ZODIAC~十二宮学園~

団長

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極東決戦編その6

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四月二十六日
朝起きると昨日の情報室で水無瀬水鳥が仕事をしているようだ。
「水無瀬、朝から何をしているのだ?」
「華鉱社を買収する手続きです。元々、下請け会社が多く、株も連邦中にありますから株式公開買付けでまとめて株式を半分以上水無瀬家で買います。イース社長の逮捕で株価が下がっている今がチャンスなのですが、水無瀬家が買収することが報道されると市場は一気に盛り上がりますから。」
「下請けの中小企業も全部買うのか?」
「そのつもりです。元から華鉱社と友好関係にある会社とはパイプを維持しつつ、労働環境や地球環境に配慮した鉱山開発を目指します。」
「その、・・・それに反対する役員とかいるだろ・・・今のままの採掘量を維持したいとか。」
「役員は水無瀬家で全部決めます。そのために株を半分以上買うのです。」
どうやら株取引のマネーゲームはすでに始まっているようで水無瀬水鳥はひたすら株価の動向に注視していた。本当は水無瀬家の家臣や直属のマネー会社に任せればいいのだろうが今は時間がないのだ。
「『世界システム開発局』の話を前にしましたよね。」
「お、おう・・・。」
「この組織に絡んでいる企業や団体が華鉱社の株を多く持っているようなのです。」
「一体何を考えているのだ?」
「今、テンくんに頼んで詳しく調べてもらっています。電波機器や電波塔の建設に関わっている企業が多いです。」
「朝食、食べに行かないか?」
「そうですね。今、数万株買ったのであとは市場の動向に任せましょう。」
そう言って書類の山から出てきた水無瀬水鳥はかなり疲労しているようだった。俺にはどうでもいいが、情報通信網に繋がっていると便利だがやらなければならないことが格段に増える。

 六人と一匹で朝食を食べ終えると金さんと同じくライブに出演予定の人たちが続々と現れた。正直、知っている人はいない。さほど著名な人は呼んでいないようだ。金さんは笑顔で主演者たちと握手をしていた。双子宮の知り合いがいるのだろうか。
「コタン副宮長、怪しい人いますか?」
「殺気は感じないな。挙動も不審ではないし主演者は本当に歌人のようじゃ。三江はハンナのそばにいてくれ。ハヤテ、水無瀬副宮長と光星明はワシについて来い。警備のことで話がある。」
俺一人が金さんの御守りをするのは正直、嫌な気分だ。金さん以外は言葉も通じないし面倒くさい。

 金さんが一様に出演者に挨拶をし終わると、駆け寄ってきた。
「東京の秋葉原ってところで地下アイドルやっている人もいたよ。こっちでは有名人なのだよ。」
「へぇ~。俺に言われても極東のアイドル事情はよくわからないのだが。金さんにとっては、みんな知っている人ばかりなの?」
「んあ~、知らない人だよ。でも笑顔で挨拶しないと。」
いつもの笑顔の言葉からは緊張は全く感じられない。相手の心が読めるとこうも気楽でいられるのだろうか。俺もその力が欲しい。
「コタン副宮長のところに合流しないか?俺も一応、警備について話を聞いておきたいし。」
コタン副宮長のいる情報室に入った。円卓には数人の僧兵、連邦軍の上官とコタン副宮長がククルを囲んでいた。ククルの頭上にライブ当日の東京ドームの画像を映し出していた。通訳なしで普通に俺たちと同じ言葉で会話をしている。
「屋根は北側が大きく破壊された。当日の天候は晴れなので屋根は開けましょう。」
「観客席の修理はどのくらい進んでおるのじゃ?」
「魔法陣と不発弾はすべて処理した。北側の破壊された観客席はすべて撤去し、グラウンドに繋がる通路にした。東と西の二階席は壊れたままでのう。」
「それは崩れ落ちてくることがあるのか?」
「崩れ落ちないように杭を打ち込んだ。しかし、大人数は立ち入りできん。」
「ラヒム一曹とワシが東と西の二階席で配置。グラウンドの舞台、メインステージと観客の間にスペースを設けて警備員を配置しましょう。」
「それでは困る。観客とアーティストの方々が至近距離でなくては盛り上がらないだろう。それにグラウンドの観客動員数は多いと予想している。」
「観客席のチケットは?」
「すでに完売しておる。民衆も娯楽が欲しいのだろう。」
「水無瀬副宮長、水中結界で舞台とメインステージをすべて覆るか?」
「私の配置場所によります。真ん中の舞台の前に配置して頂ければ、中央の舞台をカバー出来ると思います。南側のメインステージは広いので無理です。」
「南側のメインステージから舞台までは無防備じゃ。メインステージは広くて人数が足らん。宗協連は何人出せるのか正確に答えてくれ?」
「自分たちは東京に来たばかりで把握しておりません。」
「クソ。サクラ司祭を呼んで来い。」
「司祭はお忙しく、今、来賓の方と接客中です。」
「おぬしたちはどこの部隊の所属なのだ?上官を呼べないのか?」
「自分たちは異端審問局から異端とされた宗徒を捕らえることが主な任務です。」
「ここは、紛争地域じゃ!殺られるか殺るかの世界じゃ。」
コタン副宮長が列車内で悩んでいたのは宗協連との連携のようだ。彼らは神様かどうかしらないが何等かを信仰していて自分たちを攻撃してくる宗徒としか戦えないのだ。ド派手で無信者のC級アイドルの金さんたち出演者を警護する気はないのだろう。こうなると連邦軍に頼みたいところだがラヒム一曹が配備された。尉官クラスを派遣しないのはなぜだ。連邦にとってこのライブは戦況に関係ないのか。兵士たちの士気には繋がらないと考えているのだろうか。コタン副宮長に確認しておきたいことがある。しかし、連邦軍と宗協連の前ではダメだろう。
「コタン副宮長、ちょっとお聞きしたいことが・・・」
コタン副宮長、ハヤテ、水無瀬水鳥と光星明が部屋の端に来てくれた。
「なんじゃ?」
「光星が光の核石を披露することを彼らは知らないのですか?」
「当然じゃ。学園都市の秘密兵器じゃ。」
「あたしは兵器じゃありません。」
「俺とハヤテは実戦経験ないし、警備だけで済みますよね?」
「このままでは埒が明きません。明ちゃんのことを黙っておくならば別の手段で連邦軍と宗協連を動かす必要があります。私の妹に連絡を入れます。」
「それが一番早いようじゃ。聖帝猊下の勅命ならば宗協連は動くだろう。ワシは東京の連邦軍総司令部に行ってくる。」
俺とハヤテは金さんと光星明の護衛説明のために残った。しばらくするとサクラ司祭から当日のプログラムが配布された。十組のアイドルのライブ予定である。金さんは最後に登場することになっている。来賓には聞いたことがない連邦議会の政治家とイデアルの政治家の名前があった。極東の最前線に来るということは穏健派であると思われるが同時にたいして影響力がない政治家たちなのだろう。無事に何事もなく進むことを願うしかない。
 コタン副宮長が総司令部から戻ってきた。軍の増員はできなかったのだろう。何やら機嫌が悪く落ち着きがなく煙草をずっと吸っている。夜中まで交渉していた水無瀬水鳥は妹に連絡して返事待ちだという。頼み込んでプログラムに聖帝猊下の挨拶が加わることが決まった。情報通信機器で聖都から生中継でメインスクリーンに映し出される。宗教関係の話は俺には関係ないのでどうでもいいが。
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