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「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」
1 街道の宿屋
しおりを挟む「獣人の国に着く前に、宿屋に一泊する」
ナルン王国から出発して、景色が街並みから自然が多くなってきた頃にアランは僕に言った。
「宿屋に泊まるの? 初めて泊まるから楽しみ」
僕かアランに返事をすると、微笑んでくれた。
馬車の窓から、近くで馬に乗って警護してくれている騎士さんが、怯えていたのが見えた。なぜだろう。
「コホン! 街から遠い場所の宿だから、そんなにいい部屋じゃないが食事は美味いぞ、ルカ」
チラリとアランは窓の外を見た。クイッと顎を上げて何か合図をした。
「食事が美味しいのは嬉しいな。……アラン、外で馬に乗って警護してくれてる騎士さんに、何の合図をしたの?」
僕は気になってアランに聞いた。
「ああ。外から窓の中を覗いていたから、離れろと合図をした。国へ帰ったら、筋トレ50回増やそう」
サラリと、アランは言った。
「えっ? 気のせいじゃない? その……、かわいそうだから、せめて30回にしてあげて」
覗いただけで筋トレを増やすなんて。アラン、嫌われないかな。大丈夫?
「国を出発してからずっとルカを見ていた。許さん」
腕組みをして、窓の外を睨んでいた。
あ……。これは実行する。僕にはとめられないです。ごめんなさい。
心の中で騎士さんに謝った。
「もうすぐ宿に着く頃だ。移動で疲れただろう。ゆっくり休もう」
「うん」
アランは長時間の移動に、まったく疲れを見せてなかった。さすがだと思った。
僕は慣れない馬車の移動で、体があちこち痛かった。
馬車がゆっくりと止まり、外から合図があったあとに扉が開いた。
「ルカ、降りるぞ」
そう言い、僕の手を取って馬車から降ろしてくれた。
宿は多少、年季は入っていたが木造の、大きくて立派な宿だった。僕からみたら十分すぎる素敵な宿だ。
いわゆる旅人や冒険者御用達の宿っぽかった。
「ルカ、こっちだ」
僕が外見に見惚れているうちに、宿の手続きを済ませたアランが戻ってきて僕を呼んだ。
「はいっ!」
いけない。ちゃんとやらないと! 慌てて僕は宿の中に入っていった。
「まあまあ! いらっしゃいませ! お待ちしておりました――! ごゆっくり、お休み下さいませ」
宿の女主人が僕らを出迎えてくれた。
荒っぽい冒険者をさばいてきた、百戦錬磨したような豪快な女将だった。
「女将、元気そうだな」
アランが女将さんに、親しげに話しかけた。
「そりゃあね! アラン様こそ、顔が若干優しくなったみたいね? 隣にいる、美青年のせいかしら?」
ん? 隣にいる美青年? アランの隣にいるのは左側にいる僕だけ……。僕が美青年?
「俺の伴侶になった、ルカだ。イジメるなよ、女将」
ちょっと声が低めに、女将へ牽制するように言った。
「まあ――! 怖い怖い! 本気なのね――。でも、良かったわ。アラン様」
女将は大げさにアランに返事をした。僕は二人に割り込めず、ただ話を聞いていた。
「何が良かったんだ?」
アランが呆れたように言う。いつもこんな調子なのかな。
「アラン様に、こんな素敵で優しそうな伴侶様が見つかったこと! あたしが探してやろうかと、思っていたわ――」
素敵で優しそうな……。僕のこと?
まさか僕が、そんな風に言われると思ってなかったので目をパチパチして固まっていた。
「女将に探してもらわなくて良かった。ルカは最高の、俺の伴侶だ」
「まあ――! ごちそうさま」
語尾にハートマークが付きそうな、女将の返事だった。
「早く鍵を寄越してくれ。ルカが疲れている。休ませたい」
アランが女将に言った。
「ハイハイ。どうぞ、鍵です。二階の部屋よ。ごゆっくりしてね? ルカ様」
パチン! と僕にウインクした。
「はい」
妙齢な女性だけどやり手で、この宿が長く繁盛しているのが分かった気がする。
「……行くぞ、ルカ。皆も、ゆっくり明日まで休んでくれ!」
「はい!」
他の、護衛してついてきた騎士さん達が返事をした。今日はこの宿を貸し切ったらしい。
「用心のためだ」
アランは国を救った英雄騎士で、有名な人だ。その裏で悪い人達に狙われている。
いつもピリピリと外でアランは警戒態勢をしている。
いくら強くても、指輪の加護があっても、自分の近くに居た者が、巻き込まれたくないからと言っていた。
国を救った英雄なのに……。
僕はこの身を持って、アランを守りたいと思っている。どうかアランもアランの側にいる人々も、何事もなく過ごせますようにと、願わずにいられない。
「どうした、ルカ」
ハッと気がついて、アランに誤魔化すように笑いかけた。
「ううん、何でもない! ごめん、部屋に行こう」
僕はアランの手を取って二階へと、階段を登った。
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