上 下
26 / 124
第4章 魔法決闘〈マジカデュエル〉

戦慄のモミモミ

しおりを挟む
「うーむ……」
 リビングの鏡の前に立ったルシオンが、しげしげと自分の全身を見回している。
 ルシオンの使う転身トゥマイヤというのは、姿や衣服を自由に変えることが出来るらしい。

 そして衣服を脱ぎ去る・・・・ことも。
 いま鏡に映っているのは、生まれたままのルシオンの姿。
 
 しなやかな手足。
 輝くような白い肌。
 銀色の髪。
 桜色の唇。
 紅玉ルビーみたいに真っ赤な瞳。
 
 体の全てが露わになった、異世界の魔王の娘の美しい姿だった。

 な、なにやってるんだルシオン! 早く何か着ろ!
 ソーマはオロオロしながらルシオンに叫ぶ。
 
 ルシオンの視覚はソーマの視覚とリンクしている。
 ルシオンがジリジロ見つめる彼女の全身が、ソーマにも間近に手に取るように見えてしまう!
 だがルシオンは、そんなこと気にもしていないみたいだった。

 ムニュ……
 そしてルシオンが、自分の胸に手を添えた。
 胸に盛り上がった、小さいけれど形のいい2つの膨らみに。
 
 うおおおおっ!
 ソーマにも、ルシオンの体の柔らかな感触がダイレクトに伝わって来る。
 
「足りない。まだ全然……これでは姉上に全く勝てない……!」
 自分の胸をジロジロ見ながら、ルシオンは不満そうにそう呟いた。
 
 そして……。
 ムニュ……ムニュ……ムニュ……

「育て……! 育てー育てー育てぇえええええ……!」
 おもむろに自分の両手で、自分の胸をモミモミ揉みしだき始めた!

 うおおおおあああああ! やめろぉルシオンっっっ!!

 ソーマは悲鳴を上げる。
 両手から伝わるマシュマロみたいな柔らかさと。
 揉みしだかれる両胸のふくらみの感触が。
 両方ソーマの感覚と同期リンクしているのだ。

 ソーマは、頭がおかしくなりそうだった。

  #

「な……何をやってるんだ王女アイツは! 何かの『儀式』か……!?」
 ソーマの家の庭先。
 塀を飛び越えてコッソリその庭に忍び込んだ男が、呆れた声を上げていた。
 カーテンの合間からリビングの様子をのぞき見していたのは、ナナオの店にいたチャラチャラした金髪の若い男だった。

 追跡していた標的ターゲットの奇行に、チャラ男がアゼンとしている。
 その時だった。

「キャアアアア! ノゾキです。変態ですお巡りさん!」
 路地から甲高い悲鳴が聞こえて来た。
 たまたま通りかかって、チャラ男の覗きに気づいた通行人が電話で警察に通報しているようだ。

「まずい!」
 その場から立ちあがったチャラ男。

 そして、タッ!

 人間とは思えない、もの凄い跳躍。
 1跳びで御崎家の塀を飛び越えたチャラ男は、そのまま夜の闇の中に走り去っていった。

  #

「王女の隠れ家を探し当てたか。でかしたグリザルド……」
「ああ。タマタマのラッキーだったがな。こっちの世界の行きつけ・・・・の店で、偶然出会ったのさ。しかしいったい、何だったんだアレ……?」
 人気のない真夜中の河川敷。

 砂利道に立って笑う黒衣の女……メイローゼに、チャラ男はそう答えて首をかしげる。
 チャラ男は、盗賊グリザルドの変装した姿だった。

「自分が吸収した人間の子供の姿になって、ヒトの世に紛れていたか。何故そんなことを……? まあいい。明日はあの男・・・に話をつける。グリザルド、お前は引き続き王女のことを見張っていろ……」
「見張るっつっても、もうあの家には近づけないしなぁ……どうするか……?」
 メイローゼの命令に、チャラ男のグリザルドは少し困ったように首をかしげていたが……。

「そうだ! いい手があるぞっ!」
 何かいいアイデアが浮かんだのか、グリザルドはポンと手を打ってニヤリと笑った。

  #

「さあルシオンさま。『発育の儀式』はそれくらいにして、はやくお風呂に入られては?」
「うん。そうだなコゼット」
 あたりをヒラヒラ飛びながら、そう呼びかけるコゼットにルシオンがうなずいた。
 裸のままのルシオンが、水音のする浴室にむかって歩き出した。

「なんだこれは……! こんな小さな桶に浸かるのか。しかもこの水……熱いじゃないか! 火傷して死んでしまうぞ?」
 浴室に入ったルシオンが、バスタブに溜まったお湯を見て、奇妙な声をあげる。
 どうやらルシオンたちの言う水浴びは、本当に浴びらしい。
 熱いお湯に浸かるという習慣がないのだろうか。

