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4章 二つの指輪
38.耳と背中としっぽ
しおりを挟む僕は家の修理が終わるまで、このままアラン様のお屋敷にお世話になることにした。
「ルカ様が、ホコリまみれ傷だらけ……! なんてこと! それに、前髪が酷いことに! アラン様、どういうことですか!?」
アラン様と一緒にお屋敷に帰ると、ネネさんやメイドさん達が僕に駆け寄ってきた。
「すまん。とにかくルカは、先にお風呂に。ケガの手当をしたい」
「ケガ?」
ケガなんてしてたかな?
「膝をすりむいているし、あちこちに擦り傷がある。手当をしなければ」
「あ……」
今頃、あちこちが痛くなってきた。
「すぐにお風呂の用意をいたします!」
パタパタと、せわしなくメイドさん達が準備をし始めた。
「さあ、部屋に行こう」
アラン様に促されて部屋に向かう。
兄様がいなくなってしまった、あのあと。
騒ぎを聞きつけたご近所さんが、見回っていた騎士さんに知らせてくれていた。
連絡を受けたニールさんが駆けつけてくれて、事情を話した。
僕の実の父親はもう逃げることはできず、裁かれることになった。他に余罪があるので、重い裁きが下されることになるだろうと話をしてくれた。
「……いつ言うか、迷っていたのだが」
部屋に着いてソファに座り、お茶を頂いていたときにアラン様から伝えられた。
「ルカの戸籍は、父君と関係がなくなっていた。つまり……、ルカリオンは、いない者とした手続きがされていた」
やっぱり……。
「たぶん、そうなのかなと思ってました」
孤児院に置いて行かれたときに、そんな気がした。
家名に傷がつくのを許せなかったようだった。
だけど母だけは愛していたと、母に会いに来る父を見て子供心にそう思っていた。
なので、きっと……母を傷つけてしまった罪悪感に耐えられずルカリオンに、怒りの矛先を向けたのかなと思った。……憶測だけど。
だからと言って許されない。
「さ、お風呂を用意できましたのでどうぞ。お二人で入られますか?」
ネネさんが、お風呂を用意してくれて伝えにきてくれた。え……、お二人で?
「ルカ、ケガは大丈夫か? 一人で入れるか?」
アラン様が少し動揺して、お茶をこぼした。
「あ……。大丈夫、です」
僕もテーブルを拭くのを手伝った。拭きながらドキドキしてしまった。
「そうか。風呂から出たら、ケガの手当をしよう」
アラン様はテーブルを拭きながら、僕に言った。ネネさんに布を渡しながら、スマンと謝っていた。
「では、お借りしますね」
僕はアラン様のお屋敷の、このお風呂が好きだ。
汚れを流して体を洗っていると、知らぬ間にあちこち傷を負ったのか痛みがあった。
ザッと洗ってお風呂から出ると、アラン様がソファに座ったまま手招きした。
「傷を手当しよう」
「……はい。お願いします」
痛そうで、ちょっと返事が遅れた。
「膝の部分をめくってくれ」
言われた通りに、寝間着のズボンの裾をめくる。
テーブルの上には、ガーゼや消毒液などが並べられていた。アラン様はしっかりと手当する気だ。
「アラン様。放って置けば治りますから、大丈夫です」
お湯できれいに汚れは流したし、すぐ治ると思うし。
「駄目だ。キチンと手当しておかないといけない」
キリリ! と迷いのない目で見られて、これ以上断れない。
「はい……」
傷に効く薬草をガーゼに塗りつけて、そっと擦りむいていた膝のすり傷に塗る。
「あっ……っ!」
しみた。痛い。
「痛いだろうが、少し我慢だ。ルカ」
優しく塗ってくれているけど、痛い。
「……ゔ!」
「痛いな。もう少しだ」
痛みをこらえて涙目になる。痛みは苦手……。
両膝のすり傷をガーゼで押さえて、他の軽いすり傷を手当した。
「よく我慢したな。あとは……」
アラン様が他のすり傷に、塗り薬をつけようとしたので慌てて話しかけた。
「あっ! すり傷はもう大丈夫ですから、背中を見てもらっていいですか!」
背中は兄様に踏みつけられたので、多少アザにはなっているだろうけど薬を塗るほどで無いだろう。
僕は寝間着の上を脱いで、アラン様に背中を向けた。
「ルカ」
「あっ……」
アラン様の指先が、背中に触れた。
ピクン! と体が跳ねた。後ろを向いていて見えないので、よけいに意識をしてしまう。
「アラン、様……」
アラン様の指が、上から腰までツツッ……と肌を滑った。
「んっ!」
いけない。変な声が出てしまった。
「これは、兄がやったのか?」
硬く、低い底冷えするような声で囁かれた。
「あっ、つ! そう……、です」
自分が思っているより踏まれた背中は、酷いかもしれない。アラン様の静かな怒りを感じる。
でも痛みがある場所を避けて、その周りを指先でなぞっている。
「アラン様……。なぞるのは、やめて」
変な声が出てしまう。アラン様はやめてくれない。
「まだ、首にできたアザも治ってないのに。許し難い」
「アザになってますか? あ。っ……ぅん」
背中に柔らかい感触。アラン様の唇?
「アラン様?」
「……耳としっぽが出てる」
あ! アラン様と一緒にいて安心するのと、痛みで制御できてなかった。
「しっぽを触っても?」
後ろから声をかけられる。耳がピクピクと反応してしまう。
「え、ええっ!? しっぽ、は……。家族や伴侶、恋人同士しか触らせていけないのですが……」
「俺は恋人じゃないのか?」
あ。しまった。
「お互いに『好き』と言った者達は、恋人になると思うが……違うのか? ルカ」
アラン様は後ろから覆い被さるように、僕を抱きしめる。
「違く、ないです。先だけなら、触ってもいいです、よ……」
「いいのか?」
はい。と言うとアラン様は僕か離れて、しっぽの先を手のひらにすくい取った。
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