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7、イチゴのホールケーキ
しおりを挟むあれから色々な人が、ボクに会って話をしたいとお店に来てくれるようになった。どうやらウサギのお姉さんは、ナルン王国の美味しいものを紹介する本(ガイドブック的なもの)を書く人だったらしい。
アラン様の作った美味しいお菓子を紹介して、そこで働く皆の事やお店の雰囲気、客層などお姉さんの独自の視点で詳しく書かれていた。
お店のことはもちろん皆の事も書かれていて、ボクのことは『国にいる弟を思い出して泣いてしまった私を、優しく慰めてくれた可愛くてふわふわ毛並みのウサギの獣人さん』と書かれていた。
「え、照れるなあ……」
皆で開店前に、お姉さんが書いたお店紹介の記事を読んでいた。レジ横のカウンターの上に本を広げて覗き込んでいた。
「ムウ、お前。お姉さんに果実水をぶっかけたの、忘れんなよ」
レッドさんが厳しくボクに突っ込んでくれた。
「そうでした……。気を付けます」
下手するとこのお店でお水をかけられたと、マイナスイメージが書かれるところだった。
「まあまあ。今後、気を付けてもらえればいいですから」
キースさんが優しくフォローしてくれた。
「はい」
ボクは気を引き締めた。レッドさんは少し焦ってボクに話しかけた。
「べ、別に、意地悪で言ったわけじゃないからな」
バツの悪い顔をしていた。
「わかってますよ? レッドさん」
ふふ……とボクは、横を向いて笑った。レッドさんは言葉はキツイけれど、ちゃんと注意してくれるし気にかけてくれている。双子さんはボクより年上なので、お兄さんみたい。
「……これは流行に敏感な人達や一般的によく読まれている本なので、忙しくなるかもな」
ファルさんが腕組みしながら言った。キースさんはファルさんの肩に手を置いて頷いた。
「そうかもしれません。今もお店に置いてあるお菓子の数がギリギリなので、アラン様と相談したほうがいいですね」
今の所はお客さんの入れ替わりがスムーズなので、あまりお待たせはしてないけれど混み合ってしまいそう。
「アラン様も忙しくされているので、皆さんに色々と手伝っていただきます」
キースさんはボク達に話しかけた。アラン様は忙しい中、色々な美味しいお菓子作りは大変だ。
「さっそくですが。ケーキの飾りつけをやって欲しいのですが……」
キースさんが、届いたばかりの美味しそうな生クリームの塗られたホールケーキを横からカウンターの上に置いた。
「これは皆で食べて良い、試食用のイチゴのホールケーキです。生クリームだけ塗られてます。これをブルーさんレッドさん、ムウ君の三人で、三等分して飾りつけをして下さい」
奥から、イチゴと飾りつけ用の生クリームの入った絞り袋と色々な飾りつけを持ってきた。
……もしかして、飾りつけの腕を見るため?
「え――? もしかして、試験的なもの?」
「上手に出来たら、仕事として採用するのでしょうか?」
レッドさんとブルーさんも同じことを思っていた。
「ですね。先ほども言いましたが、今の時点でお菓子……ケーキ類を含めて数がギリギリです。今後のことを考えていかなければいけません」
キースさんが「喜ばしいことですが」と言葉を足した。
「じゃあ、そういうことで三等分してみろ」
ほら。とファルさんがナイフを持ってきた。
「はい」
ボクがナイフを受け取り、ホールケーキを三等分に切った。ホールケーキの断面を見ると、イチゴがたくさん入っていて、これだけ見ても美味しそうだ。
三人は手を洗いに行ってきて、ホールケーキの飾りつけに挑戦してみることにした。
「じゃあ、俺から」
レッドさんが生クリームの入った絞り袋を手に取って、三等分したケーキにデコレーションを始めた。
「わあ!」
レッドさんは絞り袋を強く握りすぎて、生クリームが袋の後ろから飛び出てしまった。
「強く握りすぎだよ、レッド」
「わかってるって!」
ブルーさんがレッドさんに言うと、レッドさんがちょっと怒った。
三等分したイチョウ形のケーキの縁にそって生クリームをデコレーションし、その上にイチゴを並べた。
「……あとはどうするかな」
少し考えてイチゴを三つ、中心部分に置いた。
「これでよし」
ふう……! とレッドさんが額の汗を拭った。
「作り慣れてないから、こんな感じだ!」
レッドさんがそう言って皆に見せた。
「作り慣れてないにしては上手ですよ」
キースさんがレッドさんに話しかけた。レッドさんはちょっと照れていた。
「では、次は僕がデコレーションします」
ブルーさんがレッドさんから絞り袋を受け取って、生クリームをデコレーションし始めた。
グニャリ……。
生クリームは絞り袋の先から勢いよく飛び出して、ケーキの表面から横や左右の切り口までグニャグニャと、縦横無尽に螺旋を描いた。
「あれ? おかしいな……」
そして刻んだイチゴをパラパラと、ケーキの上から落とした。
「……やっぱ僕はセンスがないな」とブルーさんが、デコレーションしたケーキを見せた。
ち、ちょっと、ぐちゃぐちゃだ……。
「うーん。はっきりいうと、それはお店に出せないな」
ファルさんがはっきりブルーさんに言った。
「ですよねー」
ブルーさんが笑って言った。
「んじゃ、最後はムウ」
ファルさんに言われてボクは、残りの生クリームだけが塗られたケーキをデコレーションする番になった。
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