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3章 二人の過去と今と未来へ

34.サンキャッチャー(注意 暴力&暴言の表現あり)

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 ――注意――
 暴力&暴言の表現あります。
 苦手な方はご注意してください。
 ――――――――

  
 「アラン様、準備は出来ました。お待たせしました」

 お借りしている部屋から出て、玄関までの階段を急いで降りていった。アラン様のお屋敷でお世話になってから今日は、自分の家に帰る日。アラン様を待たせてしまった。
 
「1日だけだ。まだ黒幕は捕まってない。君は、最重要保護人だ」
 アラン様は厳しく、僕に話しかけてきた。事件に関係した僕は命を狙われている。

 僕が分かっていることを話せればいいのだけれど、口封じの魔法がかかっていて話せない。
 また子供達がさらわれることがないように、街は厳戒態勢中だ。

 このまま何もないといいけれど……。

「さあ行こう」
アラン様が先に馬車に乗って僕の手を取り、さり気なくリードしてくれる。
「はい」

 馬車が進んで行くと商店街が見えてくる。そんなに日にちが過ぎていないのに、懐かしく思うのはなぜだろう。
家の近くに馬車がとまり、馬車から降りた。
 
「あら! ルカ、帰ってきたのね!」
大きな商店の奥様が、家の前にとまった馬車に気がついて走ってきた。
「うちの子と、他にさらわれた子供達を助けてくれてありがとう!」
 奥様は僕の手を握って、涙目でお礼を言ってきた。

「騎士様に聞いたら、ケガをしてアラン様のお屋敷で静養してると聞いたわ! もう大丈夫なの?」
僕とアラン様に気がついた商店街の人達が、集まってきた。
  
 『ケガをして、アラン様のお屋敷で静養』そういうことになっているのか。
「はい。まだ痛みはありますけど、大丈夫です」
 これは本当だ。僕が返事をすると商店街の皆は心配してくれた。
「ありがとうね」
「まあ……なんてこと!」
「ゆっくり静養してね」等
温かい言葉をかけてくれた。
 
「これからルカは、家に一時的に帰ってまた屋敷に戻ります」
 アラン様は商店街の皆にはっきりと言った。またアラン様のお屋敷に戻っていいの?

「じゃあ、お大事にね! 本当にありがとう!」
「はい。ありがとう御座います」
 商店の奥様はお礼を言って帰って行った。商店街の皆さんも仕事があるので、僕に労いを言って帰って行った。

 自分の家の入口、お店の出入り口の前に立った。
「……アラン様。すみませんが、ここで待っていてもらえませんか?」
 アラン様を店の外に立たせるのは申し訳ないが、僕は違和感を感じていた。
「あ、ああ。分かった。外で待っている」
「すみません」

 鍵はかかっていたので、解錠して扉を開ける。
「手伝うことがあったら、呼んでくれ」
アラン様の優しさが胸に刺さる。
「はい」
 無理やり口の端を上げて、笑う。

 僕は、お店の中に結界が何者かに壊された中に入っていった。

 お店の中を見渡したけど、特に変化はなかった。
いや……。飾ってあった、サンキャッチャーが粉々に砕けている。何かの拍子に落ちて壊れたのじゃない。
 踏み潰したような不自然な潰れ方をしていた。

 僕はそれの破片を拾ってリビングへ進む。お店の窓からアラン様の後ろ姿が見えた。


 自分の家なのに。まるで違う人の家の中を歩いているような気がした。

 リビングに着くと、ぐじゃぐじゃになった室内が目に入った。
泥棒……金目のものを探したというより、目についたものを投げたり払ったりして、部屋を荒らす目的だけなのが分かった。

 奥にある勝手口が破壊されているのが見えた。結界を解き、勝手口を壊して中に入ってきた人物は……。

「やっと帰ってきたのか……」
 キッチンからリンゴをかじって現れた、黒いローブの男。
「◯◯◯◯! ゔっ! ああぁ!」
 その名を言おうとすると、全身に痛みが走った。

 痛みのため、床に膝をついて体を丸めた。
「ううっ……」
「ははっ! 愉快だな」
黒いローブの男はかじっていたリンゴをポイと放り投げ、僕に近づく。

「貴族に飼われてるらしいな? 貴様に似合いだ」
「あうっ!」
長い前髪を掴まれて、上を向かされる。はっきりと黒いローブの男の顔が見える。

「はっ! 父親に切られた傷が、まだ醜く残っているな……」
「い、痛い。やめ……」
 グイッとさらに引っ張られた。

 散らかったリビング。ほんの数日前は綺麗に掃除をしていたのに。
「ふん! 耳としっぽは出さないのか!」
 ぐいっ! と強く引かれて痛い。

「弱い。半獣人の半端者。獣人は消えればいい」
僕に罵詈雑言を浴びせ続ける。そんなに僕を、獣人を嫌うのか。
 悲しい。
いつからか悪口だけじゃなく、暴力も振るわれていた。

 罵詈雑言に耳を塞ぎ隠し、暴力にはしっぽを丸めてしまって耐えてきた。
 見た目や生活、信じるものが違うだけで同じ生き物なのに。

「鳴けよ。獣のように!」
「うっ!」
 お腹を蹴られた……。とっさに避けたので致命傷にはなっていない。

「弱虫」
弱虫? 小さい頃は身を守るすべが無かった。
 ――でも今は?
 僕はもう、小さい子じゃない。

「離し、て!」
「うわっ!」
 僕は腕を大きく振って、サンキャッチャーのガラスの破片で前髪を切った。

 黒いローブの男の手は前髪ごと離れて、男は、よろけた。

 リビングの観賞植物のある窓へ、持っていたサンキャッチャーのガラスの破片を思いっきり投げた。
 ガッシャーン!
 窓ガラスは、派手に割れた。

「アラン様! 黒ローブの男が! ああっ!」
背中に衝撃が走った。
「悪い子だね……ルカ」
 背中を足で蹴られて、倒されてしまった。

 ギリリと背中を踏みしめられた。

 
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