27 / 82
2章 闇の魔力
27 禁忌魔法であの日に戻る
しおりを挟む「ドクトリング! 俺はやり直したい」
ドクトリングの研究所で、俺はやり切れない気持ちをぶつけた。アカツキにはやられっぱなしだし、父と母はあいつのせいでいなくなるし悔しかった。
「お兄ちゃん」
ちょうど研究所に来ていた愛里と会った。ドクトリングとお茶を飲んでいたようだった。
「やり直したい、とは?」
ドクトリングは困った顔をして俺に言った。
「なんか、時を戻すような魔法とかない? それか、肉体強化魔法とか?」
俺は大まじめに言った。
「お兄ちゃん、無茶を言わないの! そんな魔法……「あるには、ある……」」
「「あるの!?」」
俺と愛里は同時に叫んだ。
「ただ……。それは、禁忌魔法じゃが……」
ううむ……。と口ごもって黙ってしまった。
「肉体強化魔法は、上級魔法使いなら使えるじゃろ。アリシア姫様とかなら……」
姫様、上級魔法使いなんだ。凄い。
「時を戻す魔法というより、一人を少しだけ過去に戻す禁忌魔法は、ある」
少しだけ過去に戻す、禁忌魔法!?
ドクトリングは「しまった」と言った。口を滑らせたのだろう。
「ム、ム、ムりじゃ!」
両手を左右に振って、汗をかきながら無理と言っている。
「たとえば、ドクトリングが言った禁忌魔法を行うとしたらどうするの? お兄ちゃん」
ゆったりとお茶を飲んでいた愛里が、立ち上がって俺に話しかけてきた。にこやかな表情から真剣な顔になった。
「アカツキに会った、あの日に戻ってやり直したい!」
「えっ!」
あの時に戻ってアカツキを捕まえれば、城壁を壊されなかった。
父と母もいなくなる事なんて無かった。
あの時に戻れれば……!
「でも、禁忌魔法なのでしょう? ドクトリング」
愛里がドクトリングに振り返って聞いた。長い艶のある髪の毛はサラリと流れた。今はベールを被っていない。
「まあ、そうじゃが……。やれんことはない」
ひげを触り考え込んでいる。禁忌魔法というぐらいだから、危険なのだろうか?
「危険なのですか?」
「半分は……、な」
ドクトリングは俺達交互に見て話しかけた。
「この魔法は未知のモノじゃ。何が起きてもおかしくない」
俺はゴクリとツバを飲み込んだ。
「俺は……。このままジッとしてられない」
指を強く握りしめた。
「ウウム……。この禁忌魔法は儂が禁忌にしたのじゃ。力のない者が使うと、暴走する」
「暴走……」
やはり危険なんだ。
「じゃが、儂と愛里様が同時に力を使うなら、可能じゃ」
え? 愛里となら?
「私?」
愛里はキョトンとしていた。ドクトリングと一緒とはいえ禁忌魔法を使えると言われて、動揺していた。
「愛里。ドクトリングと、その禁忌魔法を使って俺を少し前の過去に送ってくれないか?」
自分でむちゃを言っているのは分かっている。だけど、このままじゃ。また、アカツキが奇襲しに来るだろう。そうなったらまた犠牲者が出る。
それならこちらが先に手を打つ。
「……分かったわ、お兄ちゃん。ドクトリング、お願いしてもいいかしら?」
愛里は何か決心したように、俺とドクトリングに言った。
「愛里……! ありがとう」
「……分かった。しかし。過去に行き、何かを変えようとしたら今の何かが、変わってしまうことを覚悟してくれ」
今の何か……?
「過去を変えるということは、そういうことじゃ」
「わか、分かった……」
俺は頷いた。手が震えてきた。ドクトリングは「ちょっと待っておれ」と言って、隣の部屋に行った。
「これじゃ。この魔術書じゃ」
そう言い、テーブルに赤い表紙の魔術書を置いた。
「愛里様。儂と愛里様の名前を交互に言ったあと、続いて呪文を唱えるのじゃ」
「……はい」
俺は剣を強く握った。
「……大賢者 ドクトリングと、」
「愛里「の名において」」
ドクトリングと愛里は難しい呪文を唱えていった。魔術書の上に手のひらを重ねた。
「……!」
禁忌魔法の魔術書は眩しい光を放ち、部屋全体を照らした。俺は眩しくて、まぶたを閉じた。
「くっ……!」
腕で目を守って動けず、立ちつくしていた。二人の魔法の詠唱は続きいていたが、だんだん遠くに聞こえるようになった。
眩しい光が静かに収まっていって、俺は目を開けた。
「ここは……森だ」
ドクトリングの研究所のある塔に3人でいたはずなのに、深い森の中に俺は立っていた。
1
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる