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1章 異世界転移

10,異世界 アトラクション再び

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 ドラゴンで来た時に着陸した場所のお城の裏側に、家族全員で騎士さんに案内されてやってきた。

 石畳で作られた広い円形状の場所で、よく見たらゲームの世界だったらボスと戦いそうなステージみたいな所だった。
「あれ? 今日、大賢者さんはいないの?」
黒いドラゴンを操っていたのは大賢者さんだったから、てっきり今日も大賢者さんが一緒に行くものかと思っていた。

 「ドクトリングは用事があるそうだから、来られない。ついて行きたかったみたいだったけどね」
母は大賢者さんが来られない事を教えてくれた。
「え――、残念! おじいちゃん、来ないんだ」
愛里は口を尖らせた。大賢者さんをおじいちゃん呼びしたよ……。大丈夫か? 妹よ。

 「え、じゃあ誰がドラゴンを操る? の??」
俺は案内してくれた騎士さんを見た。
「えっ? 私はドラゴンを操れるほど、聖魔力を持ってません!」
騎士さんは片手をぶんぶんと左右に振った。
「じゃあ、誰が?」
愛里がキョロキョロと周りを見て、ドラゴンを操ってくれる人を探した。

 「我……コホン。いや、私がドラゴンを操る」
父が名のり出た。
「え、操れんの?」
思わず口に出す。だが、フードを深く被った父はいつもの穏やかな雰囲気とは違って見えた。

「カナ、30%解いてくれ」
父が母に話しかけた。母は「了解」と言い、父の首にいつもつけているチョーカーの飾りに人差し指を向けた。
「へ?」
突然何をするのかな……と二人を見ていた。

 「……30%、解除」
トン、っと母が軽く飾りを突いた。
「きゃっ!」
一瞬、強いつむじ風の様なのが父の周りに起こって皆の服や髪の毛をバサバサと揺らした。
「「えっ、何!?」」
愛里と俺はうろたえた。案内してくれた騎士さんも剣に手をそえた。
「大丈夫だ。……問題ない」
父が落ち着いた声で皆を制した。すると不自然に風は収まった。

 ブルリ……。何だか少し鳥肌がたっている。騎士さんは首を傾げながらそわそわしていた。
「あー、案内してくれて有難う! もう大丈夫だから下がっていいよ? ご苦労様」
母は案内してくれた騎士さんに、そう言って下がらせた。

 「呼んでくれ」
ドラゴンの着陸場? にいた、誘導員に父が話しかけた。
「り、了解です!」
変わった形の、骨で出来てるだろう笛を口にくわえて息をはいた。
ピー、ピー、ピー、ピー、ピー!
 呼ぶのは5回、吹くのか。あまり気持ちの良い音じゃないなと、何となく思った。

 
 ギャオォォ――ン! と遠くから鳴き声が聞こえた。

 「うわ!」
太陽の光が一瞬……曇ったかと思い見上げたら、黒い影が見えてあっという間に大きくなってこちらに近づいてきた。
「きゃあ!」
思わず愛里は両手で頭を守ってしゃがんだ。

 見上げた空いっぱいに黒いドラゴンが、バサッバサッと翼を羽ばたかせて空中でとまっていた。
「やっぱり迫力あるなぁ!」
 黒光りしている黒いドラゴン。鋭いツメをみるとやはり恐くて竦んでしまうが、物語の中にしかいなかったドラゴンを間近で見られて俺は心が躍る。
 急降下で地上へ降りる前に、一度とまって勢いを落としてからドスンと着陸場へ降りてきた。

 「じゃあ、行きましょう」
そう言って母は、俺と愛里の肩に手を乗せた。
「へっ!?」
 ……一瞬で、ドラゴンの背中のカゴの中に移動した。
「魔法、使っちゃった」
母は俺達に、にっこりと笑いかけた。
「「……」」
俺と愛里は、急なことでびっくりして声が出なかった。

 「あれ? お父さんは?」
父がいないことに愛里は気が付いて言った。
「すぐ来るわ」
母が慌てもせずに落ち着いて言う。

 「待たせた。行こうか」
シュン! と父がドラゴンを操作するカゴの前の場所に現れた。
「「ワァ!」」
 二人はびっくりして叫んだ。
「慣れろ」
慣れろって言っても……。二人は困惑した。
 
 困惑している二人をよそに父はドラゴンに命令する。
「森へ進め」
ギャオオン!!
ドラゴンはひと鳴きしてから地を蹴り、翼を羽ばたかせて空へ向かった。
「え、父さんドラゴン操れるんだ……」

 俺達の知らなかった両親の秘密。凄すぎて何だかそろそろ頭がマヒしてきそうだ。
「もう何でも来いや! って感じ」
「私も……」
俺と愛里は、苦笑いしながら言った。

 父が操る黒いドラゴンは、何だか大賢者さんが操っていたよりも安定して早く飛んでいるように思えた。
「わりと、自然が多いな」
たぶん湖や川や森などが視界に見えた。空には太陽と月……。
「あれ? 月が1つだ」
空は薄紫色で月と太陽が1つずつ。昨日見た空には月が3つだった。

 「昨日が特別だったのよ、カケル」
横を向くと母が寂しそうに笑っていた。
「特別?」
「そうよ。特別な日」

 俺は母の寂しそうな顔に訳が分からなかったが、胸が痛んだ。

 「もうすぐ着く」
父の短い声かけに母の顔から目を逸らした。
「掴まって! カケル、愛里!」
母の呼びかけが聞こえたかと思っていたら、グンッと急降下した。
「またなの――!? キャアア――――!」
愛里の絶叫と、落ちる感覚が混ざって身体中がビリビリッとした。
「あ、安全運転! お願いしま――す、ギャアアアア!」

 大賢者さんより着地は荒かった、父のドラゴン操作。
あっ……、母が『慣れた』ってこれ!?

 某遊園地の、ジェットコースター並みに恐いんですケド!

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