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4章 二つの指輪

50.甘いあまい……菓子と二人【本編 完】

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 無事にナルン国の危機を救った、アランと騎士団の騎士達。……それと僕。

 避難や自宅待機などの王命があり、多くのナルン国民が輝く結界を目にして、公表せずにいられなかった。
 
「ルカとアラン様と騎士団がこの国、私達を守ってくれたの!」
 お肉屋さんの奥さんがここぞの時とばかり、僕とアラン様と騎士団の皆さんが、この国の危機を救った話を取引先に全部……いや、国中に広めた。すごい。

 僕が半獣人と知られても、皆さん変わらず友好的なままで僕は嬉しかった。
 半獣人ということで、獣人の国と和平を結ぶ【和平大使】に任命されたことで、獣人と人間の国を結ぶのにふさわしい人物だと皆さんに認められた。

 認められたことで、今まで隠れて暮らしていた獣人達もやっと堂々と過ごせるようになっていくだろう。
 そのために色々とこの国を、変えていかなければならない。

 アランは王族に次ぐ地位を賜った。
僕は国の魔法使い協会には所属せずに、リヴァイさんとこの国を守る『特級魔法使い』の地位についた。
 ぜひ国の魔法使いに、と勧誘されたがアランの猛反対にあって『特級魔法使い』の地位に落ち着いた。
 職権乱用……な気もしないけど、これで良かった。

「やはり、我の伴侶にはならんのか? 息子の伴侶でも……」
「しつこいですよ、獣人の王」
 獣人の王とアランのやり取りを聞いて、僕は苦笑いした。


 国の危機があり、伸びてしまった獣人の子達の引き渡しと和平の儀が行われた。

「……ここに和平を結ぶ。これより今までの行いを恥て、二度と争いや差別をしないことを誓う」
 ナルン国王の宣誓が響き渡ると、皆が一斉に歓声と拍手が湧き上がった。

 獣人の子達が広場に集められて、獣人の国に帰ることになった。僕は和平大使なので途中まで送ることになっている。
「ルカ――! ありがとう」
 獣人の子供達から、ありがとうと言われた。
 
「ルカ! 俺が大きくなったら、つがいにならないか! 好きだ――ルカ!」
 抱きついてきたのは、噴水広場で助けたウサギの獣人の子だった。
「俺はウサギの獣人の王子だ! 苦労はさせないから来てくれ!」

「えっ……、と」
お腹のあたりに顔があり、見上げられて求婚された。王子様だったのか……。でもまだ小さいよね?
 それに僕は……。
「嬉しいけれど、僕にはもう伴侶がいるんだ」
 そう言い、指輪を見せた。

「ええ――!? そんな、残念……」
僕はウサギの王子様の頭を撫でた。
「ごめんね」
 シュンとなったウサギの王子様に、持っていたお守りを渡した。

「この腕輪は、前に渡した腕輪と対になっていて、本当のつがいさんに渡すと相乗効果で良い加護を受けられる。これをあげるから、頑張ってね」
 王子様ならこれから大変だろう。少しでも幸せが訪れますようにと、願った腕輪だ。
 
 和平大使になったならば、いつかあのウサギの獣人の子に会えるかなと思っていたら、すぐに会えた。

 コホン! と咳をして、アランが間に入りにくそうに来た。
「そろそろ出発する」
アランはウサギの王子様を、僕から優しく引き離した。

 たぶん僕はこれから獣人の国の人達と、会う機会が増えていく予感がする。
 和平大使になったからもあるけれど、この国と獣人の国の人達の役に立ちたい。

 何台もの馬車に子供達が乗って、獣人の国へ帰っていく。僕はアランの騎馬する馬に、乗せてもらった。

 国境にて獣人の人達と別れる。
無事に和平が結ばれて、ナルン国で暮らす獣人達も安心して生活できるようになるだろう。

 遠くなるまで僕は、獣人さん達に手を振って見送った。
「さて。これで俺達の役目はとりあえず終わったな、ルカ」
 アランが振り向いて僕に言った。
「はい……。何とか無事にやり終えました」
 ホッと、息をついた。

「ニール! このあとは頼むぞ!」
「えっ!? アラン様!?」
 アランは、ニールさんに馬上から伝えて馬を走らせた。

「ひゃっ!」
僕は馬に乗るのは初めてだったので、早く走らせるのはちょっと怖い。アランの腰に手を回してしがみついた。
「しっかり掴まっていろ」
 そう言って全速力で馬を走らせた。僕は怖かったので、目をつぶって耐えた。
 
「着いたぞ」
 目を開けてアランの広い背中が見えた。顔を上げて見ると、バレンシア公爵家に着いていた。

「疲れただろう? ゆっくりお茶をしよう」
 アランは慣れたように馬上から降りて、僕を抱きかかえるように降ろしてくれた。
「ありがとう御座います、アラン」

 アラン、と言うたびに少し照れているアランが可愛い。

「さあ、中へ」
アランが僕の手を引いてお屋敷の中に入っていった。
「お帰りなさいませ。アラン様、ルカ様!」
ズラリと並んだ、バレンシア公爵家で働く人達がいた。
 
「良かった……! ルカ様、無事に戻ってきて下さった」
 ネネさんが泣いていた。そうか……。お城に呼び出されてから、帰れなかったから心配させてしまった。

「心配かけました。無事に戻って来れました」
僕は涙を堪えてネネさんに抱きついた。
 お屋敷で働く皆さんが泣いていた。
「さあ、お疲れでしょう。アラン様の手作りのお菓子を、召し上がってくださいませ!」
ネネさんが言うと皆が頷いた。

 着替えていつもの部屋でアランと、美味しいお菓子を食べる。
「無事にお屋敷に帰れて、ホッとしました……」
 もう自分のお家みたい。なんて、図々しいかな?

「そう、思ってくれているのか?」
アランが立ち上がり、僕の隣に座った。
「はい。図々しいかもしれませんが、居心地がいいです」
 ニコニコと笑みがこぼれた。

「それなら……。帰るなんて言わずに、ずっとこの家にいて欲しい」
 両手を握られて、アランが切なそうな表情で僕に懇願した。
「僕がずっといて、いいのですか?」
 いずれは、出て行かなければならないと思っていた。

「お店はそのまま続けて欲しい。ただ俺の伴侶として側にいてくれ、ルカ」
 フワリと抱きしめられた。
僕はフワフワと夢のようで、抱きしめられているアランの体温を感じていた。

「……返事は? 返事をくれないか?」
はっ! と夢心地から目が覚めて、アランに返事をする。
「僕で良かったら、喜んで。よろしくお願いします、アラン」

 顔を上げると、幸せそうな表情をしたアランがいた。
「ルカ……!」
 またギュッと抱きしめられた。ちょっと痛い。
「駄目だと言っても、引き止めたけどな」
 顔を僕の肩に埋めて言った。

 ふふ……と僕は、嬉しくて笑った。
「それに。この部屋は、バレンシア公爵家当主の伴侶の部屋だ」
 しれっとアランは言った。客室にしては、居心地の良い部屋だと思っていた。

「アラン」
ん? とアランは顔を上げた。
 そっと僕はアランの唇に僕の唇を重ねた。

「甘い……」
アランは優しい瞳で言った。
「アランの美味しいお菓子を、食べましたからね」
僕がそう言うとアランは微笑んだ。

「もう一回、食べたい」
親指で唇を触られた。
「柔らかい、な」

 アランの唇も甘い味がした。

          
 
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