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エピソード
エピソード① 二人の指輪 一つの指輪
しおりを挟むアランの休日に合わせて、僕は店番を他の人に頼んで一緒に仕事を休んだ。
ゴォォォ――!
「でもどうして、こんな豪雨にコテージに来るの!?」
吹き飛ばされそうな強い雨風に、体に叩きつける豪雨。僕はアランに思わず尋ねた。
アランが今度の休日に、コテージに来たいと話してたから予定には入っていた。でもこんな、荒れた天気になるなんて。
「すまん! ルカに見せたいものがあるんだ」
二人共、飛ばされないようにお互い身を寄せて馬車からコテージまで、ずぶ濡れになって進んだ。
「わあ!」
アランがコテージの鍵を開けようと、ちょっと離れたときに僕の体が飛ばされそうになった。
「ルカ!」
間一髪、アランが腰を持って引き寄せてくれた。
アランが、コテージの鍵を急いで開けて中に入った。
「危なかった……」
でも二人は、びしょ濡れになってしまった。無理もない。豪雨だったし、風も強かった。
「すまん、ルカ。お風呂を沸かすから入ろう」
アランは体を拭く布を、渡してくれた。
「ありがとう」
僕はアランに返事をして、とりあえず顔や体を拭いた。
「アランも拭いて」
濡れてない布の所で、濡れた髪の毛を拭いてあげた。
「ありがとう、ルカ」
アランの濡れた髪の毛を、拭いていた手の手首にお礼のキスをされた。
そしてお風呂のお湯を溜めに、アランは風呂場に向かった。
最近はお礼や、感謝するときにもキスをされるようになった。……バレンシア公爵家の習慣なのだろうか?
しばらくしてお風呂の用意が出来た。
先に僕がお風呂に入れと言われて入った。
「温まる……」
ふぁ……。全身ずぶ濡れになったので、冷えてしまった。お風呂は好きだ。
「お先にお風呂、頂きました。アラン、お待たせ」
「温まったようだな。では入ってくる」
アランはそう言ってお風呂へ向かった。
果実水を飲みながら、ふとテーブルの上を見るとアンティークの、金色で高価そうな小さな箱があった。
「アランのアクセサリー入れかな? 蓋が開いてる」
ポスンとソファに座って、アンティークの箱の中を覗いてみる。
「僕があげた指輪だ……」
キラリと光る指輪は、依頼があって僕が加護をつけて渡したもの。
「ルカ。風呂から出たぞ」
「あ、アラン」
髪の毛が濡れたまま、布を被ってこちらへ歩いてきた。
「ん? 何を見ていたんだ?」
ゴシゴシ髪の毛を拭きながら、ソファに座った。指輪のこと、もう話してもいいかな。
「指輪……」
僕はアンティークの箱の中を指差した。
「ああ。ルカに加護をつけてもらった指輪だ」
アランは果実水を、大きなコップでゴクゴク飲んでいる。
僕も果実水を一口飲んで話し始めた。
「これ、この指輪。実は母の形見の指輪の一つなんだ」
ゴホッゴホッ! アランは僕の話を聞いてむせた。
「なんっ……! 何でそんな大事な指輪を!?」
立ち上がり、僕を見下ろした。
そうだよね。そう言うと思ったから、今まで黙っていた。
「これは母方の家に伝わる指輪で『大事にしたい人に贈りなさい』と言われて渡された」
まだ小さかったけど大事な指輪なのは伝わって、僕は鎖に指輪を通して首にかけていた。
「……!」
アランはグッと、言いかけた言葉を飲んだ。
「アラン様は僕のことを覚えてなくてもいい。ただ無事に帰って来て欲しいと思ったから、その指輪を使って加護をつけて渡した」
大事な指輪だったけど、大事なものだからアラン様に渡した。
「でも。もともとその指輪に、加護はついていたんだよね」
触ってもいい? とアランに聞くと頷いた。
こうやって、じっくりと指輪を見ると加護がたくさんついている。自分でも思ったより加護をつけてしまったようだ。
「ルカ。この指輪と、バレンシア公爵家に伝わるその指輪なのだが……」
僕はアランに指輪を返した。
ちょっと言いにくそうに、話を切り出した。
「ルカに渡した指輪を、ちょっと貸してくれないか?」
僕は左手の薬指にはめていた、アランにもらった指輪を渡した。
「良く見てみろ。2つの指輪に、不自然な凹みと突起があるのがわかるか?」
よく見ると、変わったデザインをしている。不思議な指輪なので特に気にはしてなかった。
「そうだね……。気にしてなかったけれど」
両方の指輪。僕の手に渡っても、短い期間だからあまりじっくりと見れなかった。
「ルカ」
アランは二つの指輪の凹みと突起を合わせて、左右に回した。
カチリ!
