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「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」 

プロローグ

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 お店も順調に繁盛して、ホッとしたある日……。

「和平大使として1週間、あちら獣人の国へ滞在して欲しい」
お城に呼ばれて、王様直々に任命された。

 僕は急で驚いたけれど、和平大使という自分の役割を考えて引き受けた。

「ただいま……わっ!」
「お帰り、ルカ。獣人の国へ行くとは……心配だ」
公爵家に帰ると、アランが先に帰っていていつもと逆に僕が出迎えられた。そうして僕を抱きしめたときにいつもの心配性が。

「苦し……。もうアランに情報が入ったの? 早い」
胸に押し付けられて、息が出来ないくらい苦しかったので顔を動かして息を吸った。
「あ、ああ。ルカ、すまん」
 アランが腕を緩めてくれた。周りにいたメイドさん達が慌てていたのが見えた。

「獣人の国へ行くのは、1週間だけだから……」
僕が言いかけると、アランは「1だ。長過ぎる。俺も行く」と言い出した。
「ち、ちょっと。俺も行くって……」
アランを見上げると、本気の顔をしていた。これは……。

 二、三日が過ぎて旅の支度が終わり、王様へ旅立ちの挨拶をしていた。 
「ルカ。獣人の国へ気をつけて旅立ち、和平大使としての役割を願う」
「はい。お任せください」
 ひざまつき、頭を下げていた。

 カチャン……。
「え……」
隣にがひざまついた。王様の前なので、ひざまつくのは分かるがこの気配は……。
「コホン! ルカよ。道中、危険がある。騎士を護衛につけよう」

 ソロリ……と、横を見ると朝に行ってらっしゃいの挨拶をしたアランが、ひざまついていた。
「王よ。ルカとともに、獣人の国へ行ってまいります」
「うむ」
 僕はキリリとした横顔を見ながら、王様は何かアランに弱みを握られているんじゃないかと疑った。

 でもアランが一緒ならば、これほど心強い護衛はいない。
 「ありがとう御座います。しっかりと、役目を果たしてまいります」
僕は王様に、御礼を申した。


 謁見の間から下がり、アランと話をしていた。
「ちょうど仕事が空いたので、一緒に護衛として行った方が良いと思ってな」
「御自分の仕事を急ピッチで仕上げてましたよね?」
 アランの話に割り込んできたのは、ニールさん。

「え。大丈夫ですか?」
 僕が心配してアランに聞くと、ニールさんを睨んでいた。
「俺がいない時に、お前に団長代理を任命する。帰ってきて仕事を残していたら、休み無しで働かせるからな」
 ひぇっ! アランはニールさんに厳しい。

「ひどいなぁ。ま、いつでも連絡が取れるようにしていて下さいね」
ニールさんって打たれ強い人なの……? 大丈夫かな。
 僕とアランはニールさんと別れた。

「明日から獣人の国へ行くが……。どんな所か分かるか?」
 アランが僕の肩を掴んだ。そしてクイッとアランの方へ引き寄せた。
 前から貴族の人が歩いて来て、その人は脇に避けてアランにお辞儀をした。その前を通り過ぎた。

 こちらの方が地位が高いからそうするのが当たり前だけど、僕はまだ慣れない。
 
「一通りあちらの文化や歴史の本を読んだりしたけれど、習慣は分からないです」
 習慣までは本に乗ってない。間違わなければいいけれど……。
「俺が教えてやる」
 アランが力強く、僕に言ってくれた。

 家に一度帰って明日、獣人の国へ出発だ。
緊張するけれど、アランがいてくれると心強い。

 夜にアランが、獣人の国の習慣など教えてくれた。
「獣人は『つがい』と呼ばれる伴侶を探している。見つけたらその伴侶を大事にするという」
「見つけるってどういうこと? 何かでもあるの?」
 僕はアランに聞いた。

「聞くところによると、一目会ったら分かるそうだ。匂い……体臭も甘く感じると聞いた」
「へえ……。あれ?」
 何か、思い出しそうだった。
「ん? 何だ、ルカ」
アランが不思議そうに、僕を見た。
 
 考えたが思い出せなかった。
「ううん。何でもない」

「あとは細かいところは、行きながら話そう」
「ありがとう、アラン」

 アランが地図で色々道中の美味しいお店や、獣人の国の流行りのお店を教えてくれた。
「楽しみだね。城下町に行けたらいいけど、無理かな」
「どうだろう? 行ける時間があるならば、俺と出かけよう」
ますます楽しみになってきた。

「さあ。明日は移動だからもう眠ろう、ルカ」
「うん」
 アランが先にベッドに入り、布団の端を持ち上げてくれた。

 僕はアランの胸に抱きついた。
「ふふ。アランが一緒なら、安心します」
 僕に寒くないように布団をフワリとかけてくれた。
「お休み」
「お休みなさい……」
アランの体温を感じながら眠りについた。


 そして、次の日。出発の時間になった。
公爵家の皆さんに挨拶をすると「お気をつけて行ってらっしゃいませ! アラン様、ルカ様をしっかりお守り下さいね!」とアランに何度も言っていた。
 そんなに心配されるかなと、複雑だった。
 
 お城へ、時間通りにアランと来た。僕一人だったら不安だったから良かった。

「では、行ってきます!」
思ったより多くの人に見送られた。アラン様はやっぱり慕われている。
「ルカ様――! お気をつけて!」
「ルカ様、和平大使として頑張って下さい――!」
「好きだ――! ルカ様ぁ!」

 ん? 告白されたようなのは、気のせいかな?

 馬車の中、僕とアランの二人きり。
アランはちょっとお見送り時に不機嫌になった。でも僕に持たせてくれた、道中に食べる予定の蓋付きカゴに入っていたクッキーを「はい。あ――ん?」と口の中に放り込んだら機嫌が直った。良かった。

「僕も食べるね」
 そう言ってカゴから、アランお手製のシュークリームを取り出して食べた。
「美味しい……」
 僕が夢中で食べていたら、唇にカスタードクリームが付いていたらしく、アランは親指で拭ってくれた。

 ペロリ。拭った親指を舐めた。
「わぁ……」
 こちらを見るアランがカッコ良くて、ぽ――っと見惚れてしまった。

 まだ旅は始まったばかり。
キリリと気を引き締めて行かないと、いけない。
和平のための大使なのだから。

「ルカ。眠くなったら、俺に寄りかかっていいぞ」
「ありがとう……」
僕はアランの優しさに負けて、キリリとはできないみたい。


 馬車は二人を乗せて、獣人の国へ進んだ。 
 
 
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