 いいからルシオン。死なないから黙って浸かれ! 気持ちいいから……。

 ソーマが疲れ切った声で、ルシオンにそう呼びかける。
 風呂に入るその前に、精神的にグッタリだった。

 そして……

「フオォオオオオオオオ…………!」
 用心深くバスタブに身を沈めたルシオンから、感嘆の吐息が漏れる。
 
「なんだこの感じは……体の芯からジンワリ温ったまる……体がポカポカして疲れがいっきに取れてゆくぅ……」
 湯船の中で、ヘロヘロしてゆくルシオンの声。

 ……な。だから言っただろ。
 気持ちいいって。

 ルシオンの体を通じて、ソーマもまた風呂の効果をシミジミと味わっていた……その時だった。

「ルシオン様。失礼します……」
 カラリ。
 浴室の戸が開いた。

 ……ふおあぁあああああああああああああああ!!!!
 湯気の向こうに立つ人影の正体に気づいて、ソーマは再び悲鳴を上げていた。

 入って来たのは、輝くような金髪をクルクル巻きにした可愛らしい女の子だった。
 小さなチョウから少女の姿に戻ったルシオンの侍女。
 コゼット・パピオの姿だった。

 そしてメイド姿だったコゼットの服が、今は全部……脱ぎ捨てられていた。
 コゼットも、生まれたままの姿だった。
 クリーム色のツヤツヤした全身が、ルシオンの目の前に立っていた。

「ルシオン様。お体を洗いますわ。さあ!」
「ヤダッ! 洗うのはいい!」
 慣れた手つきでシャワーを出しながら、ルシオンにそう促すコゼット。
 イヤイヤと首を振りながら、ルシオンはバスタブから出ようとしない。

「ダーメーでーす! 髪の毛も耳の裏もしっかり洗うの! でないと、今日はアレは無しです!」
「うぅ。わかった……」
 いつもより厳しい口調のコゼットに、ルシオンは渋々バスタブから立ち上がる。

 ジャアアアアアアアア……
 コゼットが手にしたシャワーから飛び出すお湯が、ルシオンの全身を洗い流していった。
 石ケンで泡だったコゼットの手が、ルシオンの銀色の髪をクシャクシャ洗っていく。
 コゼットの優しい手が、ルシオンの背中も、耳の裏も、お尻の間も、キレイに洗ってゆく。
 ルシオンの体の、スミズミまで。

 ムニ……。
 コゼットの豊かな胸が、ルシオンの背中に押し当てられているのを感じる。
 
 …………!!
 ソーマはもう、息が止まりそうだった。

「はい。おわりましたわルシオン様。あとは湯船でよーく温ったまって。ちゃんと肩まで浸かるのですよ?」
「ウン……」
 コゼットがルシオンの全身を洗い終わると、笑顔でそう言った。
 ルシオンは小さくうなずいてコゼットの言う通りにする。

「コゼット……お前も入れ。気持ちいぞ!」
「あら、いいのですか? ルシオン様」
 ルシオンが、シャワーで浴室を洗い流しているコゼットを手招きした。
 コゼットはルシオンの方を向いて、ニッコリ笑う。

 チャポン……。
 そしてコゼットが、バスタブに入って来た。

「あーキモチイイ! インゼクトリアの水浴びも爽やかですが、こっちの世界のオフロもいいものですわねー!」
 小さなバスタブ。
 コゼットとルシオンは、体育座りのかっこうで2人向き合っていた。

 そして、ジー………
 ルシオンがコゼットの体をジットリと見つめていた。
 
 おいルシオン! ドコ見てんだルシオン! あんまりジロジロ見るな!
 オロオロしたソーマがルシオンを止めようとするが、彼女は見るのをやめない。

 ルシオンの視線の先は、コゼットのツヤツヤとしたクリーム色の盛り上がり……。
 コゼットの豊かな胸だった。

「……ケシカラン! コゼット!」
「へ?」
 ジャバアッ!
 いきなりバスタブから立ち上がったルシオンが、コゼットを指さしてそう叫んだ。

あるじのわたしよりも……そんな大きい胸をしてっ! 許せん! ちょっとよこせっ!」
「アレーッ! 何をしますの。おやめくださいルシオンさま!」
 そしてルシオンが、いきなりコゼットに飛びかかった。

 ザバアアアアア……
 バスタブの中で組んず解れつ。
 コゼットの体に絡みついたルシオンが、コゼットの豊かな胸を背中からモミモミ揉みしだき始めた!
 

 ………………( ゜ρ゜)

 ソーマは、意識を失いかけていた。


しおりを挟む

処理中です...