ZODIAC~十二宮学園~

団長

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BATTLE IN TOKYO

極東決戦編その9

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四月二十九日
早朝に異音に気づいた。大きな物体が上の道路を跋扈しているようだ。地下は崩れそうである。
「神風、三江、ついて来い。」
急いで階段を上がり固く閉めた換気口の網目から外を覗こうとすると液体状の物体が滴り落ちてきた。量が増えて意思を持つように固まり合って目や触手なような形になってきた。
「撃ち殺せ。」
俺とハヤテで風の魔法と銃弾の嵐をあびせたが液体状の物体が散らばり元に戻ろうとする。
「こいつはキメラか。」
「キメラ?コタン副宮長、キメラって」
「下がれ。強力な火か氷の魔法が使えるものがいるか探してこい!」
俺とハヤテは火の魔法が使える人を出演者の中から光星明に通訳してもらい探したが見つからなかった。
「くいな、強力な火炎の魔法使えないか?」
「私は水専門だけど、知っている魔法で一番強いのを使ってみようか?」
「上がってきてくれ。キメラがいる。」
「キメラって戦時中の遺伝子操作した生物兵器のこと。」
「そうだ。細胞ごと灰か凍死にしないと死なないタイプだ。」
コタン副宮長が大地の魔法で潰しているがキリがない。
「炎よ、我が力となれ。火球砲(スパエラ・イーグニス)!」
キメラは換気口の外の部分まで灰になって跡形もなくなった。換気口を開け警戒しながら外を見ると絶望的な光景が広がっていた。
「なんじゃこれ。キメラだらけではないか。」
コタン副宮長も唖然とするのも無理はない。換気口の周りすべてが大小様々なキメラの群れで囲まれていた。その数は数百体いると思われる。三十人以上の一般人を連れて外に出ることはできない。
「戻るぞ。換気口を急いで閉めろ!」
「くいな、札を張ってくれ。」
水無瀬水鳥が御札を貼り水中結界でキメラは入ってこられないが、こちらも出ることができない。しかも地下は崩れそうである。自分の命が危険だと悟った俺は慌てて聞いた。
「コタン副宮長、どうするのですか?」
「三江、総司令に波状攻撃させろ。」
「こちらアリエス、無数のキメラに囲まれている。迫撃砲で波状攻撃を求む。」
「・・・とれない。もう・・・しろ。」
「こちらアリエス、総司令部聞こえるか?」
「お・・・ほう・・・しろ。」
「何これ?ダメです。ジャミングされています。」
「地下を抜けられるか確認する。光星、この地下の先はどうなっておるのか聞いてくれ。」
光星明が急いで地下アイドルのグループに聞くが、南下すると海に水没しており、北上すると東に曲がって地下深くなり行き止まりだという。海の中に長時間入れるのは水無瀬水鳥しかいない。水中結界では三十人以上はとてもじゃないが入れない。八方塞がりだ。考えても、考えても、考えても何も浮かばない。出演者たちも地響きに不安を隠せないでいる。
「水無瀬副宮長もう一度さっきの魔法は使えるか?」
「魔力の残量からして、後一、二回は使えます。」
「神風、魔力は?空は飛べるか?」
「残っています。飛べますけど対空陣地はどうしますか?」
「ハンナ、光星も来い。」
コタン副宮長を五人と一匹が囲み輪を作って話し合いを始めた。
「よいか。水無瀬副宮長が火の魔法で換気口にいるキメラを倒して、神風とともに空から高速でイデアルの対空陣地を急襲する。その間にワシらは地下を深く進む。E-ウォッチで合図をしたらキメラたちの上空六千五百フィートでこの銃を上空に撃て。」
そういってコタン副宮長はバックルの後ろから非常用の信号弾を出した。
「私とハヤテだけで対空陣地を壊すのですか?」
「どうした自信がないか?」
「魔法使いがいたらどうします?」
「ライブのときに携帯対戦車グレネードランチャーしか使わなかった。北西側には魔力を感じなかった。」
「この信号弾は何の信号なのですか?」
「学園都市の上空を守護している空中要塞『瑞風』への合図だ。」
「へ、あの空に浮いている島みたいなの要塞なの?」
「そんな遠くに届くのですか?」
「地球は球体じゃからな。海上ではなくパンドラにいれば真っ直ぐ高く狼煙が上がれば位置がわかるようになっておる。難しいことはわからんが『瑞風』が瞬時に居場所を計算してくれる。色は赤の火薬じゃ。火炎系の強力な魔法でキメラを殲滅する。」
「威力は?」
「ワシも使ったことがないのでわからんが数メガトン単位で来ると思う。」
「ウチらは巻き込まれるのじゃ?」
「心配するな。ワシが水無瀬副宮長の御札を使って水中結界を五重にする。地下深く移動もする。神風は合図するまで絶対に撃つな。」
「俺とくいなは撃ったあとは上空で待機ですか?」
「高度は上空二万フィート以上まで離れて欲しい。熱波がおそらく、とてつもない。キメラ殲滅後、ハンナは一般人の記憶を消去して欲しい。十二宮学園の秘密装備じゃからな。」
「生きていればそれぐらいできるけど。」
