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番外編

お芋(サツマイモ)まつり ①

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 こちらの世界にも秋のような季節があって、暑くもなく寒くないちょうどいい気温の過ごしやすい時期になった。
 朝の仕込みやハーブの世話を終えて、良い天気だなと思いながら村の中を歩いていた。
「マオさん――! マオさん!」
「ん?」
 後ろから呼ばれたので振り返ってみると、村人のカカスさんが走ってきた。

 「お早うございまっす! あのですね! 相談がありましてっ!」
歳は僕と変わらないカカスさんは、髪を金髪に染めて前世で言うヤンキーみたいな人。服装も派手だが、根野菜作りの上手な真面目なお兄さんだ。
 「お早う! カカスさん、どうしたの?」
日に焼けて、野菜作りで鍛えた腕がたくましい。その腕に抱えた、たくさんのものに気が付いた。
 「実はですね……。嬉しいことなんですけど、お芋(サツマイモ)が豊作でして!」
ニコニコと腕に抱えた、たくさんのお芋を見て僕に言った。見ればどれも大きくて、色もよく美味しそうなお芋ばかりだった。
 「良かったですね! たくさん良いお芋が採れて! でも、相談とは?」

 たくさん良いお芋が採れたのに、何か別の相談だろうか? 僕はカカスさんが話し出すまで待った。
 「えっと……ですね。たくさん出来の良いお芋が採れたのは嬉しいけど、たくさん採れすぎて困っていて!」
カカスさんは腕いっぱいのお芋を、ギュッと抱きしめた。
 「このままじゃ値崩れするし、だからといって余った分を廃棄するなんて! そんなこと、できない……!」
 あ……、そうか。多すぎても安くなってしまうし、せっかく豊作なのに困るのはわかる。

 「廃棄なんてしちゃダメです。……いっそのこと【お芋まつり】をしましょうか!」
「お芋まつり!?」
カカスさんはポカンとしていた。悲しそうな表情から不思議そうに僕を見ていた。
「たくさんあるならば、たくさんお芋料理を作ってお祭りにしちゃいましょう!」
人を呼べばお芋も廃棄しなくて済むし、カカスさんの悲しい顔を見なくてすむ。
 「あ、でも……。お芋は半年くらいは保存できるのでは?」
前世で聞いたことのあるような記憶があるので、カカスさんに聞いてみた。
 「いや――、おれが作っているお芋はあまり保存ができない品種で。そういう長期保存できる品種は聞いてことはあるけど、この土地じゃ育てるのは難しいって言ってた」
そうなのか。
 「じゃあ、みんな村の人に相談してみましょうか!」
「お祭りみたいにしてくれれば、村の人以外も来てくれそうだな……! うん! 皆に相談しよう!」
 僕はカカスさんと一緒に、村の人達へ相談に行った。

 村の人達は「お芋大好き!」と言って、快く協力してくれることになった。村全体巻き込んでのお祭りになりそうだ。
 「それぞれのお店で、二品ほど? お芋の商品を考えて出してもいいわね~」
「お芋は食事系から甘いものまで、色々作れそうだね!」
村のみんなは楽しそうに話し合っていた。がいい。
 「豊作なのでいつもより安く購入できますので、おれに声をかけてください!」
カカスさんも嬉しそうだ。

 僕は食事処へ行き、皆に話をした。
「へえ~! 楽しそう!」「たくさんの人が来てくれるといいわね!」
食事処の従業員さん達も、楽しみと言ってくれた。
いかつい冒険者ばかりじゃなく、可愛らしいお嬢さんたちも来て欲しいね」
荒々しい冒険者の接客をしているベテランママさんが、腕組みしながら言った。いつもありがとうございます……! 僕はベテランママさんへお礼を言った。
 「それで食事処では、二品。新しい料理を出そうかと思います!」
パチパチパチパチ! 拍手が起こった。
「カルマスさん。お芋メニューの一品を考えてくれませんか?」
 「えっ!? いいんですか! やった!」
カルマスさんは小躍りしていた。楽しそうで良かった。いつも決められているメニューを作ってもらっているので、たまに違うものを作ってもらいたい。

 「お芋を使った料理&甘いものなんだけど、料理か甘いもののどちらを作りたい?」
カルマスさんに質問すると「う――ん」と、考え込んでから顔を上げてこちらを見た。
「お芋入りのシチューとか、どうでしょう? あまり奇抜のはやめて、子供さん向けの甘めの強いご飯のおかずにします!」 
 おお――! と従業員から歓声が上がった。それならば食事処の忙しい時でも皆の負担にならなくていいな。
 「いいですね! 美味しそう! お芋料理部門は、カルマスさんにお願いします!」
「ありがとうございます!」
 やる気に満ちてカルマスさんの瞳がキラキラしていた。従業員の人達もカルマスさんに頑張ってね! と応援していた。

 「僕はどうしようかな?」
いくつかお芋の料理か甘いものを考えているけど悩む。カカスさんの作っているお芋はほんのり甘い。カルマスさんはお料理を作るので、僕は甘いものを作るつもりだ。だけどこちらでもスイートポテトは作られているし、どこかのお店で出すだろう。
「あ、そうだ!」 
こちらの世界では作られてないものを作ろうと、思いついた。
「ちょっとキッチンを使っていいかな?」「どーぞ!」
今ちょうどキッチンが使われてないので使わせてもらう。
 
 お芋を包丁で程よい厚さに切っていく。
「何を作るのですか?」
従業員の皆は、興味津々で覗いている。
「出来たら皆に、試食してもらうから」
わあ! という声が聞こえた。ここで働く従業員は好奇心旺盛だ。僕は手際よく、急いで作り始めた。
 

 
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