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4 守り人

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 「よくやってくれた」
禍々しい赤紫色の霧を消滅させて祠の前に戻ってきた。
鈴の音の音とともに、涼音様が表れて俺に礼を言ってくれた。

 「涼音様、あの禍々しい赤紫色の霧は何ですか?」
色々聞きたい事があるけれど、あの霧が一番気になる。

「ふむ……。簡単に言うと、『魔のモノ』じゃ」

 魔のモノ? ええ!?
 「魔のモノとは? かなり禍々しいものを感じたのですが……」
涼音様は、パラリと扇子を広げた。
「禍々しいモノ。真人が感じたそのままのモノだ」

 禍々しいモノ。お化けよりも怖いもの。そう感じた。
俺は子供の頃から色々なものが、視えた。害が無いもの。あるもの。見極めて関わらないようにしてきた。

「まだあれは弱い、形になっておらぬもの。おぬし、昨日ツボを割っただろう?」
涼音様に言われてドキリと心臓が鳴った。
「あのツボに封印されていた魔のモノが解き放たれたのじゃ」

 ドキドキと心臓がうるさい。涼音様からツボに封印されてたという話を聞き、全身が冷えていく。
『ツボ・封印・魔のモノ』
この言葉になぜか反応しているようだ。

 「そ、それで魔のモノとはどこに?」
手に汗をかいていた。何だろう? 
「まだ近くにいるだろう」
涼音様は空を見上げて言った。そして何か考えているようだった。

 「涼音様……?」
声をかけづらかったが、そのまま消えてしまいそうで思わず名を呼んでしまった。
 俺の方に振り返ると、長い綺麗な髪がサラリと流れて、また涼やかな鈴の音が聞こえた。涼音様のまとう空気は清浄されてるかのようで、『美しい』とするりと言葉に出来そうだった。

 そんなことを考えていて自分は詩人か!? と突っ込んだ。
つまり涼音様は、効果音付きで空気清浄機機能を持ったお方だということだ。
「おぬし。今、失礼な事を考えていただろう」
ギクリ!! なぜわかったのだろう!?
 「な、なんで分かったのですか!」
クスクスクス……。涼音様は扇子で口元を隠しながら笑った。美人な人が笑うと、破壊力抜群だ。

「そういうところじゃ」
 そういうところ?
「顔に出やすく、わかりやすい。だが、それが良い」

 シャラン……! と鈴の音とともに涼音様は消えてしまった。

 「涼音様……」 
褒められたのか、けなされたか分からない。
「あっ! 急がないと朝ごはんの時間になってしまう」
急いで祠の周りの掃除と、入口から祠までの雑草を抜いて歩きやすくした。育ったままの木の枝は、明日の朝でもノコギリを持ってきて切って整えよう。

 「ふう。祠の側に何か花でも植えようかな?」 
祠のほこりを払いながら思いついた。掃除を終わらせて片付けていた。ちょっと殺風景だなと思った。
「よし。色々綺麗にしていこう」
ちょうど朝ごはんの時間になったので、祠から家へ帰った。 

 「お早う。あら、手が泥だらけね? 洗ってらっしゃい」
母はもう起きていて朝ごはんは準備できていた。たしかに手が真っ黒だった。
「お早う。手を洗ったら手伝う」
「たのむわね」
母は休日も仕事の時がある。『みんなで協力してやる』矢守家の家訓だ。

 それにしても。
あの禍々しい赤紫色の霧が『形になったら害をなす』
考えただけで恐ろしい。
 手を洗い終えて、リビングに行く。

 「そうだ。小山の祠の周りを綺麗にしたいから、植物とか植えていいかな?」
俺はコップや飲み物を用意していながら母に聞いた。
「もちろん良いわよ。そういえば……」
母は椅子に座りながら、何かを思い出したように言った。

 「あなたのおじいちゃんとおばあちゃんが生きている頃は、近所の方も祠に御参りしていたわね」
近所と言っても田んぼを二つ、三つ挟んだ家を遠くに全体を見渡せる、都内だったら隣の丁目くらいの距離だ。
「そうなんだ」
 あの祠に、また人が御参りにくるようになるといいな。 

 「あ、そうだ。今日町に行って買い物してくるよ」
ご飯を一口食べた。
「そう。気をつけてね。あ、ついででいいから電池を買ってきてくれる?」
母は食後のお茶を飲んでいた。
「分かった」

 
 「ごちそうさま」
朝御飯を食べ終わる頃には母は仕事のために出かけて行った。父は、今日は母より遅く仕事に行った。 
「いってらっしゃい」
車で仕事に向かう親を見送った。 

 さっき、父から古い書物を受け取った。なんでも矢守家に古くからあるものらしい。紙に墨で書かれた書物は糸で綴じられていて、歴史を感じる。
 洗い物を片付けて、お茶をいれてリビングの椅子に座った。
 パラリとめくると、達筆な字で書かれていた。

 「これは……」
達筆すぎるのと、旧文字……というのだろうか? で書かれた文字は。――読めなかった。
でも、所々に絵が描いてあってそれで推測して見てみた。

 「えっ……と、あれ? この渦はまさか」
パラパラと紙をめくって行くと、一枚全部に絵が描かれていた。
上半分に点で描かれた " 渦 " 。
 今朝見た、禍々しい赤紫色の霧ではないだろうか?
下半分には、弓を構えた人……。

 急いで次のページをめくった。
そこには『矢守家 守り人•守り手』と書かれていた。
「えっ!?」
光る矢に白い弓、と書いている。

 「鈴音様にいただいた、弓にそっくりだ……」
俺は食い入るようにその絵を見ていた。



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