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三章 共存共栄
21 プルプル
しおりを挟む「ちょっと名物の参考にしたいから、中に入っていいかな? 地上一階までだけ……」
村に来て記念にお土産として買って帰ってもらいたい。失敗するわけにいかない……!
「そうですか。一緒に参りましょう」
「わたくしも一緒に」
一緒に行ってくれるようだ。僕は今、剣も装備も持ってきてないので一度帰ろうかと考えた。でも一緒に来てくれるならば心強い。
「ありがとう。僕はもっと強くならなくちゃな」
体を鍛えて、筋肉をつけて……。
「まあ! マオ様はお強いですのに」
ミレーヌは僕が謙遜していると思っているのかな? 実際には筋肉もまだついてないし、背もまだまだこれから伸びる予定だし……。筋トレしよう。
僕はその辺に落ちていた木の棒を拾った。無いよりましだろう。
「太さもちょうど良い」
試しに気の棒を振ってみると、いい感じだった。この、いい感じが重要だ、うん。
「じゃ、お願いします」
僕はごくりと喉を鳴らして、洞窟に向かった。この上から垂れ下がった洞窟にかかる蔓はこのままにしておこう。雰囲気は大事だ。
明るい陽射しの中から一歩洞窟の中に入ると、暗く肌に湿り気を感じた。ここは安易に入ってはいけない場所だと第六感が教える。
目が段々暗闇に慣れてくれば、進むべき道が見えてきた。
ジーンとこの洞窟へ探検に来たときは大キノコの魔物だったけど、いるのかな?
何かの声が聞こえる……。
じめじめした洞窟を進んで行くと、大キノコが現れた!
ケケケ……。
「魔王様。ここは、わたくしが」
「大丈夫!」
持っていた木の棒で、大キノコを突いた!
グサッ!
「グ、ケ……」
木の棒を抜くと大キノコは倒れた。僕は、大キノコを一突きで倒せた。
「さすがですわ! 魔王様!」
パチパチと二人に拍手をもらった。照れる。
「あっ! 魔王様、後ろからスライムが!」
ミレーヌが教えてくれて、僕は振り向きざまに木の棒を振り回した。
「えい!」
ブンッ! と振ったが空振りしてしまった。一番弱いだろうスライムを倒し損ねた……?
プルン、プルン……。えっ? 小さい?
地面に着地したスライムはプルプルと、丸くボールのような形をしていた。
「え!? 目が三つある?」
魔物とは思えない、丸い可愛い瞳が三つあった。
手のひらに乗るくらいのサイズだろうか? 襲ってくる様子はなく、ただ僕をそのつぶらな瞳で見ていた。
「え? このスライムってなに?」
僕は魔物の言葉がわかる、ミレーヌに聞いた。
「あ――。このスライムは、スライムの中でも一番最弱なタイプですね。臆病で、あまり人前に出てこれない性格ですがどうやら魔王様に会いたかったようですね」
さすがミレーヌ。詳しく説明してくれた。それにしても最弱で、臆病な魔物?
「わっ」
最弱スライムが僕の手のひらに乗ってきた。
プルプルしてなんだか可愛い。
「このスライムは、毒とかない? 危なくないの?」
両手を繋げて、スライムが落ちないようにした。
「そのスライムは、毒はありません。魔王様の手に乗っているスライムは青みのかかった透明タイプですが、色は多数あります」
「へえ、そうなんだ。なんだか可愛いな」
ぷにぷにしていて可愛い。
「そのタイプのスライムは、高位魔族の中でもペットとして人気ですの」
ミレーヌは壁に貼りついていた小さなスライムを見つけて、ひょいと摘まんだ。
壁を注意深く見てみると、そっと隠れているスライムがたくさんいた。
「ただ、人間のペットには向かないですわね。習性で人間を襲います」
怖い! やっぱり魔物だ……!
「じゃあ洞窟内のスライムは持ち出さないように注意書きを書いて、危険防止のために対策をしよう」
盗難防止のなにかできないかな?
「では、出入り口に盗難防止センサーをつけましょう」
サウスさんが平然と言った。センサー?
「魔界では、高度なセキュリティで守られています」
サウスさんがペコリとお辞儀した。
「わ!」
皆と話をしていたらスライムが集まってきた。驚いた。壁の隙間からプルプルと這い出てきた。土の地面の足元を見ると、僕の周りをポンポン跳ねていた。
「魔王様が来てくださって、嬉しいみたいですわ」
スライムたちを見ると、ぴょんぴょんとスーパーボールのように跳ねた。僕の手に乗っているスライムもなんだか嬉しそうだった。
「プルプル」……していると、言おうとした。
その時スライムが、ピカッと光った。あれ? なんだか……。
「おめでとうございます。全スライムを眷属にしましたわ」
僕は無意識にスライムを手なずけてしまった。
「え、なんで……うっ!」
スライムがつぶらな瞳で見ている! 僕はなんだか覚えがある場面を思い出した。ケルベロスのときもそうだったような。
「よ、よろしく……な?」
言葉がわかるのかなと心配したけど、ぷるぷる! と震えたので多分わかっているかなと思った。
「このスライムは臆病だけど気まぐれに、冒険者の様子を見にちらりと顔を出します。洞窟内ではすぐ逃げますので危険はないです」
ミレーヌの説明はわかりやすい。助かる。
「わかりやすい説明、ありがとうミレーヌ。しかし、可愛いな」
ミレーヌはなぜか髪の毛を整えた。ほこりでもついたのだろうか?
「この可愛いスライムを、お土産のお菓子にするといいかも!」
僕は可愛いスライムを見て思いついた!
「あっ! そう、それはいい考えですわね! ね、お兄様!」
ミレーヌはちょっとがっかりしたような顔でサウスさんに言った。サウスさんはミレーヌの肩に手を置いて「そうだな」と答えた。
「ありがとう! サウスさん、ミレーヌ! さっそく作ってみるよ!」
僕は手に乗っているスライムをそっと地面に下ろした。
プルプルは僕を見てぴょんぴょん跳ねてから、壁の隙間に隠れて入っていった。
「でも僕って、ネーミングセンスがないよなあ……」
幼馴染のルルンに言われてたっけ。まあいいか。
僕達は村のお土産のイメージが決まったので洞窟を後にした。
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