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4章 二つの指輪
36.過去との決別と告白
しおりを挟む「俺と来てくれ。そうすれば刑が軽くなる」
アラン様が兄様に話しかける。
リオネス兄様は、片方の腕を掴んだまま下を見ている。
「兄様、怪我の手当をしよう? 一緒に行こう?」
僕は兄様に魔法を使ってしまった。加減ができなくて兄様に怪我をさせた。
「相変わらず、攻撃系魔法は加減が出来ないのだな」
ふ……、と兄様は顔を歪ませた。
「でも私より、魔法威力は上だ。何もかも、お前に敵わなかった」
話し終えて、指を下側に向けた。
「……ぇ、よ」
「えっ!? アラン様、伏せて!」
リオネス兄様は、僕達と兄様の間に衝撃波を床に叩きつけた。
バン!
「くっ……! 凄い威力だ! 土煙が舞う……」
なぜ僕達に向けて、魔法を撃たなかったのだろう?
腕でほこりを防御した。
「あっ! 兄様、待って!」
「……もう二度と合わない」
リオネス兄様は片手をかばうようにして、壊れた勝手口から出て行ってしまった。
「リオネス兄様!」
土煙が、兄様の姿を隠していく。
たった一人の兄弟だったのに……。
僕は溢れる涙がとまらなかった。
「ルカ……。こんなに痛めつけられて」
アラン様が僕の頬を優しく両手で掴んだ。僕は床にペタンと座っていた。
「アラ、ン様」
ポタポタと流れる涙を、アラン様はハンカチで拭いてくれたけれど、とまらない。
「俺は15歳の、新人騎士の時。後悔したことがあった」
アラン様は悲痛な表情で、僕に話しかけてきた。ハンカチで涙を拭いてくれている。
「初任務で、さらわれた子供達を騎士団の皆で救出した。俺は、偶然見つけたルカを助けた」
他にもさらわれた子供達がいた……?
「そして最重要救出人を要請した、依頼主の屋敷に行くと君の両親がいた」
頬をさする、アラン様の大きな手のひら。
「え……。アラン様が、両親と会っていたなんて、知らない」
「ルカは俺の腕に抱かれて、気を失っていたからな」
アラン様の瞳を見て、話の続きを待つ。
「当時、急に代わった団長と副団長。そいつらは貴族の都合のよいように仕事をして、金をもらっていた」
賃金は国から出ているはず。……それは。
「賄賂とかだな。腐りきった騎士団に15の俺は、何も出来なかった。しようとしたら脅された」
「正確には、君を助けられなかったんだ」
アラン様は悲痛な顔をして、僕をまっすぐ見ている。
「だから俺はそのあと無我夢中で鍛錬して、手柄をあげ力をつけて、腐りきった騎士団を一掃した。何年もかかった」
アラン様が異例の早さで、騎士団団長になったのは話題になった。
「英雄騎士と呼ばれる男は。情けないことに15歳のときに救えなかった子供を、次は必ず助けるために我武者羅に戦ってきた男なんだ」
アラン様は僕から目を反らさず、話をしてくれた。
「情けないなんて、思いません! 15歳のアラン様にさらわれた場所から助けてもらって、売られずに済んだのですから……!」
またポタポタと涙が溢れる。
「みんなのために、傷だらけになって戦って平和になったのに、そんなことを言わないで下さい……」
僕は知っている。先陣を切って敵に向かって行ったということを。
「仲間をかばい、幾度も傷ついたと、お城の騎士さん達に聞きました……」
もう涙がとまらない。
「僕を助けてくれました……。もう3度も、助けてもらいました。ありがとう、御座います」
わっ……! と泣き声をあげて、アラン様の胸に飛び込んた。
「ルカ……」
アラン様は僕を、大きな腕と体で抱きしめてくれた。
少し高い体温と、薫り高いムスクのような香り。安心する……。
「……10も年が上だが」
「10? はい?」
僕はアラン様が話しかけたので、顔を上げた。アラン様は今年28歳のはず。僕より10歳、年上だけど?
ジッと僕の瞳を見て話す、アラン様。
「ルカが好きだ」
……え? るかがすきだ。ルカが好きだ?
「僕が、好き……!?」
まちがい、なんだろうか。アラン様が僕を好きと言った?
「そうだ。ルカが好きだ」
迷いのない、告白。まっすぐに伝えてくれた。僕はボロボロ涙をこぼした。
土煙がおさまり、部屋の中はぐちゃぐちゃだろう。でも構わず、お互いに目を合わせていた。
「……ルカは、誰か他に好きな人がいるのか?」
僕はあまりにも、驚きすぎて返事をしてなかった。アラン様は僕の返事を待っている。
「いません! アラン様が一番、好きです!」
かぁぁぁぁ! と顔が真っ赤になった。本人に言ってしまった。
「そうか。良かった」
アラン様はそう言って、僕の頭を撫でた。
「なぜこんなに髪の毛が切られている? あの男にやられたのか?」
ギッ! とアラン様は奥歯を噛み締めたのが分かった。
「ち、違います。前髪を掴まれてしまったので、自分で切りました……わっ!」
ぼふっ! と、アラン様の胸に抱き込まれた。鍛えたアラン様の胸板は厚い。
大きな手のひらで頭を撫でて、短くなった前髪にチュッとキスをした。
わ……。前髪にキスされた。僕はアラン様の胸に顔を埋めながら真っ赤になっていた。
「前髪は切ってそろえよう。ああでも、その緑の綺麗な瞳が見れるのは嬉しい」
そっと背中に両腕をまわしてギュッと力を入れた。アラン様の体温と呼吸を、近くに感じて嬉しかった。
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