私達は結婚したのでもう手遅れです!

椿蛍

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本編

21 思い出の味

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おじいちゃんをリビングに通して、ボディガードの二人にもお茶を出した。
ぼた餅をお茶菓子にして、熱い緑茶を出すと三人は黙ってぼた餅を食べ始めた。

「おいしいですか?」

おじいちゃんは私の顔をじっと見て、うなずいた。
ふふ……私のぼた餅は亡くなったおばあちゃん直伝のぼた餅よ。
あんこは甘さ控えめでいくつもいけるはず。
そう思って、おじいちゃんとボディガードの人達の前におかわり用のぼた餅を並べた。

「ぼた餅を作りすぎてしまったので、ちょうどよかったです。おかわりもありますから、遠慮しないで食べてくださいね」

「彼岸か」

「はい。そうです」

春は牡丹でぼた餅、秋は萩でおはぎ。
同じものなのに季節によって呼び名が変わる。
彼岸入りすると必ず作ってお供えしてきた。
毎年、おばあちゃんが作ってくれていたのを私が引き継いだ。
店のあんことはどこか違う。
家庭で作るからか、どっしりと重たいあんこ。
甘さ控えめにして小豆の味を生かすのがおばあちゃん流。

「懐かしい味だ」

「そうですか?やっぱり家で炊くあんこは違いまずよね」

あんこつうですね。
違いが分かってくれて嬉しいですと思いながら、二個目のぼた餅を皿にのせた。

「まだまだありますよ」

「二個で十分だ」

「そうですか?ボディガードの人達はどうですか?」

「ボディーガード!?いや、俺らは……ぐっ!」

強面の人達がなにか言おうとした瞬間、おじいちゃんの肘がドスッと腹に入ったのが見えた。

「あの?」

「俺ら、い、いえ、私達も二個でおなかいっぱいになりました」

三人をもてなしてから、私はようやく重大なことに気づいた。
ぼた餅をごちそうしてしまったけど、肝心の冬悟さんがいないのに引き留めてしまったことに。

「すみません!冬悟さんがいないのに引き留めてしまって。冬悟さんにご用だったんですよね?」

「うむ」

おじいちゃんはうなずいた。
やっぱり。
もしかして、嶋倉の親戚の方?
私と冬悟さんが結婚したと聞いたから、嫁の顔を見に来たんじゃ?
『嶋倉の嫁としてふさわしいか判断してやろう』そんなところ?

「わ、私、冬悟さんに相応しい嫁とは思えませんが、精一杯、頑張らせていただいてます!こ、このようにぼた餅だってうまく作れます!」

焦って無駄にアピールしてしまった。

「冬悟が好きなのかね」

「す、す、好きって!もー!おじいちゃん、はっきり言わないでください!恥ずかしい!」

おじいちゃんの肩をバシバシと叩くと、ボディガードの人達がうわあああっと声をあげた。

「冬悟さんって、すっごくかっこいいじゃないですか。それこそ、王子様みたいだなって思うこともあるんですよ」

「王子?冬悟が?」

「そうです。私の憧れの人だったんですけど、冬悟さんが私のこと好きって言ってくれて。私も好きになっていいんだなって思えたっていうか……。私のような平凡な人間を冬悟さんが好きってすごくないですか?」

「う、うむ……」

恋バナの相談に乗ってくれる相手がいなかったせいで、おじいちゃんにウキウキと語ってしまった。
そして、止まらない。

「それに見てください」

スッと指の結婚指輪を見せた。
この輝く銀色よ!

「指輪です」

「見ればわかるが」

「ただの指輪じゃないんです。結婚指輪です」

「うむ……そうだな」

私の言いたいことをわかってもらえたようで、おじいちゃんはなるほどと、うなずいてくれた。

「今日、ここにきたのは『柳屋』さんのお孫さんを冬悟が妻にしたと聞いたからだ」

「そうなんです。私達は結婚しました」

やっぱり!
私がふさわしいかどうか、品定めに来たと思ったのは間違いじゃなかった。
妻の勘は当たるって本当だ。
私も牛歩の歩みながら、妻として成長しているようですね……!

「もう結婚したんですから、別れませんよ!」

「別れろとは言ってないだろうが」

「そうですけど、私のことを品定めに来たんですよね?」

おじいちゃんはふっと笑った。
臨戦態勢だったけど、優しい笑みに私の緊張感が解けた。

「そうだな。初めはそのつもりだったが、ただ『柳屋』の孫娘の顔を見たかっただけなのかもしれん。久しぶりに『柳屋』のおかみを思い出したよ」

「おばあちゃんを……」

重箱に入ったおばあちゃん直伝のぼた餅を見た。

「きっとぼた餅のせいですね」

「若い時にごちそうになって以来だが、変わらない味だった」

そう言ったおじいちゃんは昔を思い出したのか、ぼた餅を懐かしそうに見ていた。

「あのっ!よかったら、ぼた餅の重箱を一つ持って行ってください」

たくさん作りすぎたけど、結果的によかったかもしれない。
おじいちゃんに思い出の味をあげることができる。

「食べきれない分は冷凍するといいですよ。電子レンジで温めれば、好きな時に食べれますから」

「ほう」

お土産にするため、重箱を風呂敷で包んだ。
ぼた餅がギッシリ入った重箱をボディガードの人に渡すとぺこりと頭を下げられた。

「冬悟さんもいないのにお引き留めしてすみませんでした」

「いや、こちらこそ、おいしいぼた餅をありがとう」

スッとおじいちゃんが立ち上がるとボディガードの人達も同じように立ち上がり、部屋の入口までささっと移動する。
その動きは機敏でドラマみたいだった。

「冬悟と結婚したのは実に残念だ」

「そうですか?口がお上手ですね」

若かったら、ワシが立候補したのにって流れかな。
ぼた餅あげただけなのに褒めすぎです。もう!

「今度、会った時、ぼた餅のお礼をさせてもらおう」

「そんなの気にしないでください」

「冬悟によろしく」

そう言って、おじいちゃんは笑った。
よく見ると目が鋭くて、顔立ちがキリッとし、威厳あるおじいちゃんだった。
若い時はきっとモテたに違いない。
冬悟さんみたいに。
手を振って見送ると、ドアを閉めた。

「あれ?マンションのドアって開かないはずだよね?」

カードキーじゃないと開かないって言ってたはず。
だから、冬悟さんは私にカードキーを渡してなかった。
どうやって開けたのだろう。
マンションのドアに手をやり、動かしてみるけど、しっかりロックされていて開かないようになっていた。
でも、ボディガードの人はカードキーを持っていた。

「……うん?」

不思議な出来事に私は首をかしげるしかなかった。
冬悟さんが帰ってくるまでには時間がある。
いくら甘党だからって重箱いっぱいのぼた餅を見たら驚くに違いない。
今のうちに―――

「ぼた餅を冷凍しておこう!」

すでに私の頭の中は冬悟さんが帰ってくる前に大量に作ったぼた餅を処理することで頭がいっぱいになっていた。
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