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2章 再会

15.美味しそうなお菓子

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 メイドさんがお茶を淹れくれて、僕はお礼を言った。笑顔でペコリとお辞儀をして、ごゆっくりどうぞと言ってメイドさんは下がっていった。
 
「いただきます」
 まずはお茶の香りを楽しむ。花の香りがする。ティーカップを持って一口飲んだ。
「美味しい紅茶ですね」
 公爵家で淹れるお茶だ。きっと高級品なんだろうな。とても美味しい。

「領地で栽培、加工した茶葉だ。領地内でしか流通してない紅茶で、この間送ってもらった。口に合ったようで良かった」

 領地内でしか流通してない紅茶。
「花の香りがしますけど、香りつけはしてないのですか?」
 ティーカップを置いてアラン様に聞いた。
「それが不思議なのだが……。香りつけはしていないはずだ」
 香りつけはしていないのに?
「不思議ですね。初めて味わった紅茶で、美味しいです」

「そうか。そう言ってもらえると、作っている皆の励みになる」
 アラン様もティーカップを持って紅茶を飲んだ。大きな手なので、ティーカップが小さく見える。でもさすが、所作は優雅で上品だ。

僕はアラン様に、猫の形のクッキーとアップルパイと苺のミニタルトを取り分けてもらった。
 甘いもの、全部だ。
「あ、すみません。どれも美味しそうで、一つを選べません……」

「ははっ! 遠慮なく食べてもらったほうがいい」
アラン様はテキパキと、僕の目の前に置かれたお皿に甘いものを取り分けて乗せてくれた。

「大地の恵みをありがとう御座います……。では、いただきます」
軽いおやつを食べる前でも、幼い頃に躾けられた食事前のお祈りは忘れない。
まずは猫の形のクッキーをいただいた。

「あ、美味しい!」
ちょっと厚めのクッキーは、噛むとホロリと崩れて甘さが広がる。あの時もらったクッキーと同じ味がして、泣きそうになるのをこらえた。美味しいので、一枚すぐに食べてしまった。

 紅茶を一口飲んでから、次にアップルパイを食べた。パイ生地がサクサクしていて、中に入っている大きめサイズのリンゴがゴロゴロと入っていて、食べごたえがある。
 酸味とのバランスがとても良くて美味しい!

「すごく美味しい……! あっ!」
しまった。家にいるときのように、パクパクと夢中で食べていた。
「すみません! 行儀が悪いですね……」
 食べるのをやめて、シュンとして下を向いた。

「いや。美味しそうに食べてくれると、作ったかいがある」
「え! これ、全部が作ったのですか!?」
 僕は驚いて、いつも心の中で呼んでいた名前を言ってしまった。

「え」
アラン様は僕に、名前呼びされたことに気づいて驚いた顔をした。
「あ! 名前呼びしてしまって申しわけ御座いません!」
 どうしよう。平民が公爵様のことを、名前呼びしてしまった。失礼極まりない! 僕は頭がテーブルにつくほど下げた。

「ルカ。頭を上げて」
声は優しく聞こえて、僕はそっと頭を上げた。
「そのまま、アラン……と呼んでくれないか?」
 アラン様は優しい顔で、僕に言った。
「ええ! む、む、無理です!」

 公爵様の名を呼び捨てなんて、とんでもない!
僕が、わたわたしていたらアラン様の顔がみるみるうちに沈んでいくのが見えた。
 何だかいじめているように思えて困った。

「駄目か……?」
すご――く、すご――く、しょんぼりしている!
「あの! では……アラン様と、呼んでいいでしょうか?」
 僕は罪悪感を感じて言ってしまった。

「構わない! できればそう呼んでくれ」
とたんに良い笑顔になった。あの噴水広場でみた凛々しい顔と違い、優しい顔だ。

「アラン様」
「うむ。それでいい。あ、ルカ。口の近くに……」
 アラン様の手が僕の方に伸びてきた。指が頬に触れたのが感じた。
「お菓子が付いている」

 僕の頬に付いていたお菓子の欠片を、アラン様は指で取ってくれた。
「ありがとう御座います……」
 何だか恥ずかしくて顔が赤くなった。アラン様はニコニコと微笑んでいる。

 アラン様と話をしながら苺のミニタルトを美味しく食べている時に、執事さんがやってきた。
「アラン様。副団長のニール様がいらっしゃいました」
「追い返せ」
即答だった。
 
 ちょっ……と、アラン様? 執事さんも困った顔をしている。
「仕方がないな。こちらまで来るように伝えろ」
「はい」
 本当に嫌な顔をしてアラン様は、執事さんに話をした。

「こんにちは、ルカ様。お邪魔してすみません」
騎士服を上品に着こなして、銀髪碧眼の美形のニールさんが微笑んで僕達が座っているテーブルまでやってきた。
「本当に邪魔だな」
 アラン様は嫌そうな顔を隠さず、ニールさんに言った。

「ちょっと! 酷くないですか!?」
ニールさんはアラン様に半分笑って訴えた。お二方の様子から、気兼ねもなくお付き合いできる間柄と分かった。

「全く……。誰のおかげでルカ様と、お茶会が出来たと思いますか?」
「ぐ……」
アラン様のお顔が怖くなった。僕は黙ってお二人の様子を見守っている。

「ニール様、お席を用意いたします」
メイド長のネネさんが、気を利かしてメイドを数人連れてきて声をかけてくれた。
「助かったよ! さすがネネさん!」
 ニールさんは助け舟が現れて、ホッとしたようだった。

 ネネさん達は、テキパキとニールさんの席を準備し終えた。
「ではごゆっくり」
 ネネさんとメイドさん達は完璧な仕事をして戻っていった。

「じゃあ、私もお茶会に参加させてもらうね!」
 ニールさんは注がれたばかりの熱い紅茶を、冷まさず飲んだ。

「ニール」
アラン様が険しい顔でニールさんを呼んだ。僕は声色が変わったアラン様を見た。

「要件をさっさと話せ」
 
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