「三江が先導して一般人を地下深くに誘導する。光星は一般人に通訳で一旦地下深く非難するとだけ伝えて欲しい。この作戦は秘密じゃ。」
「分かりました。」
「よいか。十二宮学園の誇りにかけて自分が出来ることを精一杯するのじゃ。ワシらは学園の入試をパスした選ばれた存在なのだ。連邦でもイデアルでも宗協連でもない十二宮学園の学生としての誇りと使命感を持て!」
「ハヤテ、ククルを貸すよ。イデアルの対空陣地を写しておいて。」
こうして六人と一匹は急いで準備をして円陣を組み手と手を重ね合わせ気合を入れた。このとき俺は『瑞風』の威力がどの程度のものか想像できなかったが、逃げる先頭を走れるのは「ラッキー」と思った。ハヤテが換気口の水中結界の御札を剥がした。
「炎よ、我が力となれ。火球砲(スパエラ・イーグニス)!」
ハヤテは水無瀬水鳥をお姫様抱きして猛スピードで東京ドームへと向かった。
「くいな、水中結界を張ってくれ。このまま低空で突っ込むぞ。」
「わかった。」
二人の映像はククルからE-ウォッチで見ることができる。東京ドームの北西の丘に大砲がありハヤテは真っ先に四十五口径の高角砲の砲筒にピンを抜いた手榴弾を入れた。水無瀬水鳥を下ろすと慌てて出てきた兵士の右肩右足を拳銃で撃ち抜いた。
「水よ、我が力となれ。水光接天(すいこうてんにせっせ)!」
圧倒的な水の魔法で半分は水圧で吹き飛ばされた。まるで津波に飲み込まれたようだ。
「神風、六時の方向に機関銃じゃ。」
E-ウォッチでコタン副宮長が叫んだ。ククルの映像を見て一瞬で危険な重機関銃のブローニングを見抜いたのだ。ハヤテと水無瀬水鳥の水中結界が割れた。水無瀬水鳥は再び御札をハヤテに渡して詠唱をする。ハヤテは銃弾の嵐のなか右頬から血が飛び散った。しかし、構わずに重機関銃の銃座にいる兵士めがけて飛んでいった。同時に刀剣ホルダーからタクティカルナイフを取り出して兵士の頚動脈を正確に切り裂いた。急いで重機関銃のコッキングレバーを引き向かってくる兵士と高角砲の銃座めがけて両手の親指で引き金を押し込み撃発した。俺には真似できない技である。
「ハヤテは戦場に行ったことないですよね・・・。」
「ワシからしたらまだまだじゃが、日頃の訓練のおかげかのう。ワシらも出発するぞ。三江、先頭を行け。」
あれだけ派手にやらかせば対空陣地は壊滅だろう。俺たちは『瑞風』の魔法を避けるためになるべく地下深くに移動を始めた。出演者の中に靴擦れの人が三人いたので俺が一人を担いで金さんと光星明が肩を貸しながら地下奥を北上する。なんで俺が出演者の面倒まで見なければならないのだろうか。コタン副宮長は一番後ろで足の遅いアイドルグループのメンバー二人を抱えながら促進する。どれだけの怪力なのだろうか。
「さっさと走らんか。うすのろめ。」
イデアルの対空陣地がやられたらイデアル側もすぐに別働隊を動かしてハヤテたちに応戦する可能性が高い。俺が走っていると水が太股あたりまで来た。これ以上は奥には進めないようだ。E-ウォッチで照らしてみると地下トンネルはこの先では二手に分かれている。
「ここが一番深いらしいよ。」
光星明が地下アイドルから聞いたようだ。近くには「上野駅」と表示されている。コタン副宮長が全員を一箇所に固めた。E-ウォッチでハヤテたちに合図を出した。
コタン「神風、信号弾を撃て。」
ハヤテ「了解。現在、上空五千」
コタン「信号弾の赤色を確認して、発射後は上空二万フィートで待機しろ。」
ハヤテ「まもなく目標地点。」
あかり「巻き込まれないように気付けて。」
くいな「水中結界を発動してください。」
「皆の者、ワシの後ろになるべく固まれ。水よ、我が力となれ。五式水中結界!」
とてつもない魔力で水中結界が何重にも重ねられていく。五重どころではない。さすがコタン副宮長だと思う。とそのとき、轟音と大地震の揺れが襲いしかも強くなってくる。
「何?この魔力?憤怒のような感じがする。心と体が押しつぶされそう。」
金さんは思わず口にした。魔法使いではない俺にも、一般人にも圧力がかかった。
「堪えろ。ワシが護る!」
周りの石にヒビが入り、金属類は赤く液体になり始め、水は蒸発を始めた。E-ウォッチのククルからの映像は光に包まれ何も見えなくなった。大きな圧力で水中結界ごと下に潰されそうになるのをコタン副宮長が踏ん張っている。水中結界が外側から一枚ずつヒビが入り割れていく。
「ハンナ、手伝ってくれ!」
すぐに金さんがコタン副宮長の足元にしがみつき魔力を供給し始めた。俺が光星明の光の核石が光っていることに気付いた。
「光星、核石!」
光星明はケープから勾玉状の光の核石を取り出した。
「母さんの形見が・・・こんなこと初めて。お願い、母さんあたしたちを護って。」
光星明が核石を握り締めたとき俺に熱い鼓動が伝わってきた。
「コタン副宮長、負けないで、押し返して!」
他の一般人もコタン副宮長に大声をかけた。何と言っているかわ分からないが一同声援であるだろう。
「ワシらは天の十二星座を統べる者だ!うをおおおぉぉ!」

