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二章 因果応報

13 ケルベロスの悩み解決と、名づけ

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 「ガウ! ガウ!」
ケルベロスの子供の一匹(というのかな?)が何かを僕に訴えていた。ケルベロスの子供の、他の二匹は寝ているようだ。
 鳴き声だけじゃ、何を言いたいのかわからなかった。
  「困ったな……」
 「くぅ~ん……」と僕にすがるように見つめてきた。か、可愛い。
獰猛だといわれるケルベロス。子供とはいえ可愛いな。
 
 外側から見ると洞窟の入り口は、上から垂れ下がった草木でよく見ないと洞窟があるなんてわからないだろう。ちょうどいい目隠しになっているから、村の人に見つからなかったのだろう。
 僕は薬草を採取する装備しかしてない。このまま魔物が出そうな洞窟に、防御力5みたいな村人装備で入っていくのは躊躇した。

 「どうしようかな……?」
ケルベロスの子供の様子は気になる。だけどこのまま、洞窟の中に入っていくのは無謀だ。う――ん……としばらく考えていた。
 
 「何かお困りかしら? 魔王様」
「わっ!」
 魔族の女の子、ミレーヌが目の前に上から急に現れて、ふわりと地面に着地した。

 ミレーヌは空を飛んでいたようだった。なぜここ森の空の上にいたのかは知らない。
 
 「あら、ケルベロスの子供。どうしたのかしら? たしか、この洞窟の最下層にケルベロスの寝床があるのよね」
 えっ!? 最下層にケルベロスの寝床があるんだ! 
「ガウガウ!」
 ケルベロスの子供は魔族の女の子に何かを伝えていた。

 「ははあ……。なるほどね」
魔族の女の子はケルベロスの子供の言葉がわかるのか、うんうんと相槌を打っていた。
 「ケルベロスの子供は、なんて言ってるの?」
僕は、魔族の女の子……ミレーヌに、聞いてみた。

 「どうやら洞窟に弱い魔物が増えすぎて、ケルベロス親子が困っているそうです」
え、強そうなケルベロスなのに?
 「いくら強いケルベロスでも、スライムやキノコ系の魔物や知性の低い魔物がたくさん沸いてくれば、キリがないでしょう」
 ミレーヌはそう言って、ケルベロスの子供を撫でた。

 「そうなんだ……。いくらでも湧いてくると、面倒だね」
僕は魔物と戦う、剣術や体術など強くはないから、誰かに頼んだほうがいいのかな?
 「ケルベロスやわたくしの闇魔法で薙ぎ払っても、また湧いてきますわね」
 ふう……とあきらめたように、ため息をついてミレーヌは言った。

 「ん? 待てよ?」
 僕はという言葉に思いついた。

 「ケルベロスの子供……じゃ、言いにくいから名前をつけていいかな?」
僕はケルベロスの子供に言った。
「がう!」
「ガウウ!」
 「ガウ!」
 寝ていた他のケルベロスの子達も起きて返事をした。

 「ええと……。ケル、ベロ、スーじゃ適当だから、真ん中からケルガ・右ベロン・左スーグってのはどう?」
ちょっとだけ名前をひねってみた。
 真ん中の強そうなのはケルガ。こいつは主に僕へ話しかけてくる。右のやつは眠そうにしていて、舌がベロンと出ているからベロン。
左のやつはすぐ寝る。いつも寝てそうだからスーグ。安直だけど覚えやすいからいい。

 「ガウ!」
「がうう!」
 「がう!」
三匹が返事をするかのように鳴いた。するとケルベロスの子達が、ピカッと眩しく光った。
 「ええええっ!? なに!?」

 僕はびっくりしてケルガ、ベロン、スーグを凝視した。……とくに姿かたちは変化はしてない。良かった……進化とかしたら、どうしようと思った。 

を与えたので、ケルベロスの子供は魔王様の眷属けんぞくの契約者となりましたわ」
ほほほほ……とミレーヌは、口元に細い指を近づけて微笑んだ。

 眷属……って、家来とか配下の者のことじゃなかったっけ!?
「ええええ……」
 ケルベロスの子供を家来にしちゃった!?
「と、取り消しで!!」
 腕をバッテンにして拒否した。

 「がぅ……」
「はっ!?」
 あからさまにケルベロスの子供達は、しょんぼりとしてしまった。なんだか可哀そうになった。

 「あっ……! こ、これからよろしくな? ケルガ、ベロン、スーグ!」
名前をつけてしまった責任があるもんな……。
 「がうううぅ――!」
 三匹……でいいのかな。ケルガ、ベロン、スーグは同時に吠えた。

 「で? これからどうしますの? 魔王様」
無事? ケルベロスの子供は僕の眷属になった。
でも、ケルベロスの悩みのもと。洞窟のレベルの低い、大量の魔物をどう片付けるかが問題だった。

 「あ、そうそう! 僕に考えがある」
「まあ、なんですの?」
ケルベロスの子供とミレーヌに僕の考えを話した。


 「ケルベロスが面倒に思うレベルの低い魔物は、冒険者たちに倒してもらえばいいんだ」
 「まあ!」
 「ガウ?」

 「詳しく話すと……」
洞窟内の低レベルの魔物たちを冒険者たちに、『魔物退治のダンジョン』として開放する。もちろん入場料使用料は取る。
 管理は僕がして、利益を村の収入源にする。

 「低レベルの魔物が、狩られていなくなるってことはあるかい?」
僕はミレーヌに聞いた。なんとなく……詳しいので聞いてしまった。
 「それはないと思いますわ。もし少なくなったら、魔王様の気分次第で増やすこともできますわ!」
「いやいやいやいや! それはしない!」
 また暴走はしたくない。怖い神父さんが来るよ……。

 「とにかく! 大丈夫そうだな。あ、ケルベロスの寝床には影響ないかな?」
最下層に寝床があるんだっけ。人間とケルベロスは会わせたくないからな。
 「この洞窟ダンジョンはとても深く、ケルベロスの寝床までは到達する人間は勇者レベルの者と魔王様ぐらいですわ! それに魔界とつながってますの。魔王様もぜひ魔界へいらして下さいねっ!」
 冗談じゃない! 魔界なんて。
 「魔界は横に置いておいて、ケルベロスの寝床まで到達できないならいいや」

 「そうですね……。入口からの奥のフロアを地上一階初心者用フロアとして、下に降りて地下一階……順に地下二階、三階までとしたほうがよろしいかと」
 ミレーヌが提案してくれた。なるほど、いい案だ。
 「いいね! そうしよう!」
僕はミレーヌの両手を握って、上下に振り回した。

 「始めは地下三階までにして……! どんどんいいアイデアが湧いてくる!」
僕は握りこぶしをして腕を高く上げた。
 「魔王様のお役に立てて、嬉しいです……」
 ミレーヌは顔を赤くして、なんだかぎこちなくしていた。

 そうと決まれば! 村の長と、色々な村人に協力してもらわなければいけない。まずは洞窟探検! 僕がチェックしておかないと、危険なところがわからない。

 あの人に、一緒にダンジョンへ入ってもらおう。驚くかな?
 

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