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3章 二人の過去と今と未来へ
28.あの日〈過去〉① 〜アラン視点〜
しおりを挟む~アラン視点 〈過去〉~
俺は公爵家に生まれて育った。
衣食住、不自由なくそれが当たり前と思っていた。
騎士の家系だったので当たり前に、剣は三才から手に持った。
危険のないただのおもちゃの剣だったけれど、俺は右手に持った時にこれと長い付き合いになりそうと、感じた。
『駄目だ! そんなのではすぐに倒されるぞ!』
『は、はいっ!』
五才から本格的な訓練が始まって、打撲やあざが絶えなかった。泣き言は許されなかった。
痛い、辛い、苦しい。そんなことは言えなかった。言えば訓練の量が増やされた。
『ありがとう御座いました!』
容赦なく頬を打たれても、涙をこらえた。庭の端で隠れて泣いた日がいく日あっただろうか。
『にゃーん』
庭の端っこで低い木の陰で泣いていた時、すり寄って来た。痩せた猫。
後で知ったが、毛の色で「茶トラ」と言われている種類。
足に頭を擦り付けた。触っても大丈夫かな?
おそるおそる猫の頭に触れてみた。
ふわり……。
『柔らかくて、あたたかい……』
こんな柔らかくてふわふわなもの、触れた事ない!
俺はその時、知った。生き物はあたたかくて柔らかい。
夢中になった。こっそりとご飯をあげたり、ひざ掛けを猫の為に貸してあげたりした。
だけど長くは続かなかった。
『なんて汚い! 捨ててきて!』
コソコソしていた俺の後をつけた母が、大声で叫んだ。
『お母様、ごめんなさい! 捨てないで!』
俺の声は届かなかった。
どうやらその猫は捨てられずに、誰かに引き取ってもらって大事に飼われたようなので良かった。
それから厳しい訓練の他、自由な時間は可愛いものに気持ちを癒してもらっていた。
特に猫は可愛い。あの可愛い顔だけではなく、機敏な動きは参考になって訓練にも役に立った。
成長してからは猫の動きというよりは、凶暴なライオンの様だと言われてるらしいけれど。
そして15才の時。実力で騎士団に入団した。
がむしゃらに剣を振るっていた。父とはうまくいっておらず、何かと衝突した。毎日がイライラしてつまらなかった。
『くだらない。皆、何で真剣にやらず手を抜いてるんだ?』
隙があればサボろうとする奴らにうんざりしていた。
いや、今まで父の訓練が厳しすぎたのか?
どちらなのか分からず、騎士団の訓練に身が入らなくなった。
――騎士団に入り半年。
訓練についていけず脱落者が出始めた頃。俺は別に訓練がきついとは思わず、楽についていっていた。
『新人達に、初の任務を与える』
上菅のその言葉に皆、浮きだった。雑用ばかりだったので、騎士としての任務にやっと認めてられるような気持ちになった。
初の任務は【連れ去れて閉じ込められた子供を救出する】という、重大な任務。
もちろん俺達新人は直接に犯罪者達と戦うわけじゃない。屋敷の捜索が、与えられた任務だった。
「俺達が先に乗り込んで犯人たちを制圧する! 捕らわれている子供達を探すのが新人達の任務だ! それぞれ部屋に、一人ずつ捕らわれているとの情報だ。だがどこに犯人が潜んでいるかわからない。気を引き締めて任務にかかれ!」
「はいっ!」
俺達新人は、張り切っていた。皆が手柄を立てたくて、仲間達と競うような気持ちになっていた。
それは一生後悔する、愚かな行為だとこの時は思いもしなかった。
当時の団長や先輩騎士とともに俺達は、街の外れに建っている、大きな屋敷の前に広がる森に身を隠していた。
広い庭は手入れもされておらず、大きな屋敷も荒れた感じだった。
こんな気味の悪い所に子供達が。早く助け出してやろう。
「新人達はここで待機。合図があったら中に入り、子供達を救出しろ」
俺達だけに聞こえるくらいの話し声で、先輩騎士は伝えた。
「はい」
身を低くし窓から中をそっとうかがって、先輩騎士は開いていた窓から侵入していった。
「……!」
ガチャン! ドタドタ!
犯人制圧が始まった。争う声が聞こえてきて、武者震いする。
「おい、合図があったぞ」
新人騎士の一人が合図を見つけて、俺達は動き出した。新人とはいえ、厳しい訓練を耐えて残った者達なので動きは機敏だった。
先に先輩騎士が入っていった窓から乗り込む。
「なんだお前達は!」
進んで行くと、捕獲されなかった犯人が俺達を襲ってくる。厳しい訓練は無駄ではなく、無理なく犯人を倒した。
「俺はあっちを探す!」
「ち! 俺はこっちを探すから横取りするなよ!」
そんなやり取りが聞こえてくる。俺は一番離れた場所に向かった。
扉が開いていた奥の部屋を探すが、人が居た形跡は無い。
隣の物置部屋があやしい。厳重に鍵が締められて、扉の前に不自然な箱が置いてある。
俺は重い箱を退かして、鍵を剣で壊して物置部屋の扉を蹴破って中に入った。
ベッドが乱れている。人が寝泊まりしていたようだ。だが、人が見当たらない。小さい子供だからどこかに隠れているのか?
「王国の騎士団だ! 助けに来た! 誰もいないか!」
――返事がない。居ないか……?
「……ここにはいないか」
勘違いだったか。俺は違う場所を探そうとした。
「待って! 助けて!」
その時ベッドの下から、子供が慌てたように転がって出てきた。
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