最後の一枚の水中結界が割れたとき青空が見えた。とても清々しい気分になった。
「お前ら大丈夫か?」
コタン副宮長がガレキを一人で抱えていた。額からは血が滴り落ちている。急いでガレキをどけると穴の中にいるようだ。高いところに青空が見える。ハヤテと水無瀬水鳥が後下してきた。水無瀬水鳥と光星明は抱き合った。
「よかった。明ちゃんが無事で。」
「くいなの御札を信じていたから。」
「三江、無事でなによりだ。」
「死ぬかと思ったよ。金さん大丈夫?」
「ウチ、疲れた。みんな無事でなによりだよ。」
「神風、外はどうなっておる?」
「空からだと半径六千フィート内は『瑞風』の火炎魔法で焦土です。周りに魔力は感じません。一人ずつ地上に上げますね。」
「そうしてくれ。ワシは煙草が吸いたい。」
「傷の手当てが先ですよ。」
水無瀬水鳥は腰の救護ポーチから消毒液を出してコタン副宮長の応急手当を始めた。全員が地上に上がり唖然とした。見渡す限り何もない黒い大地だ。コタン副宮長はE-ウォッチで方角を確認した。宗協連の本部を目指してゆっくりと歩き出した。本当に人気も魔力も感じられない。傾いた建物らしきものが見えてきた。休憩と一緒に金さんは一般人から『瑞風』の魔法の記憶を消去した。
「金さん、この人たちはどうやって助かったと思っているの?」
「んあ~、コタン副宮長、ハヤテ、水無瀬水鳥と風翔が普通に護って東京ドームから脱出したみたいな感じかな。」
俺には関係ないが、空中要塞『瑞風』のことがバレなければよいのだろう。歩いていくと東京の街並みに戻った。宗協連の本部では一般人の家族、関係者と報道陣が外にあふれて待っていた。互いに生きていることがわかると抱きしめて喜び合うものが多かった。
「姉御!無事だったのですね。」
「K、そなたも無事か。まぁ、昔から殺しても死なないやつだったからな。」
「いや。よかったです。下級生の皆さんも無事でなによりですぜ。」
「疲れた。金さん、今日はもう休もう。」
「んあ~、ようやくメイク落としてシャワー浴びられるわ。」
今日は宗協連と連邦の関係者とは何も話さずに食事をして就寝した。向こうも気を使ってくれているようだ。早く寝よう。
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