女スパイと蜜の罠

奥山紅葉

文字の大きさ
上 下
3 / 15

3.尋問

しおりを挟む
続き部屋はやはり寝室だった。
最初から行為を目的としている部屋だからか、大きめのベッドが中央に置かれている。

ゼットから奪うように私を抱き上げたハージェイはベッドの上に私を放り投げると、居間に戻って行った。
一人になったので、手首の間接を捻って、手を拘束していた紐を外す。
痛みの残る手首をさすっているところに視線を感じて顔を上げれば、寝室の入り口に立ったゼットがこちらを見ていた。



「この身は王家の狗なれば、殿下の問いには全て偽りなく答えさせていただきます。」

ゼットの本当の名はナゼルトーヴィス・イル・サザントリス。
彼は、ここサザントリス王国の王太子殿下で、去年成人したばかりの17歳だ。

居住まいを正して宣誓し、頭を下げる。
全裸、かつベッドの上での宣誓など、格好がつかないにも程がある。

「ここでは『ゼット』で。」

肩に重みを感じて確認すると、服が掛けられていた。
先程までゼットが着ていたフロックコートのようだ。
胸の前で合わせられた服を内側から掴むと、手が離される。

「ありがとうございます。」

ハージェイに良いようにされた後のやさしさに罪悪感を覚える。

「質問してもいいかい?」
「はい。」

ゼットはベッドの縁に腰掛け、仮面を外した。
こちらに体を向け、遮る物のない瞳を合わせる。
将来自分のターゲットになる人だと、子供の頃から幾度となく聞かされてきた人の顔が間近にあった。
少し高い位置からこちらを見下ろす瞳を直視できず、顔を伏せる。

「トランプの人間なんだね?」
「はい。」

王都を拠点とする傭兵ギルド最大手、カーディス。
その裏組織がトランプだ。
騎士団の裏付け調査を行っていた隠密集団が組織化されてトランプとなり、のちに表の顔が必要になってカーディスが結成された。
王都の治安維持に一役買い、孤児院経営で社会貢献もするカーディスであるが、王家のために動いていることは設立当初より変わっていない。

「ポジションは?」
「ダイヤの7です。今はアルトバイン公爵家でクリスティーナ様付きの侍女をしております。」

トランプにはトランプカードを模して、四つのチームがあり、ハートが王城、ダイヤが王都、スペードが国内全域、クラブが国外とチームで担当が分けられ、各チームに絵柄に因んだ役職持ちがいる。
私は王都担当チームの平メンバー。
ハージェイは『ハートのJ』──王城担当チームの役職持ちだ。

「クリスティーナの?」
「はい。今日はクリスティーナ様のご命令で、で…ゼットがお忍びで女性と会われていると耳にされたとのことで、調べて来るように言われました。」

二人が知りたいであろうことは、先に話しておくに限る。

クリスティーナ様はゼットの婚約者だ。
王太子と国内有数の貴族のご令嬢による典型的な政略結婚で、現在は最低限の交流しかない。
婚約者の不貞かもしれない行動を聞いて、真実を知りたいと思うのは普通のことだ。
その行動の由来はさておき。

「クリスティーナ様へのご報告は、其方の良いようにさせていただきます。」

これで終わりにしたいという思いを込めて、頭を下げた。

部屋に戻って来たハージェイが此方に近付いて来て、体が少し強張る。
着替えたようで、先程までのドレスではなく、シンプルなシャツとスラックス姿だ。
年齢不詳な美女からの落差が激しい。


ハージェイは手にしていたグラスをあおると、ゼットにグラスを渡してベッドに片足を乗り上げた。
そして、私の顎を持ち上げて、口を合わせる。
隙間から水を注がれて、受け入れるため口を開くと舌も捻り込まれた。
口内を這うように刺激する舌には構わずに、水を少しずつ嚥下えんかする。
次第に深くなる口付けに翻弄されないように耐え、勢いが弱まったタイミングを見計らって、体を離すよう促した。

「二人は、…恋人…ではないようだけど…、そうゆう関係なのかい?」

何とも答え難い質問だ。
でも、ハージェイに下手なことを言われる前に自分から話した方がいいと判断して口を開く。

「トランプの養成所での先輩です。」

訝しげなゼットの視線に耐えられない。

「先輩とあんなことするの?」
「……します。」
「するんだよ。」

訓練で。
ハージェイが、トランプの養成所の閨事情をゼットに話すのを聞き流す。
ターゲット相手に身内の男女間のことを聞かされるとか、口を噤んで苦痛に耐えればいい普通の拷問の方がマシかもしれない。

──とその時、胃から甘い匂いが迫り上がった。


「捨てて!!」

ハージェイの話を聞きながらゼットが口を付けていたグラスを叩き落とす。
床に転がったグラスから溢れた液体はそう多くない。

「セガネが入ってます。飲みましたか?」
「あ、ああ……。」

セガネは速効性の媚薬の一種で、性的欲求を高める効果がある。
毎日使っても良く効き、副作用もないとの評判だが、盛られる側からからすると厄介な薬だ。
数時間ではあるが、熱を持て余すことになる。
吐くか、汗や尿で水分を外に出せば、効果を減らせるはずだ。

間もなく思うように動かせなくなるだろう体を叱咤して居間に戻るも、ドリンクテーブルの上には水のピッチャーがない。

「水、どこに隠したの!?」

犯人はハージェイに決まっているが、睨んでも嗤って返すだけ。
彼を問い詰めるのも隠された水を探すのも諦めて、脱いだドレスの中から水筒を探し出し、部屋の隅にあった汚物入れを持って寝室に戻る。

ゼットに駆け寄ったところで、ハージェイに後ろから羽交い締めにされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

坊っちゃまの計画的犯行

あさとよる
恋愛
お仕置きセックスで処女喪失からの溺愛?そして独占欲丸出しで奪い合いの逆ハーレム♡見目麗しい榑林家の一卵性双子から寵愛を受けるこのメイド…何者? ※性的な描写が含まれます。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

寵愛の檻

枳 雨那
恋愛
《R18作品のため、18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。》 ――監禁、ヤンデレ、性的支配……バッドエンドは回避できる?  胡蝶(こちょう)、朧(おぼろ)、千里(せんり)の3人は幼い頃から仲の良い3人組。胡蝶は昔から千里に想いを寄せ、大学生になった今、思い切って告白しようとしていた。  しかし、そのことを朧に相談した矢先、突然監禁され、性的支配までされてしまう。優しくシャイだった朧の豹変に、翻弄されながらも彼を理解しようとする胡蝶。だんだんほだされていくようになる。  一方、胡蝶と朧の様子がおかしいと気付いた千里は、胡蝶を救うために動き出す。 *表紙イラストはまっする(仮)様よりお借りしております。

優しい先輩に溺愛されるはずがめちゃくちゃにされた話

片茹で卵
恋愛
R18台詞習作。 片想いしている先輩に溺愛されるおまじないを使ったところなぜか押し倒される話。淡々S攻。短編です。

私の記憶では飲み会に参加していたハズだった(エロのみ)

恋愛
魔術協会所属の女性が飲み会に参加していたハズなのに気付けば知らない男に犯されていた、なエロシーンのみ。 ムーンライトより転載作品。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...