上 下
21 / 56
三章 共存共栄

21 プルプル

しおりを挟む


 「ちょっと名物の参考にしたいから、中に入っていいかな? 地上一階までだけ……」
 村に来て記念にお土産として買って帰ってもらいたい。失敗するわけにいかない……!

 「そうですか。一緒に参りましょう」
「わたくしも一緒に」
一緒に行ってくれるようだ。僕は今、剣も装備も持ってきてないので一度帰ろうかと考えた。でも一緒に来てくれるならば心強い。

 「ありがとう。僕はもっと強くならなくちゃな」
体を鍛えて、筋肉をつけて……。
 「まあ! マオ様はお強いですのに」
 ミレーヌは僕が謙遜していると思っているのかな? 実際には筋肉もまだついてないし、背もまだまだこれから伸びる予定だし……。筋トレしよう。

 僕はその辺に落ちていた木の棒を拾った。無いよりましだろう。
「太さもちょうど良い」
 試しに気の棒を振ってみると、いい感じだった。この、が重要だ、うん。
 
「じゃ、お願いします」
僕はごくりと喉を鳴らして、洞窟に向かった。この上から垂れ下がった洞窟にかかるつるはこのままにしておこう。雰囲気は大事だ。
 
 明るい陽射しの中から一歩洞窟の中に入ると、暗く肌に湿り気を感じた。ここは安易に入ってはいけない場所だと第六感が教える。
 目が段々暗闇に慣れてくれば、進むべき道が見えてきた。

 ジーンとこの洞窟へ探検に来たときは大キノコの魔物だったけど、いるのかな?
何かの声が聞こえる……。
 
 じめじめした洞窟を進んで行くと、大キノコが現れた!
ケケケ……。
 「魔王様。ここは、わたくしが」
「大丈夫!」

 持っていた木の棒で、大キノコを突いた!
グサッ! 
 「グ、ケ……」
木の棒を抜くと大キノコは倒れた。僕は、大キノコを一突きで倒せた。
 「さすがですわ! 魔王様!」
 パチパチと二人に拍手をもらった。照れる。

 「あっ! 魔王様、後ろからスライムが!」
ミレーヌが教えてくれて、僕は振り向きざまに木の棒を振り回した。
 「えい!」
 ブンッ! と振ったが空振りしてしまった。一番弱いだろうスライムを倒し損ねた……?

 プルン、プルン……。えっ? 小さい?
地面に着地したスライムはプルプルと、丸くボールのような形をしていた。
 「え!? 目が三つある?」
魔物とは思えない、丸い可愛い瞳があった。

 手のひらに乗るくらいのサイズだろうか? 襲ってくる様子はなく、ただ僕をそのつぶらな瞳で見ていた。
 「え? このスライムってなに?」
 僕は魔物の言葉がわかる、ミレーヌに聞いた。

 「あ――。このスライムは、スライムの中でも一番最弱なタイプですね。臆病で、あまり人前に出てこれない性格ですがどうやら魔王様に会いたかったようですね」
 さすがミレーヌ。詳しく説明してくれた。それにしても最弱で、臆病な魔物?
 「わっ」
 最弱スライムが僕の手のひらに乗ってきた。

 プルプルしてなんだか可愛い。
 「このスライムは、毒とかない? 危なくないの?」
両手を繋げて、スライムが落ちないようにした。
 「そのスライムは、毒はありません。魔王様の手に乗っているスライムは青みのかかった透明タイプですが、色は多数あります」

 「へえ、そうなんだ。なんだか可愛いな」
ぷにぷにしていて可愛い。
 「そのタイプのスライムは、高位魔族の中でもペットとして人気ですの」
 ミレーヌは壁に貼りついていた小さなスライムを見つけて、ひょいと摘まんだ。
壁を注意深く見てみると、そっと隠れているスライムがたくさんいた。

 「ただ、人間のペットには向かないですわね。習性で人間を襲います」
怖い! やっぱり魔物だ……!
 「じゃあ洞窟内のスライムは持ち出さないように注意書きを書いて、危険防止のために対策をしよう」
 盗難防止のなにかできないかな?

 「では、出入り口に盗難防止センサーをつけましょう」
サウスさんが平然と言った。センサー? 
 「魔界では、高度なセキュリティで守られています」
サウスさんがペコリとお辞儀した。

 「わ!」
 皆と話をしていたらスライムが集まってきた。驚いた。壁の隙間からプルプルと這い出てきた。土の地面の足元を見ると、僕の周りをポンポン跳ねていた。
「魔王様が来てくださって、嬉しいみたいですわ」

 スライムたちを見ると、ぴょんぴょんとスーパーボールのように跳ねた。僕の手に乗っているスライムもなんだか嬉しそうだった。
 
「プルプル」……していると、言おうとした。
その時スライムが、ピカッと光った。あれ? なんだか……。

 「おめでとうございます。全スライムを眷属けんぞくにしましたわ」
 
 僕は無意識にスライムを手なずけてテイムしてしまった。
「え、なんで……うっ!」
 スライムプルプルがつぶらな瞳で見ている! 僕はなんだか覚えがある場面を思い出した。ケルベロスのときもそうだったような。

 「よ、よろしく……な?」
言葉がわかるのかなと心配したけど、ぷるぷる! と震えたので多分わかっているかなと思った。
 「このスライムは臆病だけど気まぐれに、冒険者の様子を見にちらりと顔を出します。洞窟内ではすぐ逃げますので危険はないです」
 ミレーヌの説明はわかりやすい。助かる。

 「わかりやすい説明、ありがとうミレーヌ。しかし、可愛いな」
ミレーヌはなぜか髪の毛を整えた。ほこりでもついたのだろうか?
 「この可愛いスライムを、お土産のお菓子にするといいかも!」
僕は可愛いスライムを見て思いついた!

 「あっ! そう、それはいい考えですわね! ね、お兄様!」
 ミレーヌはちょっとがっかりしたような顔でサウスさんに言った。サウスさんはミレーヌの肩に手を置いて「そうだな」と答えた。


 「ありがとう! サウスさん、ミレーヌ! さっそく作ってみるよ!」
僕は手に乗っているスライムをそっと地面に下ろした。
 プルプルは僕を見てぴょんぴょん跳ねてから、壁の隙間に隠れて入っていった。

 「でも僕って、ネーミングセンスがないよなあ……」
幼馴染のルルンに言われてたっけ。まあいいか。

 僕達は村のお土産のイメージが決まったので洞窟を後にした。
 
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...