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2章 再会

17.友人、から

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え……? 僕は平民で、アラン様は公爵様。
「無理、でしょう。僕は平民です」

 思わず口に出してしまった。
だって英雄騎士のアラン•バレンシア様だ。普通なら遠くから憧れて見て、手の届かない方。
 あり得ないけどこうしてお茶会に誘って頂いた。それだけでも一生の、思い出にできるのに。

「……」
アラン様は、寂しそうな顔をして僕をジッと見た。
風が中庭にそよそよと吹いて、アラン様の前髪がフワリと揺れて額にかかった。
「ルカは、俺が怖い顔でも嫌がらなかった」
「はい……」
顔は嫌じゃない。
 
「俺をお茶に誘ってくれた。甘いものが好きと言っても、俺がお菓子を作ると言っても笑わなかった」
 アラン様は苦笑した。
「え、笑いません! 作ってくれたお菓子は美味しかったですし、ご馳走になれて嬉しかったです」
 お菓子が作れるとは驚いたけど、むしろ好感を抱いた。

「……女々しいと。怖い顔なのに可笑しいと笑われたことがあって、ニールや屋敷の者や一部の親しい人にしか話してない」
 悲しそうにアラン様は僕に話した。ニールさんは黙って話を聞いている。
 
「女々しいなんて! そんなことはありません。立派な特技です!」
 僕はテーブルに両手を着いて、立ち上がってアラン様に答えた。
誰がそんな酷い言葉を、アラン様に! カッと頭にきた。
 
「ルカ君……」
ニールさんが僕に微笑んだ。
「あ! すみません。酷い言葉に、頭にきちゃって」
 カタン……と椅子に座り直した。冷静にならなくちゃ。

「君のそういう所に、かれたんだ」
アラン様は、ふ……っと笑った。
「まずは

 ひかれた? ……引かれた、かな?
『気になった』ということ? ああ、何だか悪い人に狙われているからか。
「あ、はい! 頼りない僕だから心配でしょうが、友人という肩書かたがきをいただけるなんて光栄です! でも身の程を弁えますから、ご安心してください」
 
 英雄騎士の『友人』という肩書があれば、いざという時に安心して守られるということだよね?
 
「いや、ルカ……」 
アラン様は戸惑っているようだった。ニールさんがアラン様の肩を叩いた。
「これから大変ですね……。頑張って下さい」
 ああ……。とアラン様は珍しく小さな声で、ニールさんに返事をしていた。
 
「あ! そういえば、忘れてました。お肉屋さんの奥さんに、美味しそうな高級ベーコンを頂いたので、半分をお裾分けしようと持ってきました」
 僕は手提げ袋からテーブルに、ベーコンの塊を置いた。

「あ、ああ。これは、先程話してくれた商店街のお肉屋さんの奥さんからもらったのか?」
「はい。僕じゃあ食べ切れないので。高級品と聞きました。お裾分けにと……と、持ってきましたが迷惑でしたか?」
 お茶会にいきなり高級品とはいえ、ベーコンの塊を持ってきたのはマナー違反だっただろうか?
 マナー違反?

「いや。美味しそうなベーコンだ。ありがとう。さっそく調理してもらおうか」
 アラン様は怒ることなく、端に控えていたメイドさんに調理するように頼んだ。
 
「ふふっ! お茶会にベーコンをお裾分けに持ってきたのは、君が初めてみたよ」
ニールさんが笑って言った。
「いや、嫌味じゃなくて君は素敵だって事!」

 ふふふふ……とニールさんは笑っている。
「あいつのことは、放っておけ」
 ギロリとアラン様はニールさんを睨んだ。

 ニールさんは「怖っ!」と言って笑うのをやめた。
素敵だってニールさんに言われた。でもちょっと軽い感じて言われたので、からかわれているのかな? と思って複雑だった。

「失礼します」
メイドさんがそう言ってお皿を運んできた。
「お待たせしました。こちらのベーコンとサラダで御座います」
食べ終えたお皿を下げて、美味しそうな匂いのするベーコンが運ばれてきた。僕がお裾分けに持ってきたベーコンだ。

「これは美味しそうだな」
「良いベーコンですね」
アラン様とニールさんは、見ただけでそう言った。
ニールさんがどちらのベーコンですか? とアラン様に聞いた。
「商店街の肉屋のベーコンだ。先程、情報通の奥さんの話をしただろう? そこのお店のベーコンだ」
「なるほど……。うちでも注文しようかな」

 何だかベーコンの話題になった。
お肉屋さんのお客さんを、増やせたみたいで良かったかな?

「食べてみよう」
アラン様がフォークとナイフで、厚切りベーコンを口に入れて食べた。
 ニールさんも続けて口に入れた。
「ウマい」
「美味しいですね!」
 二人は絶賛した。

 お二人とも口に合ったようで、良かった。
「ルカも食べてみるといい」
アラン様は僕がまだ、ベーコンを食べてないのをみて言ってくれた。
「はい」

 ベーコンを小さく切って口の中に運ぶ。もぐもぐ、もぐもぐと良く噛んて飲み込む。
「……本当、美味しいですね」
 ニコッと笑う。

 どうしても……。小さく切ってからじゃないと食べられない。
「あれ? ルカ君、あまり食べてないですね?」
 ニールさんが、僕があまり食べてないのに気がついて話しかけた。

「先に、アラン様が作ってくれたお菓子を食べ過ぎちゃって」
 せっかくベーコンを焼いて、作って出してくれたのに申し訳ない。美味しいけれど。

「……」
すでに食べ終わったアラン様が、僕の方を見ていた。

 
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