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41 招待

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「あのー、納多のださん。これってどんなプレイですか?」

「人を変態みたいに言わないでください」

ぎろりとにらみつけられた。
えー!?なんでー!
こっちは青のパーティードレスを着せられ、美容院で髪をセットし、メイクまでフルコースのダメ出しをされ―――いやいや、これはもうダメ出しとかじゃない。
どこぞのパーティーに行くスタイルよ?

「よくお似合いですよー!」

「は、はあ」

この状況を飲み込めない私は店員さんの褒め言葉も素直に喜べずにいた。
ひきつった笑みを浮かべる自分が鏡に映っている。

「もしかして!星名せなちゃん達とすごいところでランチとか!?で、でも、こんな服装じゃバーゲンは行けないし」

「バーゲンは諦めてください」

「は?バーゲンを!?星名ちゃん達と約束しているんですけど?バーゲンという名のパーティーに行く約束をですね……」

「そんなにバーゲンが好きですか」

「好きですよ!高くて諦めていた服がバーゲンの時に値引きされていたあの喜びを教えてあげたいですね。もう勝利のガッツポーズを心の中でするくらいにはっ!」

「バーゲンまで売れ残るということはそんな素敵な服というわけではないのでは?」

「わかってないですね。バーゲンは祭りなんですよ、祭り!基本的に祭りには率先して参加していくタイプなんです。私はっ!」

「なるほど。大衆に迎合すると」

ムッカー!
本当に正論ぶちかましてくれるんだからっ!
もうちょっと優しい言葉を言えないものなの?
ねえー!

「どうせ私は俗物ですよ」

「そうですね。準備ができたみたいですから、行きましょうか」

どうでもいいとばかりに納多さんは私の言葉をさらっと流すとドレスに合わせたバッグと靴、それから今まで着ていたものを綺麗に袋に詰めて渡してくれた。
本当にどこにいくのか……と思った瞬間、頭にふっとあるパーティーを思い出した。
私が知っているパーティーは一つだけある。

「まさか私を斗翔とわ優奈子ゆなこさんの婚約パーティーに連れていくつもりですか!?」

「そうですよ」

「い、行きません!どうして私がいかなきゃいけないんですか!」

駄々をこねる私を車の前で納多さんは振り返った。
気のせいじゃなければ、わずかに表情を崩して口の端をあげた。

「行けばわかります。そっちのほうが説明するより早い。星名さん達も招待されていらっしゃいます」

招待されて?
なぜ、斗翔と優奈子さんの婚約パーティーに星名ちゃん達が招待されるのかわからなかった。
けれど、納多さんの難しい顔を見ていると聞かないほうがいいのかもしれないと思って黙り込んだ。
納多さんが表情を崩すなんてことめったにないことだったから―――


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


納多さんが連れてきてくれたのは高級ホテルで確かに婚約パーティー会場としてはふさわしい場所だった。

「心配しなくても大丈夫ですよ」

「心配と不安しかないです」

ふっと納多さんが笑った。

「短い間でしたが、夏永かえさんには笑わせてもらいました。ありがとうございました」

「笑わせ……!?え?お別れの挨拶ですか?」

「島での仕事が終わりましたので、本業の社長秘書に戻ります」

「そう、なんですか」

寂しいと言ってもいいのだろうか。
今までたくさん助けてもらった。

「会えなくなるわけじゃありませんよ。島にはまた来ますから」

「でも、今みたいに顔が見れなくなりますよね」

「少しは―――」

納多さんはなにか言おうとして口をつぐんだ。

「まあ、皆さんに迷惑をかけないよう今後も頑張ってください」

「なんですか、その業務的な挨拶は!」

「いつもどおりです」

納多さんの声は抑揚のない声に戻っていた。
迷惑って、迷惑かけたくてかけてるわけじゃ―――

「そうだ!納多さんに渡すものがあったんです」

後部座席のカゴバッグに手を伸ばし、袋を取り出した。

「納多さんにお世話になったお礼をしようと思って、ちょっとしたものなんですけど、よかったら使ってください」

驚いた顔で私を見ていた。
そんな驚く?

「みんなにはストールをあげましたけど、納多さんにはまだだったなって」

「ありがとうございます」

中身は濃い緑のポロシャツ。
重ね染めをすることで深い緑の色にした。
納多さんには緑が似合う。
それも深い色が。

「渡せてよかったです」

私の顔を納多さんはまるで見納めというように見て、車から降りた。
そんな深刻なこと?

「さあ、行きますよ」

さっきまでパーティー会場に行くのが嫌だったのに今は違っていた。
なぜだろう。
これは悪いことじゃないという予感がした。
まるで、プレゼントの箱を開けるみたいな気分で会場のドアを開いた。
会場の中心には『朝日奈建設、森崎建設合併記念パーティー』と書いてあった。

「幸せになってください」

背後から納多さんの声がしたけれど、ふりむけなかった。
なぜなら、私の視線の先には斗翔がいて私の姿を見つけると幸せそうな顔で微笑んだから。
斗翔は舞台から飛び降りるとタッと駆け出した。

「夏永!」

私のところまでくると両手を伸ばして、私を抱き締めた。
やっと私達はみんなの前で堂々と会うことを許されたのだと知った―――
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