4 / 124
第1章 魔王融合〈デモンズユナイト〉
トライボール
しおりを挟む
「やった!」
ソーマは声を上げる。
ナナオが真っ白な指揮棒を、自分の触媒を振って風魔法を発動させたのだ。
魔法は数秒の精神集中と、触媒にインプットした簡単な呪文の詠唱で発動する。
ナナオが得意の風魔法で、スカイを先取した。
ソーマも得意の足で相手チームより先にミドルボールをかかえ上げた。
魔法はダメでも足の速さはクラスで誰にも負けなかった。
だがその時だった。
「なっ!」
ソーマは目の前で起きた異変に唖然とした。
地面に残った最後の1つ、アースボールが動き出したのだ。
人間の手では重くて動かせないはずの球が、滑るように競技場を走って、自陣のサークルめがけてつっこんでいく。
「無摩擦!」
ソーマはアースボールに仕掛けられた魔法に気付いた。
相手チームの山桜ハル。
アースボールを指で小突いて微笑んでいたのは彼女だった。
変性魔法が得意なハルはボールの摩擦係数を0に変えて、重い陶器の球を指1本で簡単に動かしたのだ。
「キリトくん、よけて!」
後ろの方から、ナナオの悲鳴が聞こえた。
アースボールは自陣のサークルに、そしてサークルの前でどっしり構えたキリトに向かって一直線に走っていた。
重いボールが直撃したら、軽い怪我どころでは済まないだろう。
「フン……」
だがキリトは動かなかった。
唇の片端を吊り上げて不敵に笑う。
キリトは右手で拳を作った。
中指にはめた金色の指輪をボールに向けた。
そして……
「失せろ!」
鋭い声で響いたキリトの詠唱。
ボールが、キリトの脚先に触れた。
「「あ!」」
みんなが、驚きの声を上げた。
キリトの蹴り上げたアースボールが、まるでサッカーボールみたいに軽々と空中に跳ね上がった。
重量級の陶器の球が、今度は風船みたいにフワフワ空を舞っている!
「ナナオ! あれも頼むぜ!」
「わ、わかった!」
キリトの号令でナナオの風がアースボールを捉えた。
「重量制御!」
ソーマは走りながら、キリトの得意属性を思い出していた。
アースボールはキリトの魔法でその重量を元の数千分の1まで軽くされていたのだ。
いまやボールは、ナナオの風でもやすやす運べる羽毛みたいなものだ。
いま3つのボールは、すべてソーマたちの手に在った。
「よし、俺も……!」
ソーマは目の前に迫った敵陣のサークルに意識を集中した。
風魔法が得意なナナオから、相手チームの選手がボールを奪取するのはもう無理だろう。
だから、ここで、ソーマがゴールを決めてしまえば。
勝利はソーマのチームのものだった。
サークルまで、あと10メートル、5メートル。
いけるか……ゴールだ!
だがその時だった。
スルン。
「えっ!?」
ソーマは一瞬、何が起きたか理解できなかった。
地面を蹴るはずのソーマの足が、空振りしていた。
視界がグルリと1回転していた。
「しまった!」
ソーマは空中で、自分に起こったことを理解して唇を噛んだ。
無摩擦だ。
山桜ハルがソーマの足元か、あるいは靴に変性魔法を仕掛けたのだ。
どうする。どうする。
地面に落ちるまでの数瞬。
ソーマは必死で考えを巡らせる。
ミドルボールを地面に落としたら負けになる。
逆に言えば体でかばって、地面に触れさせなければ。
まだチャンスはある。
そう思ったソーマがボールを抱え込もうとした、だが次の瞬間。
グン。
「うおわ!」
ソーマは悲鳴を上げた。
ソーマの手の内で、ボールが急に重みを増した。
突然の出来事でたえられなかった。
ボールはソーマの手を離れた。
そして。
ドサリ。
ソーマの体とボールが、同時に地面に転がっていた。
「試合終了!」
ゲームの勝敗を告げるホイッスルが校庭に鳴り響いた。
「ううう……」
ソーマは頭を振りながら地面から立ち上がった。
ボールはソーマのそばに転がっていた。
「御崎くん。大丈夫?」
そう声をかけてくる者がいた。
ほっそりとした長身。
キラリと光る眼鏡。
穏やかな笑みを浮かべた整った顏。
相手チームのリーダー格、氷室マサムネ。
勉強も魔法も運動も、とにかく優秀。
いつも穏やかに笑っているけど、いまいち何を考えているかわからない。
ソーマはちょっと苦手だった。
「あ、ああ。さっきのはマサムネが?」
「そうだよ御崎くん。頑張ったし、惜しかったね。けど味方の動きだけじゃなくて相手のことも良く見ていないと……」
ソーマにそう答えて、マサムネはボールを拾い上げた。
重量制御だ。
ソーマの手の内のボールにしかけられて、ソーマからボールを奪ったのはマサムネだった。
魔法ならなんでも得意のマサムネが仕掛けた変性魔法が、試合の勝敗を決めたのだ。
「でもけっこう驚いたよ。まさか3つのボールを全部先取されるなんて。御崎くんの頑張りには、いつか結果がついてくる。僕はそう信じてるよ」
「…………」
ソーマにそう言うと、マサムネは背中を向けて教師の羽柴の方へ何かを言いにいった。
ソーマは、何も言えなかった。
「ソーマくん。大丈夫? 怪我してない?」
ナナオが心配そうな顔でソーマの方にかけて来る。
「御崎ソーマぁあああああ!」
黒川キリトが、ものすごい顔でソーマの方に歩いてきた。
額には血管が浮き上がっている。
「このクズ! 無能!」
「わ、悪かったよキリト」
キリトがソーマの襟首をつかんだ。
ソーマも小さく謝る。
キリトの態度は大嫌いだが、ソーマのせいで負けたのは事実だ。
そして、突然。
ゴッ!
