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三章 共存共栄

29 新たな特産品とスキルアップ

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 「こちらです」
 地下三階の、左右の石のがれきの中の道を進んで行くと生贄のステージが見えてきた。石の階段を上ってステージに着くと、ジーンと一緒にここへ来たことを思い出した。

 男の子が倒れていた右の方には白い花が咲き乱れていた。白い花の片付けは、魔族には効かないのでサウスさんたちにお願いする。

 あの時と違い、ふわりと良い花の香りが漂ってきた。スイートバイオレットの香りだろうか?
 「隠し通路があります」
「隠し通路?」
 ラウネが僕に教えてくれた。なんでも魔族専用スタッフの隠し通路らしい。

 ジーンがゴーレムに吹き飛ばされた場所のさらに奥。壁に雑草が生い茂っていて、そこを分け入るようにいくと天井の高いガランとした空間に出た。

 これは見つけにくい。……というかわからないだろう。ラウネはスタスタと歩いていき、指をさした。
 「向こうに見えるドアが、魔界への近道です。行ってみませんか?」

 ガランとした広いこの空間は、上の壁の辺りが開いていて外からの光が入り、日当たりが良かった。
「魔界へはまた今度」
僕は丁寧にお断りした。

 ダンジョンの構造がわからなくなってきた。地下地図が必要になってきたな……。

「このダンジョンは深く、まだまだ地下が続いています。それぞれの休憩所や宿泊所に通勤時、登っていくのは面倒なので移動魔法を扉に施してもらってます」
 ラウネは奥にある扉を見ていった。……そうなんだ。

 「このスイートバイオレットは、いつの間のか自生してました。別に害はないのでそのままにしてましたがさすがに増えすぎましたね。通勤時は香りや目で癒されていました」
 魔族も花で癒されるのか。

 「このスイートバイオレット、もらってもいいかな?」
 僕はラウネに聞いた。ラウネはしゃがんで花の香りを楽しんでいた。緑色の髪がふわりと動いて僕の方へ振り返った。

 「もちろん大丈夫ですよ! ここの地面を覆いつくすような勢いなので、お好きなようにどうぞ!」
 「ここの植物は私が育てています」とラウネは教えてくれた。他にも色々な花や植物が植えられていた。

 ダンジョンは魔界の気候よりなので人間界の植物とは多少違ったり、変異しているらしい。実を早くつけたり、成長が早かったりするらしい。う――ん、不思議だ。

 「とりあえず……この繁殖しすぎたスイートバイオレットを利用して、ダンジョンの名物にしようと思う。いいかな?」
 「どうぞ! このまま花を減らしたり、枯れちゃうよりも嬉しいです!」
 育てているラウネに了解をもらった。

 「村の人と、ミレーヌとサウスさんとも相談する」
僕だけが利益を独り占めすることなく、皆で利益を分け合う。もちろん魔族の皆にも。

 「繁殖しすぎてる植物や魔物がいたら、報告してくれるかな? 毎日、安全のためダンジョンに入るつもりだけど」
 魔族の皆さんに任せてばかりじゃなくて、僕も管理者としてきちんとやっていこうと思う。
「まあ! 真面目なのですね、素敵! ええ、もちろん報告します!」
ラウネに素敵とか言われた。照れてしまう。

 「じゃ、そろそろ地上へ戻るね。案内ありがとう! 休憩所&宿泊所、お願いするね。何か不満や改善があったら言って。頑張って!」
 僕はラウネにお礼を言った。

 プルプルとここでお別れだ。お利口に肩に止まっててくれた。
「プルプル、またな」
プルプルは、すりり……と僕の頬にすり寄せて、肩からぴょ――ん! と降りて岩の影から帰っていった。またプルプルと会いたいな。

 「マオ様。これをどうぞ」
 ラウネはスイートバイオレットの花を摘んで、僕の胸元のポケットに入れて飾ってくれた。……良い香り。

 「ありがとう! じゃあまた」
 僕はミレーヌに渡されたリストバンドへ魔力を注いだ。
「マオ様! また!」
ラウネの手を振る姿がぼやけていって、周りの景色が消えていった。体がフワッと、浮き上がるような感覚がした。

 

 「あ、すごい」
思わず、呟いてしまった。本当に一瞬で地上へ戻ってこれた。気が付けば入場券売り場の前だった。
 「お帰りなさいませ」
片付けの終わった様子のミレーヌと、サウスさんが出迎えてくれた。

 もう夜に近く、赤い空に染まった夕日が沈もうとしていた。黄昏の時だ。魔の者が活発になる時間だ。
 「あら? マオ様、その花はスイートバイオレットですか?」
 ミレーヌが、僕の胸元のスイートバイオレットを見つけて言った。

 「そう。スイートバイオレットだよ。休憩所の店員のラウネに案内してもらって、繫殖しすぎてるこの花を教えてもらったんだ」
 はい、とミレーヌにスイートバイオレットの花の一つを渡した。ミレーヌはちょっと戸惑いを見せてから花を受け取った。
「控えめな美しさ、誠実、秘密の恋……」
 
