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「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」 

6 アランの思い

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「王! 近くに、一人でこちらをうかがっていたメイドを連れてきました」
 この国の兵士が、先ほど案内してくれたメイドを拘束して連れてきた。
「私は! その熊のお方に、『こちらにお連れしろ』と命令されただけです! 助けて下さい!」
 メイドさんは必死に命乞いをしていた。

「……事情を聞け。しっかりとな」
「はい!」
 王様の命令でメイドさんは兵士に連れていかれた。言ったことが本当ならば、すぐに解放されるだろう。

「さて。こやつめが単独でこのような事をしたのか、そうでないのかは聴かねばならん。連れて行け!」
「はいっ!」
 王様は抑えてはいたが、こちらにまで怒りが伝わってきた。
「ルカ殿。本当に申し訳なかった。詳しい事を聞きたい。移動したいがいいか?」

 王様は本当に、申し訳なさそうに僕に話しかけてきた。熊の獣人は数人の兵士によって運ばれていった。
 「分かりました。移動しましょう。ね? アラン」
 アランは僕でさえ見て、怖いと思うような表情をしていた。
「いいでしょう」
低く底冷えがするような声で、王様に返事をした。王様の護衛達が小さく悲鳴を上げていた。
 
 皆でぞろぞろと物置部屋から移動をした。僕達の周りに、護衛さん達が囲み、警戒して応接間へ進んだ。
 「どうぞ」
「ありがとう御座います」
 応接間のソファーに王様と僕とアランで向かい合って座った。メイドさんからお茶を淹れてもらってお礼を言った。

 「この度はルカ殿に、この国の貴族獣人が、大変失礼をしてしまった」
迫力ある王様から謝罪をもらった。威圧的な所はなく、心からの謝罪だった。
「いえ。僕もうっかりと……「ルカを襲った獣人に制裁を下し、和平に支障がないようにしていただきたい」」
 アランは僕の言葉を遮り、王様にきっぱりと言った。

 「……了解した。交渉していた物品の譲渡をしよう。それでいいか? アラン」
 王様はアランに尋ねた。アランは少し考えて頷いた。
「……いいだろう」
 ピリピリと緊張が走った。王様と渡り合えるアランは凄い……。

 「後日、書面にして渡そう。明日の見学は延期をしたほうがいいか? ルカ殿」
 王様が僕に明日の事を聞いてくれた。
 「いえ。大丈夫です。お気遣い、ありがとう御座います」
「うむ」
 王様は返事をしてお茶を一口飲んだ。

 「では。我々は失礼する。また明日」
「アラン」
 飲みかけの紅茶の入ったティーカップを置いて、僕はアランに手を引かれて応接間を後にした。
 カツカツ! とアランは早足で廊下を歩いてる。僕の手を握って無言だ。いつもは僕に合わせて歩いてくれているけど、今は僕がアランについて行くのがやっとだった。

 「アラン?」
僕達へ用意された部屋に戻ってくると、アランは僕を広いベッドに片手で胸を軽く押した。
 「あ」
 僕はバランスを崩して、ベッドへ倒れこんだ。柔らかいベッドの上だったので痛くはなかったけれど驚いた。
 ベッドに、斜めで仰向けに倒れた僕はアランと目が合った。手足を大の字のまましばらく見つめあっていた。

 「ごめんなさい」
僕は、アランがとても苦しんでいることに気がついて謝った。
「ルカ……」
 ドサ! とアランが僕の両耳の脇に手をついて、覆いかぶさってきた。体は浮かせていて重くない。すぐ真上にアランの整った顔がある。
 アランの瞳に、僕の泣き顔が映っていた。

 「一人で出て行ってしまって、ごめんなさい」
 怒られた方が良かったと思えるほどアランの顔は、顔色が悪かった。僕はポロポロと涙を流してアランに謝った。
 「……無事で、良かった」
 キュッと顔を、腕に抱えられて頬ずりされた。

 「大事な人をもうこれ以上、失くしたくない」

 アランのその言葉を聞いて僕は、声を出して泣いた。
アランは国を救った英雄だけど敵も多く、親友や慕ってくれた部下も亡くしたと聞いた。常に狙われるアラン。いつも守ってくれているけど、僕も狙われている。
 「ごめんね? 気をつけなければ……、いけないのに」
 ぐずぐずになってアランの両ほほを包んだ。親指でアランの目じりをぬぐった。

 きゅっとそのまま二人で、ベッドで抱き合ったままいた。
 
 
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