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4章 二つの指輪

42.ルカからアラン様に思慕のキス

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「すまんな、ルカ。まさかあそこで偶然、出会うなんて想定外だった」
 アラン様は、すまなさそうに僕に謝ってくれた。

「いえ……。親しい方なのですか?」
話し方も違っていて、親しげだった。
 でも獣人さんだったけど、いつ知り合ったのだろう。
「ああ……。以前ちょっと、な」
 僕の知らないアラン様はたくさんある。仕方がないことだけど、寂しい。

「ここではなく、違う場所に行こう」
「はい」
 ドーム状の植物園を出て二人、黙って歩いていた。僕はさっき会った獣人さんが気になっていて、アラン様は何を考えているのだろう?

「アラン様。僕はどんな場所でも一緒に居られれば、それで嬉しいですから。その……」
 言いたいことがある。言っていいかな?
「なんだ? ルカ」
 立ち止まって、僕の言葉を待っている。

「さっき会った獣人さんに、嫉妬してしまいました」アラン様を見上げてジッと見る。トラの獣人さんはアラン様に会いたかったと、言っていた。親しげに握手とかしていたし、獣人さんは抱きつきたい感じだった。

「……嫉妬? 誰に? アイツに?」
 アラン様は信じられないような顔をした。
「わからないが、嫉妬するまでもない。俺は、ルカだけだ。信じて欲しい」

 ギュッと手を握られた。温かくて大きな手だ。
「すみません! 恥ずかしい、嫉妬なんて……。アラン様を信じますね!」
 こんな感情は初めてだ。

「あそこ! あそこで、お昼ご飯にしましょう!」
僕は恥ずかしさを、アラン様の手を引いて忘れようとした。

 地面に厚めの布を敷いて、その上に座った。
周りはたくさんの花が咲いていた。ネネさんが持たせてくれたピクニックバスケットを開けてみると、中に美味しそうなサンドウィッチやサラダなどが入っていた。

 お手拭きで手を拭いて、お皿等を並べた。
「あ! アラン様のネコのクッキーが入っている」
 僕は一番初めに、アラン様の作ったクッキーを手に取った。
「食べてもいいですか?」
 このクッキー大好き。

「サンドウィッチから食べようか、ルカ」
「えっ」
 クッキーの端と端を両手の指で持って、シュン……となった。

「ああ、いや。好きに食べようか。どうぞ」
アラン様が許してくれた。さっそく食べる。
「ありがとう、アラン様。いただきます!」
 パクっと一口かじる。

「美味しいです、アラン様」
「そうか。よかった。他のも食べようか」
 はい、と返事をしてクッキーを食べた。

 パクパクとクッキーを食べて、アラン様と景色を眺める。
 花がたくさん咲いていて、アラン様が僕を見ている。
「……孤児院に置いて行かれたとき、しばらくご飯が食べれなかったんです」
 僕が話すと驚いた顔をした。

「色々重なって、悲しいを通り越して何も感じられなくて」
「……」
 調査書を見て、僕の経緯いきさつを知っているだろう。
「そんなときに、ある人が孤児院に差し入れをしてくれたのです」

 僕はアラン様の作った、ネコの顔の形のクッキーを掲げた。

「騎士アラン•バレンシア様からのお菓子の差し入れ」

 青空と花畑とアラン様とネコの顔のクッキー。
一見何も関係なさそうな、この僕が見ている景色を写し取ることが出来たら良いのに。

「きっと色々な孤児院に差し入れをしてくれたと思いますが、僕はそのアラン様が差し入れしてくれたネコの顔のクッキーで救われたのです」
 アラン様は驚いた顔のまま、僕の話を聞いている。

 風が気持ち良い……。
「少しですが、食事を摂れるようになれました。それに白黒だった暗い世界が、また鮮やかに見ることができました」
 僕はこの人に感謝している。感謝……という言葉では言い表せられない。

「ありがとう御座います。アラン様」
僕は幸せだ。
「ルカ」
 僕を引き寄せて、抱きしめてくれた。

 キュッと大きな腕で包んでくれる。
「僕はもう、小さな子供ではないです。アラン様と、たくさんの人に支えられて生きてきました」
 アラン様は僕の肩に顔をうずめている。

「だから今度は、僕がアラン様を幸せにしたいです」 
アラン様の背中に、腕をまわして僕も抱きしめた。

「ルカ、君は……」
「はい? なんでしょう、アラン様」
 肩に顔を埋めたまま、僕に話しかけた。
 
「思ってたより大人で、そしてかっこいいな」

「えっ? 僕がかっこいいなんて、言われたのは初めてかも。嬉しい」
 そっと、いつもと反対に僕がアラン様の頭を撫でた。そしてまた逆に、僕からアラン様の髪の毛にキスをした。
しばらくアラン様は僕の肩に顔を埋めていた。

 
 それからお昼ご飯を食べた。
ローストビーフとレタスと炒めた玉ねぎを挟んだパンや卵のサンドウィッチ。焼いたベーコンを細切れにして入れたポテトサラダは美味しい。
 果物はカットして、一口サイズで串に刺してあって食べやすかった。

 アラン様はコーヒーを飲んで、僕はアップルティー。みんな美味しかった。残さず美味しくいただきました。

「風が出てきたな」
食べ終わり、片付けをしていた。だんだん曇ってきて風が吹いてきた。

「雨が降らないといいですね」
ピクニックバスケットにお皿等をしまいながら話しかける。
「嵐の前だろうか」

 アラン様は地面に敷いていた布の端を持ち、フワリと宙に広げてから素早く畳んだ。凄い。
「アラン様は器用に、なんでも出来て羨ましいです」
お菓子を作るのも上手だし。

「あ!」
そうだ。あのことを話してみようかな?
「何か、あるのか?」
片付けの手をいったんとめて、話しをしてみる。 

「僕の家の修理の話ですが、思い切って大きくしようかなと思いまして……!」
 
 アラン様の動きがとまって、僕を見ていた。 

 
 
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