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その後 二人の物語

53.ルカの寝相②〜アラン視点〜

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  「ルカ?」
 一言も話さず静かになったので、名を呼ぶ。
どうやら、マッサージをしてたらルカは寝てしまったようだ。

 お店の改装から開店まで、忙しく動き回っていた。それに加えて、和平大使としても働いていたから疲れが溜まるはずだ。
 マッサージをして凝りが、ほぐれたならいいが。

 すぅ……、すぅ、と静かなルカの寝息が聞こえる。
サラサラになった、綺麗な金の髪を指で梳かす。家に来たばかりの頃のパサパサな、くすんだ髪はもう面影がない。
 
 髪を洗う物は俺と同じものを使っている。だけどルカの香りが混じっていて、柔らかくいい香りがする。

「ルカ」
呼んでも起きないし起こすのも可愛そうなので、俺の部屋でこのまま寝かせよう。
 布団をめくり、ルカを抱き上げる。
以前に抱き上げた時より、体重が重くなって体つきも年相応に近づいてきた。
 身長も少し伸びた気がする。

 抱き上げて、いわゆる……お姫様抱っこというのをしているのだが、なかなかいいかもしれない。
 まぶたを閉じて、俺の胸筋に顔を傾けてあどけなく眠っているルカ。
 髪が乱れて額の傷が痛々しいが、それも気に留めないほどのルカの寝顔。
 警戒なく体を俺に預けている。

 つい。お姫様抱っこしたまま、しばらくルカを眺めていた。
……いかん。このままでは風邪を引く。
 ゆっくりとルカを、ベッドに横たわせた。

 自分も中に入って、布団をルカの肩まで引き上げた。起きないのでルカをこのまま寝かせる。
「お休み、ルカ」
魔力を、ベッドサイドにあるライトに向けて明かりを消す。

 はっ!? 殺気!?
体を、騎士の勘で素早く動かして後ずさった。
 バン!
「……!」
 顔のすぐ近くに、すごい勢いで何かが落ちた。

 ライトに魔力を向けて明かりをつける。
「ルカ……」
 ルカの手が俺の近くにあった。いわゆる、裏拳……いや、寝相のせいで腕を伸ばしたらしい。
 前に、寝相はいいと言っていたよな。だが、前回の事があった。今回も……?

 ドン! 「うっ……!」
俺としたことが油断した……! ルカに腹を蹴られた。
 今回は激しい……!

「アラン……」
クルクルと回転して、俺に抱きついてきた。近くにいたほうが痛い目にあわないかも。
 このまま抱きしめていれば、動きは押さえられる。

「むにゃ……」
ピンッ! と、ルカの耳が出てきた。……どういう仕組みだろう?
 スリスリ、スリスリ。顔を俺の胸に擦り付けている。前にもされたので驚かない。ただ、可愛いだけだ。

 ムギュ……。俺の背中まで手を伸ばして密着してくる。
「ルカ」
駄目だ、起きやしない。よほど疲れているのだろう。
 また眠れない夜になるな。仕方がない。

 ピクリ、ピク。
ちょうどルカの耳が、俺の鼻にあたってくすぐったい。
 ピクピク。
 このままでは、柔らかな耳が鼻を刺激してクシャミをしそうだ。

「ルカ……」
む。起こしたくはない。しかし、まだ耳が鼻をくすぐっている。
 ギュッと抱きしめられていて、ルカの体を離せない。

「む……。困ったな」
ピクピクピクピク。
 ちょうど口の近くに耳がきたので、パクリと軽く唇で耳を食んでみた。

「……」
ルカの動きが止まる。……寝ている者にしてはいけないことだとは承知している。
 ただ、魔が差しただけだ。

 さすがに起きてしまったか? イタズラが過ぎただろうか。
「ルカ」
「……やだ。耳、噛んじゃだめ」
 そう言って手で耳を隠した。

 『噛んじゃだめ』
可愛い……。俺はその言葉を繰り返していた。
「ん?」
腹にペチペチ、何か当たっている。

「しっぽか……!」
 ルカのしっぽが、俺の腹にペチペチと叩きつけていた。痛くはない。むしろ歓迎する。

 そっとしっぽを触ると、フワフワした感触があった。先のほうを優しく毛並みに沿って撫でる。
「あ……っ」
 いかん。しっぽの付け根まで撫でてしまった。確か敏感な所と言っていたような。
 痛かったのだろうか……。

 こうルカと密着していると、よからぬことを考えてしまうな。
 ……心頭滅却。……無念無想。……明鏡止水。よし。

 俺の体からルカの腕を離す。細かった腕がしっかりと肉がついていて、ホッとする。
前は力を入れれば、すぐに腕が折れそうだった。

「やだ」
ん? 今度こそ起きたのか?
「わっ!」
 また前回のように、首に腕を回されて抱きつかれてしまった。動きがしなやかで素早い。この俺が避けられないなんて。

「……ん。アラ、ン」
首根っこを掴まれて顔をスリスリされる。むろん、起きてはない。
 ――ルカは小悪魔なのか。いや、寝ているときに言う言葉ではないな。

 ルカの身体能力は、高いのではないかと考えている。獣人の血が流れているので間違いない。……と、別な関係ないことを考えて気をそらす。

 ルカの顔を眺めると、俺に気を許し体を預けてスヤスヤと寝ている。
 頭を撫でると、ふにゃん……と言った。
 なんだ? この可愛いのは。

 安心しきって寝ているルカ。耳を触ると、パタパタと動く。
「お休み。ルカ」
 しっぽが、しゅるりと俺に巻き付く。俺の声は聞こえてはいるみたいだが、起きない。

 「ふっ……」
 ルカの頬にお休みのキスをして、明かりを消した。
 
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