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4章 二つの指輪

47.和平大使と獣人王の伴侶

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  なぜトラの獣人さんが?
僕はゴクリと息を飲んだ。

 植物園で会ったのは数分だった。だけど只者じゃない風格を感じた。何者だろう。

「そなたは、ルカ……という名か?」
王が僕に自己紹介せよ、と促した。
 
「はい。ルカと申します。王都 中央区にて『猫の目』というアクセサリー屋を営んでおります」

「おお! あの『猫の目』か! 評判の良いアクセサリー屋と聞いておる。平民用のお守りから、騎士達もそなたの加護品を愛用しているとか。加護もそうだが、繊細な細工も素晴らしいと耳に入っておるぞ」
 王は興奮気味に、僕の仕事を褒めて下さった。王様に、お褒めの言葉をもらえるなんて嬉しい。

「ありがとう御座います! 光栄です……」
僕は王様にお辞儀をした。昔、母に習った貴族のお辞儀だ。

「ふむ……。そなたはどことなく気品がある。それに昔、社交界の白百合と呼ばれた、シャーロットと言う女性に似ている」
 僕は微動だにしなかった、自分を褒めたい。

 シャーロットは母の名だ。
別人かもしれないが、母は白百合の花が好きだった。白百合の髪留めをいつもしていた。それだけでは母だと、言えないけれど。

「いや、気のせいだ。忘れてくれ」
ふう……と、王様はため息をついた。王様の心のうちはわからないけれど、母かもしれない名前を聞いたのは嬉しい。

「ルカ、単刀直入に言おうか。話というのは、そなたに獣人の国と和平を結ぶ、架け橋になって欲しい」
 和平を結ぶ架け橋に、僕が? どういうことだろう……。

「まさか」
ニールさんが小声で呟く。って?
 だんだん不安になっていく。

「ルカには、この国の【和平大使】になって欲しい」
「和平、大使でしょうか?」
王様が頷いた。ジッと王様の顔を見ると、アラン様と同じくらいの年齢で、またアラン様と違った貫禄ある御方だった。

 そういえばトラの獣人さんも、似たような雰囲気があるのは気のせいだろうか。

「そういえば紹介が遅れたな。こちらのトラの獣人殿は、獣人国を統べる獣人王だ」
謁見の間に集まる、臣下や貴族達には紹介済みだったらしい。特に騒がず、静かに見守っていた。

 やはり只者じゃなかった! 獣人国の王様だったなんて。アラン様のあの時の態度は、大丈夫だったのかな? 心配になる。
 
 中には獣人に対してあまり良く思ってない貴族もいるだろうが、この場は静観しているらしい。
 和平が結ばれる。
そんな場に呼ばれたのが僕なのは、意味があるのだろうか。

「人間の国の王、発言してもいいか?」
玉座の隣に座っていた獣人の国の王が、話しを始めて良いかと聞いた。
「よかろう」

 獣人の国の王は、この間会ったときと違って獣人の国の正装をしていた。
 見ても分かる高級な布を、斜めに巻き付けたような服装に金の装飾品をたくさん身に着けていて豪華だ。
 その人物が、椅子から立ち上がり僕の方へ歩いてきた。

 トラの獣人の王様は、ひざまついている僕の前で立ち止まった。
「立て」
 僕の腕を掴んで、立たせた。

 何だろう。怖い。
肉食獣……というと怒られるかもしれないが、圧倒的な強弱に対しての本能的なものだろうか。腕を掴まれたまま、獣人の国の王を凝視した。

「ルカ、お前は獣人だな」
「!?」

 ざわ……! と謁見の間にいる人達が驚いていた。
ひざまついているニールさんは、獣人の王に驚いて僕と獣人の王を見上げていた。

 獣人は、獣人なかまがわかるのだろうか?
皆がいる前、まして王がいる前では嘘はつけない。

「……その通りです」
隠していた正体が、こんな場で言わなければならないなんて……。
「うっ!」
「ルカ君!」
 
 獣人の王に腕を掴まれたまま、吊り上げられた。ニールさんが僕を庇おうとしたので、顔を左右に振ってとめる。

「うむ。なかなかの美形だ。和平のために我の伴侶になれ」
 近い。腕を掴まれて、吊り上げられての王の言葉に目を見開いた。
「綺麗な緑色の瞳だ。気に入った」

「失礼します!」
ニールさんの声が聞こえて、後ろから腕とお腹を掴まれて獣人の王から離された。
「無礼を承知でお話いたします! 和平は、婚姻関係を結ばなければ成り立たないのですか!」
 
「ニールさん!」
僕はニールさんの前にかばい出て、人間の王を睨んだ。
「いきなり呼び出されて。理由も聞かされず和平大使になれ、獣人の王の伴侶になれと言われても無理です!」

 謁見の間はシーンと静かになった。
不敬だけど、僕の意思も聞かず横暴だ。和平大使ならまだしも、会ったばかりの獣人ひとにいきなり伴侶になれって、許せない。

「ほう? お前、可愛い顔をしてなかなか気が強いな」
ニヤニヤして僕に言ったので、ムッ! とした。
「お前じゃないです! ルカという名です!」
ニールさんが僕の肩を掴んだ。振り向くとニールさんが顔を左右に振った。
 あ……。言い過ぎた。どうしよう。

「そのくらいの気の強さがあれば、獣人の国で伴侶としてやっていけそうだな」
 
「伴侶だと!?」

いないはずの人の声が、聞こえた。
 静かな謁見の間に声は響いて僕は、その声の人物を探した。

 声を出す前に立ち上がり、走り出した。
僕は誰も目に入らず、その人の胸に飛び込んだ。
僕を包む、大きな体。
 少し高い体温と、安心する香り。
 「アラン……!」
「ルカ」


 僕はアランに強く抱きついた。
 

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