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「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」
9 ゴールデン公爵様
しおりを挟む「お待たせしました。ゴールデン公爵家の当主、ネストの伴侶のジェイク・ゴールデンだ」
扉が開いて入ってきたのは、狼の獣人の洗礼された佇まいの30歳位の男性だった。その後ろに、兄さまが部屋に入ってきた。
「和平大使のルカ殿と英雄騎士アラン殿、うちの子を助けてくれたそうだな。礼を言う」
にこっと微笑んで握手を求めてきた。大きな手。僕が手を差し出すと、ギュッと握った。
「あ……。初めまして、ゴールデン公爵様。あの、兄さまの伴侶さまなのですか?」
僕は戸惑いながら公爵様に聞いた。
「今はもう、ネストという名前だ。ここでは私の伴侶、ゴールデン公爵家のネストだ」
公爵様が僕に釘を刺した。僕はもう、兄さまと呼んでいけないのだ。父をとっくの昔にもう父と呼べないように、兄さまの事ももう呼んではいけないのだ。
それはお互いに、人前では赤の他人として接しなければいけない。――父の過ちの為に。
「分かりました、公爵様。お屋敷に保護させていただきまして、ありがとう御座います」
キュッと手を握り返した。
「せっかくの城下町の見学でしたのに、ひどい目に遭われてしまったが屋敷ではゆっくりと過ごしてくれたまえ。ネストとも話をするといい」
「「ありがとう御座います」」
僕とアランは公爵様に礼を言った。公爵様は、私は仕事があるので悪いが失礼すると言い、部屋をあとにした。
「お茶をどうぞ。お疲れでしょう。ごゆっくりなさってください」
メイドさんがお茶を注いでくれた。
「いただきます」
ホッとしてお茶をいただいた。チラッとソファーに座っている兄さまを見ると、横を向いていた。
「あの……。に……、ネスト様。ご結婚されたのですか?」
ごはっ! アランがむせた。またストレートに聞きすぎたかな……?
沈黙が部屋を包んだ。
僕が兄さまの返事を待って、ジッ……と見ていたら兄さまにため息をつかれた。
「……そんなにジッと見るな」
兄さまは変わってなかった。僕が兄さまの返事を待っていると、ジッと見るなと言って照れるのだ。
「ごめんなさい」
ニコッと笑って言った。
「お前と別れた後……」
兄さまが僕の家に来た後……? ケガを負った兄さまは姿を消した。探してもいなかった。
「意識を失った俺は、このまま死んでもいいかと思っていた。しかし、たまたま通りかかったジェイクがこの国……、この屋敷に連れてきてくれて手当をしてくれた」
「死んでもいいかなんて……!」
ガタンと僕は立ち上がった。兄さまは死ぬつもりだったのかと、僕は悲しくなった。
「ルカ。座ろう」
アランが優しく、僕の肩を掴んでソファーに座らせた。兄さまは僕の顔を見て続きを離し始めた。
「それから……あの誘拐事件で、俺が子供達を密かに逃がしていた人物と分かってジェイクにお世話になって……。魔法の力が認められて、この国の王族専人護衛魔法使いになった」
兄さまは、自分の手を組みながら僕達に話をしてくれた。
「あのトラの獣人の子は、王族の血を引く子だ。この屋敷で守っている」
あの子は王族の血を引く子、だったのか。良かった、無事で……。
「で、ゴールデン公爵様とは惹かれあって伴侶になったのだよね? に……ネスト様」
兄さまのなれそめを知りたくなった。兄さま、話をしてくれるかな? 無理かな?
「そ、それは……」
兄さまの組んだ手の指がせわしなく動いてる。アランが口出ししようか迷っていたのを感じた。
「ボロボロになった見ず知らずの俺を、寝ずに何日も寝ずに優しく看病してくれた……」
兄さまは横にプイっと向いて、少し頬を染めて話してくれた。
「ボロボロの兄さまを……」
「兄さまではないと、何度言えば……!?」
また兄さまと呼んでしまって怒られた。僕はボロボロになった兄さまを思い出して涙がこぼれた。
「ごめんなさい……。公爵様、兄さまを救ってくれてありがとう……」
僕は我慢できなくて泣いてしまった。
そのボロボロにしたのは僕だ。精神的にも身体的にもボロボロだったはずの兄さま。この国に連れてきてくれて看病してくれて、愛してくれて嬉しかった。兄さまは愛に飢えた人だったから……。
「泣くな。ルカリオン……」
兄さまが幸せなら、僕は嬉しい。もう兄妹とは名乗れないけれど……。
「ルカ、これで涙を拭け。せっかくの対面だぞ」
「うん……」
アランにハンカチを借りて涙を拭いた。
「しばらくこの屋敷に滞在するがいい」
兄さんは僕達に優しく言ってくれた。
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