52 / 72
4章 二つの指輪
50.甘いあまい……菓子と二人【本編 完】
しおりを挟む無事にナルン国の危機を救った、アランと騎士団の騎士達。……それと僕。
避難や自宅待機などの王命があり、多くのナルン国民が輝く結界を目にして、公表せずにいられなかった。
「ルカとアラン様と騎士団がこの国、私達を守ってくれたの!」
お肉屋さんの奥さんがここぞの時とばかり、僕とアラン様と騎士団の皆さんが、この国の危機を救った話を取引先に全部……いや、国中に広めた。すごい。
僕が半獣人と知られても、皆さん変わらず友好的なままで僕は嬉しかった。
半獣人ということで、獣人の国と和平を結ぶ【和平大使】に任命されたことで、獣人と人間の国を結ぶのにふさわしい人物だと皆さんに認められた。
認められたことで、今まで隠れて暮らしていた獣人達もやっと堂々と過ごせるようになっていくだろう。
そのために色々とこの国を、変えていかなければならない。
アランは王族に次ぐ地位を賜った。
僕は国の魔法使い協会には所属せずに、リヴァイさんとこの国を守る『特級魔法使い』の地位についた。
ぜひ国の魔法使いに、と勧誘されたがアランの猛反対にあって『特級魔法使い』の地位に落ち着いた。
職権乱用……な気もしないけど、これで良かった。
「やはり、我の伴侶にはならんのか? 息子の伴侶でも……」
「しつこいですよ、獣人の王」
獣人の王とアランのやり取りを聞いて、僕は苦笑いした。
国の危機があり、伸びてしまった獣人の子達の引き渡しと和平の儀が行われた。
「……ここに和平を結ぶ。これより今までの行いを恥て、二度と争いや差別をしないことを誓う」
ナルン国王の宣誓が響き渡ると、皆が一斉に歓声と拍手が湧き上がった。
獣人の子達が広場に集められて、獣人の国に帰ることになった。僕は和平大使なので途中まで送ることになっている。
「ルカ――! ありがとう」
獣人の子供達から、ありがとうと言われた。
「ルカ! 俺が大きくなったら、番にならないか! 好きだ――ルカ!」
抱きついてきたのは、噴水広場で助けたウサギの獣人の子だった。
「俺はウサギの獣人の王子だ! 苦労はさせないから来てくれ!」
「えっ……、と」
お腹のあたりに顔があり、見上げられて求婚された。王子様だったのか……。でもまだ小さいよね?
それに僕は……。
「嬉しいけれど、僕にはもう伴侶がいるんだ」
そう言い、指輪を見せた。
「ええ――!? そんな、残念……」
僕はウサギの王子様の頭を撫でた。
「ごめんね」
シュンとなったウサギの王子様に、持っていたお守りを渡した。
「この腕輪は、前に渡した腕輪と対になっていて、本当の番さんに渡すと相乗効果で良い加護を受けられる。これをあげるから、頑張ってね」
王子様ならこれから大変だろう。少しでも幸せが訪れますようにと、願った腕輪だ。
和平大使になったならば、いつかあのウサギの獣人の子に会えるかなと思っていたら、すぐに会えた。
コホン! と咳をして、アランが間に入りにくそうに来た。
「そろそろ出発する」
アランはウサギの王子様を、僕から優しく引き離した。
たぶん僕はこれから獣人の国の人達と、会う機会が増えていく予感がする。
和平大使になったからもあるけれど、この国と獣人の国の人達の役に立ちたい。
何台もの馬車に子供達が乗って、獣人の国へ帰っていく。僕はアランの騎馬する馬に、乗せてもらった。
国境にて獣人の人達と別れる。
無事に和平が結ばれて、ナルン国で暮らす獣人達も安心して生活できるようになるだろう。
遠くなるまで僕は、獣人さん達に手を振って見送った。
「さて。これで俺達の役目はとりあえず終わったな、ルカ」
アランが振り向いて僕に言った。
「はい……。何とか無事にやり終えました」
ホッと、息をついた。
