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二章 因果応報
18 ダンジョン(洞窟)⑤ 地下三階 ボス戦
しおりを挟む「ゴーレム……だよな!?」
僕達の倍以上もある大きさの岩の魔物、ゴーレムが襲ってきた! 岩が積み重なって僕達に敵意をむき出しにして近づいてくる。
「に、逃げろ! マオ!」
ゴーレムは岩でできた頑丈そうな腕を振り上げた!
「わっ!」
ジーンは僕を突き飛ばして、ゴーレムの攻撃から守ってくれた。腕から伏せるように床に倒れた。
ガキン!
ジーンの剣はゴーレムのこぶしを止めた。すごい!
「くっ!」
力ではゴーレムの方が強そうだ。ジーンは剣でゴーレムのこぶしを押し返して、後ろに下がって距離を取った。
「マオのレイピアじゃ、歯が立たない! 隠れていろ!」
ジーンは僕がいる反対方向へ走って、ゴーレムの気を引き付けた。確かにこの細身のレイピアだと、あの頑丈そうなゴーレムに歯が立たないだろう。
でもジーン一人じゃ、やられてしまう!
何かないか……? 焦りながら何かいい方法がないか考えを巡らせた。
「うぁああああ!」
「ジーン!?」
いい方法はないかと周囲を見回していた。顔をジーンの方に向けると、ゴーレムがジーンを殴り飛ばしたところだった。
腕をクロスにして攻撃をガードしたけれど、後方まで飛ばされてしまった。
「ジーン!!」
そんな……! 初心者向けの洞窟のはずなのに!
ダンジョンは、何があるかわからないから気をつけなきゃならないのはわかっている! けど!
僕はジーンの飛ばされた方に駆け寄ろうとした。
ゴォォォォオ――!
「しまっ、……!」
僕の存在に気が付いたゴーレムは、その大きな体をこちらに向けて固い岩の腕を僕の頭上に振り上げた。
赤黒く光る不気味な目と、大きな体の影が僕に襲う――。
『暴風よ。引き裂け』
突如、強い風が巻き起こってゴーレムの固い岩の胴体を切り崩した。
グォオオオン――!
ドゴッ! ボコッ!
ゴーレムは無残に、大小の岩になって床に崩れ落ちた。
『この俺に歯向かってくるとは無礼な』
「魔王様! 申し訳ございません!」
ミレーヌが、真っ青になりながら魔王の側まで飛んできた。涙目で震えている。
『大事な入れ物だ。……次はない』
「はっ、はい!」
ミレーヌが床に跪いて頭を下げた。震えながら魔王様の言葉を待った。
「ジーンは……?」
「マオ様!?」
僕は半分、意識があった。僕と魔王が入れ替わり、僕の体を操って魔法を使い、ゴーレムを倒したことも見えていた。
「大丈夫で御座いますか!? 申し訳ございません。……ゴーレムが暴走しました。わたくしのミスです」
ガクンと倒れそうになった僕へ、手を貸して支えてくれたミレーヌは涙目で震えていた。
「……僕は大丈夫。それよりジーンを」
よろよろとミレーヌの手を借りて立ち上がった僕は、ジーンが吹き飛ばされた方へ急いで向かった。
「ジーン!」
ゴーレムの大小の破片が転がっているのを避けて行くと、生贄の場所から落ちて草むなの中にジーンは気絶して横たわっていた。
僕はジーンの側に駆け寄って声をかけた。
「ジーン! ジーン!! 目を覚まして!」
所々、ケガをしたらしく血が滲んでいた。
「……僕のせいだ。僕が、ぼくが……」
ぼくが、この街を滅ぼしたせいだ。仰向けのジーンの胸に顔をうずめていた。罪悪感と、ジーンをここへ連れてきてしまった申し訳ない気持ちで、ぐちゃぐちゃだった。
「いいえ。マオ様のせいではありません」
「え……」
顔を上げると、いつの間にか近くまで来たミレーヌが僕の隣へ座った。
「古代……。ここの住人は、強盗・殺人・詐欺など悪いことをした罪人が集まってできた、悪人街でした。それを一掃されたのがわたくしの主、でした」
僕はミレーヌの顔を見た。するとミレーヌは僕を見て頷いた。
「何が正義か悪か。わたくしが判断することではないですが、主によって、救われた者もいますの」
そう言い、ミレーヌは僕の手をギュッと握った。
「お友達のケガを治しましょう」
ミレーヌは僕の手を離して、ジーンに手のひらを向けた。
「マオ様も、回復の魔法を使えますのよ」
ミレーヌはニコッと寂しげに微笑んだ。僕も回復魔法が使えるの? ミレーヌは僕の何をしっているのだろう?
「う……」
「ジーン! 大丈夫!?」
身動きしたジーンに声をかけた。
「わたくしはもう行きますわ」
ミレーヌはそう言い、羽を広げて飛んで行こうとした。
「ありがとう」
僕が小声で言うと振り返って頷いた。
「……俺は、どうしたんだっけ」
ジーンは記憶が曖昧になっているらしい。僕は水の入った革袋を取り出した。
「ゴーレムを倒したんだよ。ほら、水を飲んで」
ジーンの体を起こしてやって革袋を渡すと、受け取って水をごくごく飲んだ。
「ゴーレムを、俺が倒した……か?」
「そうだよ!」
記憶が曖昧なうちに、倒したのはジーンだと記憶させる。
ジーンが僕の顔をじっと見た。また嘘をつくようで申し訳ないけど本当のことは、今は言えない。
「……これ、持って帰っていいかな」
ジーンは握っていた指を開くと、手のひらに石が乗っていた。それはレリーフにはめ込まれていた、綺麗な宝石だった。
「戒め、として持っておきたい。もう迂闊にダンジョンで、その辺のものに触ったりしない」
そう言い、ぐっと握りしめた。
「……そうだね。これからたくさん、ダンジョンを捜索したりするだろうからジーンは持っておいたほうがいいよ」と僕は言った。
「帰ろうか……」
「うん」
僕達の初洞窟冒険は苦い思い出のものになった。――けれど今後、他のダンジョンを冒険するときに、この苦い経験は役に立つだろう。
ぼくの転生一回目の行いがそのままなのは、なぜだろう。僕は二回目なのに。
そんなことを思いながら僕とジーンは、ダンジョンを脱出することにした。
地上に戻ったら、村の人達に説明をして許可を取ったり、偉い人へ話をしなければならない。
ミレーヌと相談してダンジョン内を改善しよう。
「うわ!」
「これは……!」
この地下三階のボスを倒したからだろうか? フロア全体に魔法陣が展開して光が輝いた。
「ダンジョンクリア後の、脱出の魔法陣だ……!」
ジーンは目を輝かせて言った。話を聞いたり本で知った、ダンジョンクリアした者だけが見れる、脱出の魔法陣。
それは冒険者にとってダンジョンクリアは誇らしいもので、村に訪れた冒険者たちが誇らしく語っていた。
「僕達も、ダンジョンクリアできたんだよ」
「ああ」
上手くはいかなかったけれど、ダンジョンクリアできた。それは僕とジーンは誇って良いことだ。
僕達は胸を張ってダンジョンから帰ることにした。
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