と俺と……2人でやりぬく戦いなんだ!」
 真剣な顔つきで、ルシオンの方にグッとその身をのりだして。
 重々しい声でグリザルドはルシオンにそう言った。

「お前の力と俺の力……どっちが欠けても目的は果たせねえ。だからこそ……もう互いに勝手なマネは出来ねえんだ。共同戦線・・・・だ。わかったな王女?」
「わかった……共同戦線だ、グリザルド!」
 グリザルドの真剣なまなざしに答えるように、ルシオンも重々しい声で盗賊にそう答えた。

「……そうかい、だったらさっきのグーパンは……仲直り・・・のしるしだ……」
 数秒の沈黙のあと。
 紅玉ルビーみたいなルシオンの目をまっすぐ見つめて、グリザルドはそう言ってニッと笑った。

「王女。マキシの旦那は、最後にお前に何て……?」
「そうだ、マキシは確かにわたしに言った……」
 グリザルドの質問に、いまわの際のマキシの言葉がルシオンの耳元に蘇ってきた。

小姉上ちいあねうえを助けたければ……もう1度……『ポーフ男爵の屋敷』に行けと……!」

  #

「あれが騎士長ポーフの屋敷か……」
「ああ、そうだグリザルド。今はまだ、さっきの騒ぎで兵士たちも出払っているはずだ。その隙に、この鍵があれば中に入れるはずなんだ……」
 アンカラゴンの霧にまぎれて。
 機巧都市ウルヴェルク西部居住区の高級住宅街に戻ってきたルシオンとグリザルドは、四つ角の物陰からあたりでも一際壮麗なポーフの邸宅を見上げていた。
 兵士たちが駆けまわっていたさっきまでの喧騒が嘘みたいに。
 霧のたちこめた路地はガランとしていて人影もない。
 屋敷の窓から漏れでる灯りも、いまは疎らだ。

「今の内……イチかバチかだ……」
「おい、ほんとに大丈夫なのかよ王女!」
「みょーみょーみょー……」
 意を決したルシオンが、屋敷の鉄門に向かって駆け出した。
 用心深く、しきりにあたりを見回しながら、グリザルドとアンカラゴンもそれに続く。
 ルシオンの手には、マキシから渡されていた複雑な図柄が刻印された鍵があった。
 酒場の前での立ち合いで、マキシとルシオンが叩きのめしたチンピラたちから手に入れた鍵だ。

「マキシはこの屋敷のどこかに、重力城グラビオンに通じる何かのルートがあると言っていた。それさえ分かれば……」
「ルート? ルートって、まさか……」
 屋敷の鉄門の前に立ったルシオンが、グリザルドと幼竜の見る前で、慎重に門の鍵穴に鍵を差し込んだ。
 すると、ギギィイイイ……
 いかめしい鉄門が軋んだ音を上げながら、2人と1匹の前でゆっくりと開いていく。

「本当に、みんな出払っているのか? ウン、あれは……!」
 ガランとした暗い庭園を屋敷に向かって歩き出しながら。
 ルシオンとグリザルドは屋敷の一角を見上げて首をかしげた。
 せり出したバルコニーを落ち着かなげに歩き回る、小さな人影が見えたのだ。

  #

「遅い……遅い……まったく何をやっておるのだ突撃隊長は。それにさっきのドッペルアドラーは……マシーネ様まで、こっちに戻ってきたのか……!?」
 その、バルコニーの上では。
 仕立ての良い高級そうなガウンにその体を包み、右手に持ったワイングラスからしきりにワインをあおりながら。
 1人の年老いた小柄な小鬼ゴブリンが、何かをブツブツ呟きながら、グルグルあたりを歩き回っている。

「まさか……万が一にも失敗などということは……いやいや、あれだけの数の兵士だ小娘1人捕らえるくらい、造作もないこと……いやしかし……」
 老小鬼ゴブリンの顔が、恐怖にすくんでいく。
 その時だった。

「なるほど、そういう事だったのか……」
「おお、戻ったか隊長……ウン?」
 小鬼ゴブリンの背中から、誰かの声がした。
 しきりに待ちわびていた者の名前を呼びながら、彼が背中を振り向くと……
 立っていたのは、開け放されたバルコニーへの扉の際に立った、小さな少女の姿。
 ルシオン・ゼクトの姿。

「なんだ……こんな子供がわしの屋敷で何をしておる。こんな夜にティゲールどもが商品・・を持って……って!?」
 ルシオンの顔をマジマジ眺めながら。
 小鬼ゴブリンの目が驚きに見開かれていった。

「その顔は……あの時の猫人ミアウ!?」
「そうだ。お前が本物・・のポーフ男爵だったんだな!」
 ……あ!?
 愕然とする小鬼ゴブリンに怒りの声を上げるルシオン。
 ルシオンの中のソーマも、ようやく事の真相に気づいた。
 この小鬼ゴブリンの顔には、ソーマも見覚えがあった。

 ルシオンとグリザルドが機巧都市ウルヴェルクに入国した時に。
 壁内への入口の詰所、しきりに2人の事を聞きこんでいた、あの年を取った小鬼ゴブリンの番兵だ!
 