「ニール! このあとは頼むぞ!」
「えっ!? アラン様!?」
アランは、ニールさんに馬上から伝えて馬を走らせた。
「ひゃっ!」
僕は馬に乗るのは初めてだったので、早く走らせるのはちょっと怖い。アランの腰に手を回してしがみついた。
「しっかり掴まっていろ」
そう言って全速力で馬を走らせた。僕は怖かったので、目をつぶって耐えた。
「着いたぞ」
目を開けてアランの広い背中が見えた。顔を上げて見ると、バレンシア公爵家に着いていた。
「疲れただろう? ゆっくりお茶をしよう」
アランは慣れたように馬上から降りて、僕を抱きかかえるように降ろしてくれた。
「ありがとう御座います、アラン」
アラン、と言うたびに少し照れているアランが可愛い。
「さあ、中へ」
アランが僕の手を引いてお屋敷の中に入っていった。
「お帰りなさいませ。アラン様、ルカ様!」
ズラリと並んだ、バレンシア公爵家で働く人達がいた。
「良かった……! ルカ様、無事に戻ってきて下さった」
ネネさんが泣いていた。そうか……。お城に呼び出されてから、帰れなかったから心配させてしまった。
「心配かけました。無事に戻って来れました」
僕は涙を堪えてネネさんに抱きついた。
お屋敷で働く皆さんが泣いていた。
「さあ、お疲れでしょう。アラン様の手作りのお菓子を、召し上がってくださいませ!」
ネネさんが言うと皆が頷いた。
着替えていつもの部屋でアランと、美味しいお菓子を食べる。
「無事にお屋敷に帰れて、ホッとしました……」
もう自分のお家みたい。なんて、図々しいかな?
「そう、思ってくれているのか?」
アランが立ち上がり、僕の隣に座った。
「はい。図々しいかもしれませんが、居心地がいいです」
ニコニコと笑みがこぼれた。
「それなら……。帰るなんて言わずに、ずっとこの家にいて欲しい」
両手を握られて、アランが切なそうな表情で僕に懇願した。
「僕がずっといて、いいのですか?」
いずれは、出て行かなければならないと思っていた。
「お店はそのまま続けて欲しい。ただ俺の伴侶として側にいてくれ、ルカ」
フワリと抱きしめられた。
僕はフワフワと夢のようで、抱きしめられているアランの体温を感じていた。
「……返事は? 返事をくれないか?」
はっ! と夢心地から目が覚めて、アランに返事をする。
「僕で良かったら、喜んで。よろしくお願いします、アラン」
顔を上げると、幸せそうな表情をしたアランがいた。
「ルカ……!」
またギュッと抱きしめられた。ちょっと痛い。
「駄目だと言っても、引き止めたけどな」
顔を僕の肩に埋めて言った。
ふふ……と僕は、嬉しくて笑った。
「それに。この部屋は、バレンシア公爵家当主の伴侶の部屋だ」
しれっとアランは言った。客室にしては、居心地の良い部屋だと思っていた。
「アラン」
ん? とアランは顔を上げた。
そっと僕はアランの唇に僕の唇を重ねた。
「甘い……」
アランは優しい瞳で言った。
「アランの美味しいお菓子を、食べましたからね」
僕がそう言うとアランは微笑んだ。
「もう一回、食べたい」
親指で唇を触られた。
「柔らかい、な」
アランの唇も甘い味がした。
157
お気に入りに追加
2,733
あなたにおすすめの小説
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
眠り姫
虹月
BL
そんな眠り姫を起こす王子様は、僕じゃない。
ただ眠ることが好きな凛月は、四月から全寮制の名門男子校、天彗学園に入学することになる。そこで待ち受けていたのは、色々な問題を抱えた男子生徒達。そんな男子生徒と関わり合い、凛月が与え、与えられたものとは――。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる