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三章 共存共栄
22 辺境の村お土産の発想と、騎士団の視察
しおりを挟む「マオ様。スライムをお土産にするとおっしゃいましたが、まさかスライムそのままお土産に……?」
ミレーヌが引き気味に聞いてきた。僕は慌ててミレーヌに、説明することにした。
「違うよ! そんな可哀そうなことはしない。【スライムの形のゼリー】を、お土産にする」
「まあ! きっと喜びますわ!」
指で、まあるい形を空に書いて説明した。兄妹、なぜか僕の思ってたより反応が良かった。歩きながら二人で楽しそうに会話をしている。
「先ほどもお話ししましたけれども……。最弱スライムは魔族に人気がありますので、魔族も買いに行くかもしれませんね」
「そんなに人気なんだ」
『可愛い』が魔族に人気なんだ。意外だ。
「あ、でも……入れ物。容器はどうしよう? いい物ないかな?」
プラスチックやビニール袋など、この世界でまだ見てない。あるのかな? う――ん……と僕は、うなりながら腕組みして考え込んだ。
「容器、入れ物なら良いのがありますわよ。ねえ? お兄様」
ミレーヌは、サウスさんを見上げて話しかけた。良い入れ物がある? どんなのだろう?
「ああ、あれなら。くらげスライムという魔界の海に生息するスライムがいて、そのくらげスライムが成長するたび、脱皮するのです」
くらげスライム……。見たことないけど、なんとなく姿かたちがわかるような……。
「そのくらげスライムの脱皮した物が防水性や衝撃体制に優れていて、魔界では色々なものに便利に使われています」
「そうなんだ! でもそれ、人間に大丈夫なものなの?」
魔界の海に生息か。毒の海じゃないよね? 僕が警戒していると、ミレーヌがスカートのポケットから何かを取り出した。
「これですわ。今日は金平糖を中に入れてますけれども」
そう言い、僕に渡してくれた。
「魔界も環境改善いたしまして、透き通った綺麗な海ですの。人間界の海と変わりありませんわ」
「そうなんだ……」
どうぞと手に渡されたのは、透明なしっかりした小袋に入った金平糖だった。五センチ×五センチの大きさの小袋だったけど、少しひんやりしていて保存に良さそうだった。
巾着袋の袋口みたいに、キュッと縛れるものになっている。
「飲み物も入れられますの。こぼれませんわ」
「その袋いいね! 使えそう! その袋はどうやって手に入るの!?」
指で触ると、ビニール袋みたいな感触だった。僕達は洞窟から歩いて、森の中で立ち止まっていた。
「海に浮いてますの。それはそのままだと海の水質が悪くなってしまうので、魔界の専門業者が拾って袋の両面を消毒し、加工してます」
「へ、へえ」
すごいな。
「ただし。この袋には欠点がありまして……。一日しか持たないのです」
丈夫そうに見えるこの袋が、一日しか持たない?
