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エピソード

風邪に気をつけて 冬のぬくもり 中

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「なんだ。久しぶりだな。ルカ、アラン」

 商店街で街の人を診察してくれる、ナナセ医師が親しげに話しかけてきた。
 「久しぶりだな。悪いが、のんびりと世間話をしてる暇はない」
 アラン様がいら立ったように、ナナセ医師に返事をした。
「……その様だな。ルカを診察用のベッドに寝かしてくれ、アラン」

 話しぶりから二人は親しそうだった。知り合い、だろうか?
以前……。僕は倒れてナナセ医師にお世話になってから、何かと気にかけてくれているので具合の悪い時は頼っている人だ。

 「また、無理をしたんだろう? ぎりぎりまで我慢したり、自分の体を大事にしないと」
 その通りだ……。今回もつい、夢中になってしまった。結局、リファ君やお店の人達、アラン様に迷惑をかけてしまった。
 「はい……」
僕はアラン様に、ゆっくりと診察用のベッドに降ろされた。

 ナナセ医師は僕の額や胸、足先まで手を当てて診察した。触ってはいない。
 「風邪ですね。だけど、これ以上ひどくならないように気を付けてください。風邪だからといって、甘く見ないで下さいね」
 ナナセ医師は、僕とアラン様に診察の結果を話してくれた。

 「二、三日は、熱が高く出るでしょう。水分を摂って、消化の良い食事をして下さい」
 薬を出しますね、と言い机で処方箋を書いていた。
「……ルカは今、アランの所に居るんだっけ?」
 こちらを見ずに話しかけてきた。

 「はい……。そうです」
 僕がくらくらとして返事をすると、ナナセ医師は微笑んだ。
 「ならば、安心だ。アランはルカの事を大事にしているみたいだし、ルカが一人暮らしのままだったら強制入院させるところだった」
 ナナセ医師はアランに向かって言った。

 「そうそう。最近、ルカはここに顔を出してこなかったので言い忘れていた」
 あ……そういえば忙しかったので来れなかった。お店の新装開店の時には挨拶に来たけど。
「俺とアランと、魔法使いのリヴァイは幼馴染だ。アランの顔は怖いけど良いやつだ。見捨てないでやってくれ」
 「おい」
アラン様が、ナナセ医師の脇腹を肘で叩いていた。

 仲がいいなあ。
「見捨てるなんて、絶対にしませんよ。逆に僕が見捨てられないようにしないと……いけないです」
 僕がそう言うと二人は、びっくりした顔をした。

 「いや……ありえないだろう」
ナナセ医師がジロジロとアラン様を見た。
「そうだ。俺がルカを捨てるなんて、ありえないだろう」
 二人は確信をもって言った。
僕はアラン様に、ふさわしくなりたいために努力してるつもり。けれど、時々自信が無くなる。

 「もう屋敷に帰っていいか?」
 アラン様がナナセ医師に言った。僕くらいの大きな暖かい布で包んでくれて、抱き上げてくれた。
 「ああ。食後に薬3回。汗をかいたら着替え。……公爵家の屋敷なら、看護は安心か」

 「世話になった」
 アラン様は一言言って立ち去ろうとした。
「今度、リヴァイも誘って飲まないか?」
 「いいな」
 アラン様とナナセ医師は微笑みあった。いいな。幼馴染か。

 「ありがとう御座いました……」
 病院から帰るとき、僕はナナセ医師にお礼を言った。
「辛いだろうから無理はするなよ。五日後、また来い」
 手を振って見送ってくれたナナセ医師を、アラン様に横抱きされながら病院を後にした。


 馬車に揺られて僕は、アラン様の腕の中で移動した。

「ルカ様。すでに連絡を受けて準備は整っています。ゆっくりお休みなさってください」
 ネネさんが優しく僕に伝えてくれた。
 「ありがとう……ございます」
 ふわふわ。また熱が上がってきたみたい。

 「お顔が真っ赤です……! すぐにお部屋へ、アラン様」
「ああ」
 ネネさん、メイドさん達とお屋敷で働いてる人たちが、心配そうに僕を見ていた。
 「ほらほら! ルカ様はゆっくりお休みになられますから、邪魔をしないように持ち場に戻って!」
 ネネさんに言われて、ぞろぞろと皆は戻って行ってるようだ。アラン様に横抱きされて、階段から皆の様子が見えていた。

 「部屋は暖かい。湿度も適度だ。よし」
 アラン様がネネさんに言った。ネネさんは頭を下げた。
「お薬を飲む前に、野菜スープをお飲みになられた方が良いですわ。お水と一緒にお持ちします」
 頼む。とアラン様は言って僕をベッドに寝かしてくれた。

 「ふう……。アラン様、すみません」
 アラン様は僕に肩まで布団をかけてくれた。
「病気になるのは仕方が無い。だが、休憩を取らずに無茶はだめだ。ルカ」
 アラン様の指が、僕の頬を撫でる。
 「はい……。気をつけます」
 夢中になると時間を忘れてしまう、気を付けないと……。

 コホコホ……。咳が出た。
「ネネが野菜スープを持ってきたら軽く食べて、薬を飲もう。看病は俺やネネがするから、安心して休め」
 アラン様の優しい言葉に泣きたくなる。一人でやっていた時は実は何度か倒れていた。大事には至らなかったけど。いや、一度ナナセ医師の所で入院した。

 「ありがとう。アラン様」
 少し涙目になりながら、アラン様にありがとうと言った。
「ルカは甘えるときに、様を付けるみたいだな」
 影が近づいて、僕の頬に柔らかい物が触れた。アラン様からキスをされた。

 「駄目ですよ……。風邪がうつります……」
冷たいアラン様の手で頬を撫でられて気持ちが良かったけれど、風邪を移してはいけない。
 「そんな簡単に、風邪が移るような鍛え方はしてないから大丈夫だ」
 
 アラン様の低い優しい声を聞きながら眠りについた。
 
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