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3章 二人の過去と今と未来へ

32.手を握って

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 僕が魔法を使ったことは言われなかったし、驚いた感じもなかったので、そのままニールさんの話を聞いていた。

「……と、子供達の話では連れ去った大人の他に、世話をしていた女性と貴族風の男がいたと聞きました」
子供達から聞いた事件の話を僕が体験したことと照らし合わせをしていた。
「はい。僕も、子供達を世話をしてくれていた女性のことは聞きました」

「貴族風の男はすでに牢獄に入ってます。世話をしていた女性には、詳しい話を聞いています」
「そうですか……」
 貴族風の男は、僕と同じ魔法をかけられてしまったから黒幕のことを言えない。解除は無理だろうか。

「そして。アラン様から聞きましたが、貴族風の男とルカ君に黒いローブの男性が口封じの魔法をかけた……と」
あの人の事を考えると、ピリッ! と体に痛みが走った。

 僕は痛みをこらえて目をつむり、頷いた。
「ニール。それ以上は、駄目だ」
 隣に座っていたアラン様がニールさんを制止した。椅子の端をギュッと掴んでいた僕の手を、上から握ってくれた。

 「すみません。確認できましたので、もうやめます。ありがとう御座います」
 ニールさんがニコリと笑った。

「ルカ、大丈夫か?」
 手をそっと握りながらアラン様は、僕を気遣ってくれている。
「はい。大丈夫です」
 僕が微笑み返すとアラン様も笑ってくれた。皆は気づきにくいけれど、笑うと目が細くなって可愛い。

「……アラン様、もしかして笑ってますか? いつも眼光が鋭くて怖いですけど、少しだけ目尻が下がってます」
 ニールさんがびっくりして、失礼なことをアラン様に言っている。

「失礼なヤツだな」
アラン様はニールさんを睨んだ。怖い。
「怖っ! すみません。あっ、……口封じの魔法ですが、貴族風の男の魔法解除をしましたが駄目でした」

 やっぱり駄目だっだのか。国一番の魔法使いさんが駄目だったなら、僕自身が解除しようとしても無理だろうな。

「そのことは私から説明させて下さい」
 ずっと黙っていた医師さんが話を始めた。
「ルカさんに名乗ってませんでしたね。アラン様が警戒して紹介して下さらなかったもので、自分から言います。医師兼魔法使いのリヴァイ•サンダーソンと申します」
 
 ペコリとお互いに頭を下げる。アラン様が警戒? 何に警戒したのだろう。
「ルカ……です。診察して下さりまして、ありがとう御座いました」

「いえ、お気になさらず。ルカさんにかけられた魔法もそうでしたが、口封じの魔法解除は駄目でした。強力な魔法です」
 リヴァイ医師は眉を下げて残念そうに話した。強力な魔法。いつ解除になるのだろう。

「お話の中、すみません。お茶をご用意出来ました」
ネネさんとメイドさん達が、お茶とお茶菓子を持ってやってきた。
「ありがとう」
ニールさんがネネさんにお礼を言った。

テーブルに並んだお茶菓子。今日も美味しそうだ。
「ニールとリヴァイ医師は、甘いものがあまり好みではないので違うものを作ってみた」
 アラン様が美味しそうなお菓子について説明した。

 ナッツやチーズ、スパイスを使ったお菓子。
オレンジピールにチョコをかけたもの。コーヒーに合いそうだった。ニールさんとリヴァイ医師はコーヒー。僕とアラン様は紅茶を選んだ。

「ルカには、フルーツケーキを作ってある」
 たくさんの果物を使ったケーキだった。美味しそう!
「あ、僕が切り分けます!」
そう言って立ち上がった。

「おや? テーブルの下で二人、手を握ってたなんて焼けますね」
 あ! アラン様に手を握られたまま、上に上げてしまった。ニールさんに言われて、僕は赤くなった。

「仲が良くて何よりです」
 リヴァイ医師に続けて言われる。そっとアラン様を見ると、優しく微笑んでくれた。良かった。怒ってない。

「ルカ、俺が切り分けよう」
アラン様の手が離れる。……豆だらけの硬い手が離れて寂しかった。

「今日はローブを着てないんだね。その服装も似合っているよ。ルカ君は、何だか気品があるなぁ……」
 ニールさんが僕をまじまじと見て言うと、アラン様が持っていたケーキナイフをギッ……! と握りしめた。
「わっ! 褒めても駄目ですか!」

「アラン様、危ないですよ」
リヴァイ医師が、アラン様を注意しながら笑っていた。

「はあ……。少しいただいたら我々は退散しましょうか。お邪魔らしいし」
「そうですね」
 ニールさんとリヴァイ医師は、二人して納得し頷きあった。

 
 しばらくして二人は、もう帰ると言った。
「俺は二人を見送ってくるから、ここにいてくれ」
アラン様は席を立って二人を見送りに行く。

 お菓子を食べながら色々話を聞いた。
ニールさんが、ネネさんに聞いた話が面白かった。
『夜中に物音がするので恐る恐る見に行ったら、アラン様がお菓子作りをしていて、お互い目が合ったときに大声で叫んだ』と。

 ネネさんがまさかアラン様が作るとは思わなかったのと、アラン様がコソコソ秘密に作っていたのに知られてしまったからだそうで。
 
 夜中に響くアラン様とネネさんの叫び声は、お屋敷の人は驚いたとニールさんが吹き出しながら話してくれた。リヴァイ医師も口を手で押さえながら笑いをこらえながら聞いていた。
 
「ニール。冬支度をしておけよ」
「それってもしかして、北の砦に左遷!?」
 慌てるニールさんと睨むアラン様。それをとめるリヴァイ医師。
 僕は3人のやり取りを楽しく見ていたのを、アラン様がいない間に思い返していた。

 そういえば……。
「家に帰って、仕事の注文がきているのか確認しないと……」
 僕はアラン様にいつ家に帰っていいか、聞いてみることにした。
 
  
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