「えっ! 繋がった?」
二つの指輪は凹みと突起が合わさって、連結し一つの指輪になった。
カッ……!
「なに? 眩しい……!」
指輪から眩しい光が放たれて、目が開けられない!
何が起こったの!?
「くっ……! まさか、こんな光が……!」
アランもこんなに眩しい光が、放たれるとは思わなかったみたいだ。
外に漏れるほどの眩しい光は、徐々に消えていった。
「な、何だったの? ねえ、アラン!」
邪悪な感じはしなかったから大丈夫だと思うけど、これは、ただごとではない。
「どうやら二つの指輪はもともと一つで、分けられたようだ。バレンシア公爵家の古い文献を調べていたら、遡るとルカの母君の家系とバレンシア公爵家は近い血筋らしい」
「えっ!」
母の家系?
「おとぎ話や神話位の昔に遡るが。現在。血は薄れているから、問題ない」
そんな昔の祖先が、近い血筋なんて。
「まあ、話せば長くなるから後に話そうか」
「はい」
何だか壮大な話を聞いたような気がする。
「あの……。アラン」
僕は何だか気がついてしまった。
「なんだ?」
二つの指輪が一つになった。それって……。
「アランに頂いた指輪も、加護がついていたよ。その加護がついた二つの指輪が一つになったら……」
「……うむ」
……何も起こらないよ、ね?
「悪いことではなければ、いいのではないか?」
アランは難しい顔をして、僕に話しかけた。
「……だよね」
僕は指輪をもとの二つに戻して、アランと自分の指にはめた。
大丈夫。何も起こらない。……良かった。
「と、ところで、アラン! 僕に見せたいものって、なあに?」
僕はアランに話しかけた。アランはアンティークの箱をポケットにしまっていた。
「ああ。……雨がやんだようだな」
黒い雨雲が去り、雨があがっていた。いつの間にか夜になっていて、星空が見えていた。
「ルカ、こちらに」
背中を押されてテラスに出る。
「上を見てみろ」
「上? あっ!」
空を見上げると、一面の星空だった。来たときの豪雨が嘘のようだった。
「綺麗……」
街では見えないたくさんの星空だった。
「今日は星空だけじゃない。ほら」
アランが星空を見上げると、星が流れた。
「わぁ! 流れ星! 初めてみたかも」
僕がはしゃいでいたら、また流れ星が流れた。
「え!?」
流れ星は一つだけじゃなくて、いくつも流れ始めた。
「今日は流星群が観れる日なんだ。この流星群は十年ぶりに観れる流星で、次に観れるのは十年後だ」
「そうなの?」
アランは物知りだ。こうして僕の知らないことをたくさん教えてくれる。
「綺麗だね、アラン」
「だな、ルカ」
僕達はしばらく流星群をみていた。
後日……。
「不思議ですけど……。ナルン王国にあるいくつかの祠から結界魔法陣が紡ぎられて、ルカ君とリヴァイさんの張った結界に、被さるように展開して結界が強化されました」
アランがニールさんに聞かされた話を、僕にしてくれた。
「……アラン、どうしよう」
それって、あの指輪が原因だよね。時期を聞いたら、ピタッと一致してしまった。王国全体が豪雨だったのが晴れて、結界が強化し張られた。
そのあとに流星群。間違いも出来ない日だった。
「……強化されたなら、別に黙っていてもいいのではないか」
アランはちょっと困った顔をしたが、自分の中で結論を出したようだ。
「そうだね……」
流星群も見れたし。強化されたから、いいか……。
そうして皆が知らぬ間に、アランとルカによってナルン王国の安全が強化された。
「ほら、おいで。ルカ」
「ん」
アランが手を広げて僕が抱きつくのを待っている。
僕は躊躇わずにアランに抱きついた。
スリスリ……。アランの顔に頬ずりし、甘える。
大きな手のひらが優しく僕を撫でる。
「今度、その祠に行ってみようか?」
「そうだね。アラン」
抱きついたまま、アランをソファに押し倒した。
「こら。イタズラはよせ」
僕に怒ったことがない。優しく話すアラン。
「抱きついたまま、寝ちゃおうかな……」
眠気が僕を襲う。
「運んでやるから、寝てもいいぞ。ルカ」
優しい優しい、僕のアラン。
エピソード①終わり
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