 「え?」
ミレーヌが何かを言ったので聞き返した。
「いえ、なんでもないですわ。ラウネからこの花をもらったのですね……」
 ミレーヌは微笑んで、僕に言った。

 
 「この花で、第二弾の辺境の村の名物にする!」
僕はミレーヌ達に白い花の刈り取りと回収。スイートバイオレットの採取をたのんだ。

「承知しました。明日に回収しておきますわ。お疲れさまでした。また明日よろしくお願いいたします」 
 サウスさんとミレーヌに挨拶をされたので返した。
「お疲れ様です! ありがとう、また明日!」

ダンジョン営業を終えたので、このスイートバイオレットを見せて相談しよう。僕はダンジョンから村へ急いだ。


 「ベル! 今、いいかい?」
村の中を走って幼馴染の、ベルの八百屋さんベジタブルショップへ着いた。
 「あら、マオじゃない。野菜が足りなくなったの?」
 いつもベルから野菜を仕入れているので毎日顔を合わせているけど、お互い忙しいのでこんな時間に会うことは珍しい。

 エプロン姿に帽子を被ったベルは、ベジタブルショップの店長さんだ。

 ベルはお店を閉める所だったらしく、ギリギリセーフだった。
 「野菜はまた明日仕入れさせてもらう。別件で、来たんだ」
 ざっと事情を話すと、ベルは「いいじゃない! 面白いわ!」と言ってくれた。

 ベルに、生食できるスイートバイオレットエディブルフラワーのサラダを販売してほしいと頼んだ。
 「サラダを美味しく&楽しく、食べられるなんて!」
 ベルは快諾してくれた! 良かった。明日。詳しく打ち合わせをすることにして、ベルと別れた。

 あとは……明日にして。自分のお店、お総菜屋さんの夜ご飯のおかず作りをしなくてはならない。
 「そろそろ新しいお惣菜を考えなきゃ、いけないな」
毎日のことだから飽きてしまう。
 
 いずれ宿屋を開業した時にはがっちりと日本食を多く提供してもいいけど、お惣菜は持ち帰り。

 この村は大きな鍋で煮込むシチューなどメインにして、パン食がほとんどだ。パンは何も入ってないプレーンなものなので、まずは昼のパンを改革するのもいいな。

 夜はまた別のおかず作りだ。野菜を使ったお惣菜にしようかな? ナスをたくさん仕入れたのでナスの料理にするか。

 「よし!」
僕は気合いを入れてお惣菜を作ることにした。


 「まあ、これは何かしら?」
新作のお惣菜を見つけた村の奥様に聞かれた。茄子ナスを揚げ焼きして合わせておいた調味料につける『なすの揚げびたし』だ。

 「これは、『ナスの揚げびたし』です! ナスを油で揚げてからあらかじめ混ぜ合わせておいたつけ汁に漬け込んだものです。美味しいですよ」

 僕は試食用に、細かく切ったナスの揚げびたしを串に刺してテーブルに置いていた。
「試食、どうぞ!」
 「ありがとう」
僕はドキドキしながら奥様の試食の感想を待った。

 「ま、まあ! ナスのこのとろりとした食感! これはショウガかしら? しょっぱい調味料との相性がよくて美味しい! まだ熱くて、トロっとしてたまらないわ!」
 奥様はニコニコしながら感想を言ってくれた。

 「ナスの揚げびたし、いただくわ! きっと夫も好きだと思うわ」
「ありがとう御座います!」

「試食、ありますよ――!」
奥様の声につられて他のお客さんも集まってきた。
 「へえ……。ナスのこんな調理方法があるのね」
試食したお客さんからお褒めの言葉をいただいた。

 「おいしい――! なんでも合いそう!」
「ください~!」
 「これ、ナス!? 私、ナス苦手だったのに……。これは食べられる!」
嬉しい『ナスの揚げびたし』の感想をもらった。

 おかげさまでお惣菜は完売した。
 
 
 ピロピロピロリン!
「ん? レベルアップかな?」
音が毎回違うような? 気のせいかな?
 
    ~◆ レベルアップ! ◆~

 ・料理レベル 40 (30→10アップ)
 ・【回復食】レベル(飲料も含む)40  (30→10アップ)
 
 ・テイマーレベル 80 (71→9アップ)
 ・冒険者レベル 30  (20→10アップ)
 
 〇宿屋の主人 ☆☆☆☆ (☆1アップ)
 ・経営レベル 50(総菜屋・ダンジョン経営)
 
 ・ギルドクラス F
  ギルドに行き、依頼を受けましょう。

  ~◆もっと上をめざしましょう!◆~

 レベルアップした! ……ん? テイマーレベルが、プラス9? 
中途半端な数字だ。何か魔物をテイムしたっけ……? 謎。

 え! 宿屋の主人の星が四つに増えてる! 嬉しい! 
経営は……初めて見たけどレベル50? 高いのか低いのかこれじゃ、わからないな。

 レベルも上がってきたし、お金も貯まってきた。「頑張るぞ!」と腕を上げた。

「まあまあ! 頑張ってね――マオちゃん!」
 ご近所の奥様達や村の人達に見られていた。
 
 恥ずかしかったけど「ガンバリマス」と答えた。

 
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