「海から拾って一日経つと乾いて、しぼんで崩れてしまいます」
「そうなんだ」
便利だけど、欠点もあるね。
僕はその袋を摘まみ、顔より高く上げて見てみた。お祭りで金魚すくいをして、透明な袋に入れてもらったことを思い出した。
「水……、水分を入れたらどのくらい持つ?」
「二日、ですね」
まあ、そのくらい持つなら良いほうだ。
「辺境村のダンジョン土産、なんとなくイメージがかたまってきた」
僕は「ありがとう」と言って、ミレーヌに金平糖の入った袋を返した。頭の中でどういう風に作ろうかと形を想像した。
考えすぎて時々転びそうになりながら森から出た。
「そういえばサウスさんとミレーヌは、これから何か予定はあるの? ずっと僕に付き合ってもらって……ありがとう」
ずっと僕に付き合ってもらっていたのでお礼を言った。
「とんでもございません! 魔王様のお役に立つならば、この上ない幸せで御座いますわ!」
ミレーヌは貴族のお辞儀、カーテシーを優雅にしてみせた。
なんでミレーヌやサウスさんは僕に、色々親切にしてくれるのかな。
「これから王都から騎士団数名が視察に参ります。厄介な相手なので、私が相手をいたしますから魔王様はお帰りになられてください」
騎士団の人達が視察に来る? 僕はサウスさんを見上げて聞いた。
「厄介な相手なの?」
「そうですね。相容れないです」
話しながら歩いていて村の真ん中まで来ていた。
「ちっ……! もう来たか」
サウスさんから舌打ちが聞こえたので驚いた。誰が来たのか目を凝らしてみてみると、村の出入り口の門が開かれて、馬に乗った騎士の人達が威勢よく村の中に入ってきた。
村の長が慌てて騎士団の人達を出迎えていた。
先頭にいた、白いきれいな馬に乗った騎士がこちらに気が付いたようだった。村の長の出迎えを適当に相槌をうって、こちらへ向かってきた。
サウスさんが僕の前に、太い腕でかばうように出した。
ゴゴゴゴ……! と、効果音が聞こえるような、迫力がある人だ。
その人は僕達の前で歩きをとめて、僕をじろじろ見ていた。
「茶色の髪の毛、緑の瞳、痩せたガキ。お前か、マオという名の者は」
いきなり僕の特徴を言い、めちゃくちゃ睨んでいる。サウスさんが一歩前に出て、その人に負けじと睨み返していた。
「マオ様を侮辱するな」
サウスさんも騎士さんに負けてはいなかった。互いに、身長二メートル位ありそうな大きな体格に強面。最終決戦でも始まるような緊張感があった。
「うっ……!?」
騎士さんの後ろに控えていた、お付きの人が突然倒れた。
「くっ……!」
さらに後ろに控えている騎士さん達は、急に下を向いて具合が悪くなったようだ。何が起きてる?
「お――い! マオ、王都の騎士団さん達が来てるって聞いた……ううっ!?」
あこがれの騎士団が来ると知らせを聞いたジーンが、ウキウキと嬉しそうな顔をしながら僕達の後ろからやってきた。ジーンも僕達に近づいたとたん、急に片膝をついて具合が悪そうにした。
「ジーン!?」
「えっ!? 皆、大丈夫!?」
僕は焦ったけれど、倒れた人が心配になって駆け寄った。まだサウスさんと王都から来た騎士さんがにらみ合っていた。僕は倒れた人と具合の悪くなった人がいるのに、何もしてない二人に腹が立って怒鳴った。
「二人とも! 具合の悪くなった人を介抱してあげて!」
「「はっ!?」」
僕が二人に言うと、睨み合ってた二人は圧みたいのを解いて周りを見回した。
「サウスさん、倒れたこの人は休憩所へ運びます! ミレーヌ、騎士さん達にはお水を」
「「は、はい!」」
魔族の兄妹に指示をした。サウスさんが倒れた人を休憩所に運んでくれて、ミレーヌは騎士さん達に水を渡すため、村人へ水の用意を頼みに行った。
「騎士さん達の様子をみてください!」
僕が大柄の騎士さんに言うと「わかった」と言って、騎士さん達のもとへ走った。
「ジーン、大丈夫?」
ジーンはコクンと頷いた。汗はかいていたけれど大丈夫そうだ。
「マオ、お前は大丈夫なのかよ? あの二人の圧は凄かったぜ……」
汗を腕で拭いながら僕に言った。さながら全力で戦ったあとみたいな言い方だった。僕は強面の二人が、何も話さず睨み合っていたのが怖かったけれど。
ジーンはようやく立ち上がって、休憩所で休んでいるあこがれの騎士団の人達を眺めた。
おそろいの騎士団の紋章が描かれている、甲冑がカッコイイと言っている。
ミレーヌが村の人達と一緒に、具合の悪くなった人達へお水を配るのを手伝っていた。サウスさんはお医者様を呼びに行ってくれたようだ。
さっきサウスさんと睨み合いをしていた騎士の人は偉い人だったらしく、騎士団団長さんだった。すまなそうに騎士の人達の体調を気遣っていた。
「なんだ。優しい人じゃないか」
僕を、なんであんなに敵視したのかわからないけど……。
視察に来た騎士団の人々は、とりあえず休憩所で体調が戻るまで休んでもらうことにした。
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