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2章 再会

11.二人で初めてお茶を飲んだ日

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「この指輪は、とても大事な指輪なんだ」

 ドキッと、僕の心臓が飛び出しそうになった。英雄騎士アラン様が指輪を、人差し指で大事そうに撫でたからだ。

 まだ親方のもとで修行を始めた時にアラン様からの依頼の指輪と聞いて、思っていた以上に魔法加護をつけてしまった。
恩があったのと、戦いの場から無事に帰って来てほしかった想いが強く、自分の魔法をうまく制御できなかった。……たぶん最高クラスの魔法加護がついている。

「ルカ……という拾い主の名前を見た。騎士団に、以前は武器や防具に加護を付けた物を配達していたはずだ。今は主に、加護が付いたアクセサリーなどを取り扱っていると、騎士に聞いた」
 アラン様は騎士団長だから、注文した依頼品の書類など目を通していただろうけど……。名前まで記憶していたと思わなかった。

「団員が、君の店の腕輪を購入したと聞いた」
 あ……。平民でも実力があれば騎士になれるとか。平民の騎士さんが、うちのお店の腕輪を購入して身に着けてくれたのか。限定の腕輪、5品だけだったけど。
「聞けば、依頼以上の加護が付いてるとか」
  
「……」
 何も言わず僕は紅茶を口に含んだ。
「そんなはずは、ないのに。お城にいる魔法使い達でも3つ以上、加護を付けられない」
アラン様はフッと笑った。

「……」
僕はアラン様の話を聞いて、固まった。
親方も言っていたがお城の魔法使いでも3付けられない?
 これは……。かなり重要な話を聞いてしまった。

 もし、僕がそれ以上の加護を、魔法で付けられることを知られてしまったら……。

「平民でも、に魔法を使える者がいる。事情がある者だったり、お城に召し上げられて不自由な生活を嫌うものが、身を明かさずこうして良い加護を付けて騎士に力を貸してくれている」
 
「君がこの指輪を誰の物か知っていたということは、以前に指輪を見たことがあるか もしくは依頼した武器防具職人の何らかの関係者か……」
 アラン様は指輪を見つめながら、独り言のように話していた。問い詰めるような感じではない。

「あ、ああ。……すまない。一人で話してしまった。いや、実はこの指輪にずいぶん助けられたので、加護を付けてくれた者に礼を言いたいのだ」
 笑って僕を見て微笑んだ。

 手のひらをぎゅっと握った。あの指輪がアラン様の助けになったことを知って嬉しかった。だけど僕は悩み、考えたのち黙っていることに決めた。
 
「助けになって良かったですね! たぶんその人は名乗らないと思いますけど、きっとその人もバレンシア公爵様の助けになったと知ったら、喜ぶと思いますよ!」
僕はテーブルの下で手を強く握った。笑い顔が引きつってないといいけど。

「そうかな。伝わったら良いが」
アラン様はまた指輪を見て言った。
 ……ちゃんと伝わりましたよ。口に出さずに、心の中で呟いた。

「そろそろお暇するよ。お茶とお菓子、ご馳走様」
ニコッと笑いかけてくれて、椅子から立ち上がった。
「あ、いえ! 狭い所に無理やり誘ってしまって、すみません」
 アラン様を見送ろうと僕も椅子から立ち上がった。

 会えた嬉しさに僕は、身の程知らずにアラン様を家に招いてしまった。アラン様の周りの人達に、こんな平民の所でお茶をしてたなんて知れたらアラン様がなんて言われるか……。
 僕はうつむいて、ローブの袖をぎゅっと握った。

「無理やりではない。また一緒にお茶を飲もう」
「え? あ、はい!」
 ポン、ポンと肩を軽く叩かれた。

 リビングからお店の入口まで一緒に歩く。もう少し一緒にいたかったな……。アラン様が後ろからついてくる。
「ルカ……君」
「はい!」
 急に名前を呼ばれて驚いた。

「すまない。……ルカ君、と呼んでいいか?」
振り返ってアラン様を見た。
「君はいりません。ルカ、と呼んで下さい」
 皆もそう呼んでいるし。

「……ルカ」
アラン様に、ルカと呼ばれて嬉しい。
「はい」
 まさか名を呼ばれることがあるなんて。今日は良い日だ。

「あまりこういう事は言いたくないが、先程の男達が気になる。調べてみるが……」
 確かに気になる。単に酔っ払いの騒ぎだったらいつものことだけど、あの男達は雇われて騒ぐように仕向けられた。

「ルカ、身の回りに気をつけるように。俺もこの近辺を注意しておく」
 英雄騎士様と呼ばれているアラン様が、注意してくれるとは心強い。
「ありがとう御座います!」
 僕も気になっていたから、ホッとしてアラン様に笑顔を向けた。

「あ、うん。その、また会おう」
アラン様はそっと、僕の長い前髪に触れた。
「……!」
 ビクン! と反射的に体を反らしてしまった。
「あ! すまない! 勝手に触れてはいけないな」
 無意識に触れたのだろうか? かなり動揺している。

「なぜ、前髪を長くしてるんだ? それにフードも深く被っていて顔がよく見えない」
 なぜ、アラン様は僕の前髪なんか気になるのだろう?

 僕は顔を隠して、過ごさなければならない理由がある。
「いや、すまん。顔を見たくて……」
 手を後頭部にあてて、すまなさそうにしている。

「いえ、大丈夫です。醜いがあるので見られたくないのです」
 嘘をついた。アザじゃない。

「そう、か。申し訳ない。すまなかった」
ペコリと頭を僕に下げた。
「わっ! 頭を上げて下さい! 僕なんかに頭を下げてはダメです!」
慌てて僕はアラン様に言った。

すると、スッと頭を上げて僕に話しかけた。 
 「先程話した見回りは、強化しよう。あと実は……」
真剣な話に僕はグッと身構えた。

「その、甘いものは好きか?」
「え」
僕の頭の中はクエスチョンマークがいっぱいになった。
 
 

 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 
 
 



 

 
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