 ――間違いねえ、番兵のフォークがタレこんだ通りだ、猫人ミアウの子供だ!
 ――1人きりか? フォークが言ってた土鬼ノームの奴隷商の姿が見えんが……
 朝方ルシオンに襲い掛かってきたチンピラたちの言葉が、ソーマの耳に蘇る。
 番兵フォーク……こいつが、ポーフ男爵の正体だったのか!

「馬鹿な……なぜタマニャンがわしの名を知っている!」
「その呼び方はやめろー!」
 唖然としてそう呟くポーフ男爵に、ルシオンが再び怒りの声を上げた。

「なるほど……そういうカラクリか」
 ルシオンの背後から姿を現したグリザルドも、あきれ顔で肩をすくめた。

「普段は詰所の門番になりすまして、入国者に探りを入れながら、これ・・と目をつけた『商品』は、チンピラや部下の番兵たちに襲わせてマシーネへの供物にする……。騎士長の位につきながら、身代わりを立てて前線には立たず、自分は安全な屋敷に身を潜めて甘い汁を吸うだけ……まったく、どこまで卑劣なヤローなんだ……!」
 ポーフをにらんだグリザルドの目が、怒りに輝いていた。

「なんだと! 奴隷商ふぜいが生意気な口を!」
 グリザルドをにらみ返して、ポーフ男爵が声を荒げる。
 老小鬼ゴブリンが、高級そうなガウンの下にしのばせた鞘から短刀を抜いていた。
 見た目からは想像も出来ないような素早い動きで、ポーフがグリザルドに掴みかかり、その喉元に銀色の刃を突き立てようとした。
 だが、次の瞬間。

 ビュンッ! ビュンッ!

「ギャアァアアアアアアッ!」
 緑色の閃光が瞬いて、ポーフはバルコニーに転がって絶叫していた。
 瞬く間に、一瞬の躊躇もなく。
 ルシオンの指先に集まった彼女のホタルから放たれた光矢アローが、ポーフの両手と両膝を撃ちぬいていたのだ!

「痛い! 痛い! 痛いいいいいいいいいっ!!!」
「さあ言えポーフ! お前がさらった娘たちを、どうやって重力城グラヴィオンに献上している!? 言うんだそのルートを!」
 痛みに悶えるポーフの首を掴み上げて、ルシオンが詰問。

「い……言えるか小娘! そんなことをしたら……ロック将軍に殺される!」
「そうか……だったらいま死ね!」
「うわああっ! 待て、撃つな、言う、言うから!」
 ルシオンが緑に輝いた自分のホタルをポーフの目の前にチラつかせると、小鬼ゴブリンはアッサリと両手を上げて降参した。

  #

「これが……重力城グラヴィオンに連なるルート……!?」
 痛む足を引きずるポーフをせっついて、屋敷の地下までやってきたルシオンとグリザルドは、地下室から広がった光景に驚きの声を上げていた。

 まるで……巨大な工場だ!
 ルシオンの中のソーマも、目の前の景色に愕然とする。
 その景色はどこか、ソーマが小学校の時に社会科見学で訪れた、自動車の組み立て工場のラインを思わせた。
 だが……まるで規模が違っていた。
 ルシオンとグリザルドの目の前に、どこまでもどこまでも広がっているのは……
 縦横無尽に広がる銀色のベルトコンベアーの上に木材や、鉱石をいっぱいに乗せて……
 それらの資源を、どこか一つ所まで運搬してゆく、まるで自走する巨大な迷路だった。

機甲触腕アームを使って機甲外殻シェルの内側に取り込んだ資源・・を……こうやって増殖工場インダストリーまで運搬してるのか。これが重力城グラヴィオンへのルート……機巧都市ウルヴェルクの……内臓!」
 目の前を流れていく木材や鉱石や土くれを眺めながら、グリザルドは唖然として、そう呟いていた。




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