「エグゥ……!!」
ソーマのミゾオチに、何かが叩き込まれていた。
キリトの握りこぶしだった。
息をすることも出来ずに、ソーマは呻いた。
キリトの拳は、重くて固い、鉄の塊みたいだった。
「…………!」
ソーマは気付いた。
キリトは自分の拳に、変性魔法をかけているのだ。
誰にも気付かれないようにひっそりと。
そして魔法を使えないソーマにむかって……!
「自分のクズさがわかったんなら、2度と試合なんか出るんじゃねーぞ! 今度おなじマネしたら100発ブチかます!」
ソーマを地面に放りだすと。キリトはそう言い放った。
そしてソーマとナナオに背を向けて、昇降口の方まで行ってしまった。
「ソーマくん! ソーマくん!」
「う、ぐ、ぐ……」
オロオロするナナオ。
ソーマは地面に膝をついたまま、しばらくの間苦しい息を吐くしかなかった。
#
「そうションボリすんなよソーマ。キリトがああなのは、いつもの事だろ?」
「そーだよ。元気だしなってソーマくん!」
放課後。
夕暮れ時の通学路を、ソーマとコウとナナオの3人が歩いていた。
「ああ。わるい2人とも……」
ソーマはそう答えるが、まだ心は浮かないままだ。
「そうだソーマ。今日はさ、アソコに行ってみようぜ?」
「アソコ?」
話題を変えようとして、コウが話を切り出した。
ソーマは首をかしげる。
「御霊山だよ。御霊山!」
「御霊山って……例の山火事のあった……!」
コウの言葉に、ソーマの目が見開かれた。
ソーマは声を上げる。
ナナオが真っ白な指揮棒を、自分の触媒を振って風魔法を発動させたのだ。
魔法は数秒の精神集中と、触媒にインプットした簡単な呪文の詠唱で発動する。
ナナオが得意の風魔法で、スカイを先取した。
ソーマも得意の足で相手チームより先にミドルボールをかかえ上げた。
魔法はダメでも足の速さはクラスで誰にも負けなかった。
だがその時だった。
「なっ!」
ソーマは目の前で起きた異変に唖然とした。
地面に残った最後の1つ、アースボールが動き出したのだ。
人間の手では重くて動かせないはずの球が、滑るように競技場を走って、自陣のサークルめがけてつっこんでいく。
「無摩擦!」
ソーマはアースボールに仕掛けられた魔法に気付いた。
相手チームの山桜ハル。
アースボールを指で小突いて微笑んでいたのは彼女だった。
変性魔法が得意なハルはボールの摩擦係数を0に変えて、重い陶器の球を指1本で簡単に動かしたのだ。
「キリトくん、よけて!」
後ろの方から、ナナオの悲鳴が聞こえた。
アースボールは自陣のサークルに、そしてサークルの前でどっしり構えたキリトに向かって一直線に走っていた。
重いボールが直撃したら、軽い怪我どころでは済まないだろう。
「フン……」
だがキリトは動かなかった。
唇の片端を吊り上げて不敵に笑う。
キリトは右手で拳を作った。
中指にはめた金色の指輪をボールに向けた。
そして……
「失せろ!」
鋭い声で響いたキリトの詠唱。
ボールが、キリトの脚先に触れた。
「「あ!」」
みんなが、驚きの声を上げた。
キリトの蹴り上げたアースボールが、まるでサッカーボールみたいに軽々と空中に跳ね上がった。
重量級の陶器の球が、今度は風船みたいにフワフワ空を舞っている!
「ナナオ! あれも頼むぜ!」
「わ、わかった!」
キリトの号令でナナオの風がアースボールを捉えた。
「重量制御!」
ソーマは走りながら、キリトの得意属性を思い出していた。
アースボールはキリトの魔法でその重量を元の数千分の1まで軽くされていたのだ。
いまやボールは、ナナオの風でもやすやす運べる羽毛みたいなものだ。
いま3つのボールは、すべてソーマたちの手に在った。
「よし、俺も……!」
ソーマは目の前に迫った敵陣のサークルに意識を集中した。
風魔法が得意なナナオから、相手チームの選手がボールを奪取するのはもう無理だろう。
だから、ここで、ソーマがゴールを決めてしまえば。
勝利はソーマのチームのものだった。
サークルまで、あと10メートル、5メートル。
いけるか……ゴールだ!
だがその時だった。
スルン。
「えっ!?」
ソーマは一瞬、何が起きたか理解できなかった。
地面を蹴るはずのソーマの足が、空振りしていた。
視界がグルリと1回転していた。
「しまった!」
ソーマは空中で、自分に起こったことを理解して唇を噛んだ。
無摩擦だ。
山桜ハルがソーマの足元か、あるいは靴に変性魔法を仕掛けたのだ。
どうする。どうする。
地面に落ちるまでの数瞬。
ソーマは必死で考えを巡らせる。
ミドルボールを地面に落としたら負けになる。
逆に言えば体でかばって、地面に触れさせなければ。
まだチャンスはある。
そう思ったソーマがボールを抱え込もうとした、だが次の瞬間。
グン。
「うおわ!」
ソーマは悲鳴を上げた。
ソーマの手の内で、ボールが急に重みを増した。
突然の出来事でたえられなかった。
ボールはソーマの手を離れた。
そして。
ドサリ。
ソーマの体とボールが、同時に地面に転がっていた。
「試合終了!」
ゲームの勝敗を告げるホイッスルが校庭に鳴り響いた。
「ううう……」
ソーマは頭を振りながら地面から立ち上がった。
ボールはソーマのそばに転がっていた。
「御崎くん。大丈夫?」
そう声をかけてくる者がいた。
ほっそりとした長身。
キラリと光る眼鏡。
穏やかな笑みを浮かべた整った顏。
相手チームのリーダー格、氷室マサムネ。
勉強も魔法も運動も、とにかく優秀。
いつも穏やかに笑っているけど、いまいち何を考えているかわからない。
ソーマはちょっと苦手だった。
「あ、ああ。さっきのはマサムネが?」
「そうだよ御崎くん。頑張ったし、惜しかったね。けど味方の動きだけじゃなくて相手のことも良く見ていないと……」
ソーマにそう答えて、マサムネはボールを拾い上げた。
重量制御だ。
ソーマの手の内のボールにしかけられて、ソーマからボールを奪ったのはマサムネだった。
魔法ならなんでも得意のマサムネが仕掛けた変性魔法が、試合の勝敗を決めたのだ。
「でもけっこう驚いたよ。まさか3つのボールを全部先取されるなんて。御崎くんの頑張りには、いつか結果がついてくる。僕はそう信じてるよ」
「…………」
ソーマにそう言うと、マサムネは背中を向けて教師の羽柴の方へ何かを言いにいった。
ソーマは、何も言えなかった。
「ソーマくん。大丈夫? 怪我してない?」
ナナオが心配そうな顔でソーマの方にかけて来る。
「御崎ソーマぁあああああ!」
黒川キリトが、ものすごい顔でソーマの方に歩いてきた。
額には血管が浮き上がっている。
「このクズ! 無能!」
「わ、悪かったよキリト」
キリトがソーマの襟首をつかんだ。
ソーマも小さく謝る。
キリトの態度は大嫌いだが、ソーマのせいで負けたのは事実だ。
そして、突然。
ゴッ!
「エグゥ……!!」
ソーマのミゾオチに、何かが叩き込まれていた。
キリトの握りこぶしだった。
息をすることも出来ずに、ソーマは呻いた。
キリトの拳は、重くて固い、鉄の塊みたいだった。
「…………!」
ソーマは気付いた。
キリトは自分の拳に、変性魔法をかけているのだ。
誰にも気付かれないようにひっそりと。
そして魔法を使えないソーマにむかって……!
「自分のクズさがわかったんなら、2度と試合なんか出るんじゃねーぞ! 今度おなじマネしたら100発ブチかます!」
ソーマを地面に放りだすと。キリトはそう言い放った。
そしてソーマとナナオに背を向けて、昇降口の方まで行ってしまった。
「ソーマくん! ソーマくん!」
「う、ぐ、ぐ……」
オロオロするナナオ。
ソーマは地面に膝をついたまま、しばらくの間苦しい息を吐くしかなかった。
#
「そうションボリすんなよソーマ。キリトがああなのは、いつもの事だろ?」
「そーだよ。元気だしなってソーマくん!」
放課後。
夕暮れ時の通学路を、ソーマとコウとナナオの3人が歩いていた。
「ああ。わるい2人とも……」
ソーマはそう答えるが、まだ心は浮かないままだ。
「そうだソーマ。今日はさ、アソコに行ってみようぜ?」
「アソコ?」
話題を変えようとして、コウが話を切り出した。
ソーマは首をかしげる。
「御霊山だよ。御霊山!」
「御霊山って……例の山火事のあった……!」
コウの言葉に、ソーマの目が見開かれた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる