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10 【薔薇】王子の事情 染物師の野望
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「あれがこの国の王子か。なかなか食えない男のようだ」
ずっと黙っていたラウリが口を開いた。
口をきかなかったのはヨルン様がどんな人間なのか、ラウリは見極めていたのかもしれない。どれがヨルン様の本心なのか、私にもわからない時があるから、その気持ちはよくわかる。
「私からすると、なにを考えているかわからないことのほうが多いですけど、明るく接してくださるから、とても人気があるんですよ」
通りに並ぶ露店から小麦や野菜などの目的の食材を買い終えると、噴水の石のふちに座った。
黒コショウとスパイスがよく効いた肉入りのサンドイッチは膝の上に乗せると、まだほんのり温かい。
行列ができる肉屋のサンドイッチはその場で焼いた熱々の分厚い肉を挟んでくれる人気商品。こんがりとした分厚い肉は脂を焼く音をじゅうじゅうと鳴らし、焦げた肉の香ばしい匂いは通りに漂い道行く人の足を止める。
このサンドイッチは私には大きすぎて、最後まで食べきる前にお腹がいっぱいになってしまうけど、今日はラウリがいるから半分にできる。肉の脂がついて、透明になった紙を丁寧にはがしながら、ラウリが食べやすいように携帯用ナイフを籠から取り出して一口サイズに切った。
「ふむ。これは美味だな」
「竜の口に合ってよかったです。新鮮な葉野菜のパリパリ感とスパイシーな肉が合うんですよね」
「食卓の向上のため、参考にしよう」
「は、はあ……仕事熱心ですね」
そこまで考えてサンドイッチを買ったわけではなかった。
ラウリは家政夫としてのプロ意識なのか、研究家のような顔をし、肉のスパイスの種類を探りながら味わっている。
竜は草や生肉を主食にしているんじゃないかと思っていたけど、竜人族は人間と同じものを食べるということがわかってきて、ホッとした。これで鱗のために肉を狩りにいかなくて済む。
森の染物師から森の狩人に職業が変更になるところだった。
術でかっこよく獲物を狩る女狩人アリーチェ!
それも悪くないかもしれないと思ったけど、トロい私が獲物から逃げられて反撃されるところまで想像できて、ちょっとせつなくなった。
「おい、俺の鱗を見すぎだ」
「あ、すみません。つい……」
本音が態度にまで漏れ出て止められない。
ラウリから私は危険人物として認定されたらしく、サンドイッチがのった紙を引きずって私から距離を取る。私とラウリの間にできた隙間にぴゅうっと風が吹き、寂しく感じた。
信頼関係のディスタンス、私とラウリの心の距離、いつになったらこの距離を埋められるの――心の中でポエムを刻む。
一度懐いたはずの犬が私から逃げて行くという過去の悲しい記憶を思い出し、再度、信頼関係の構築をと、ラウリに手を伸ばすも避けられてしまった。
「俺の鱗に触るな」
「厳しい……」
「襲われないように貞操を守っているだけだ。鱗一枚とはいえ、俺に危害を加えようとするとはとんでもない人間だ」
「私がそんなやましいことを考える女に見えますか?」
「やましさを通り越して変態だと思うぞ」
初対面、全裸を披露したラウリに言われたくない。
鱗を眺めるのを諦めて、籠の中から木苺ジュースの瓶を取り出した。鮮やかな赤色をした木苺ジュースをブリキのカップに湧き水で薄めた木苺ジュースを注ぐ。
肉のサンドイッチを食べた口に木苺の甘酸っぱい味がさわやかに感じる。
昼食を食べている場所は私のお気に入りの場所で、眩しい日差しを遮る木陰とひんやりした噴水の石、生い茂る草木が町の人達から私の姿を隠し、ホッと一息つくにはうってつけの場所だった。
豊富な湧き水があふれる噴水の横からは水が石組みの水路から流れ出る仕組みになっていて、流れる水は傾斜のある石組みから小さな滝のように流れ、滝の下に置かれた石は水を弾く。その清らかな水の流れを目で見て楽しむことができた。
「あの男。王子にしては女性に対する振る舞いが軽いように感じたが、いつもああなのか?」
そう言いながら、ラウリはブリキのコップから器用に木苺ジュースを飲み干し、サンドイッチをぱくっと一口で食べた。私の方はまだ一口目だというのに早すぎる。
「ヨルン様が女性に対して社交的なのは表向きだけで、本当は真面目な努力家なんですよ」
「そうなのか?」
「う、うーん……。でも、これは私の見解なので、参考にならないかも……」
正直、昔馴染みとはいえ、私にもヨルン様の言葉の真意はいつもわからない。
でも、ヨルン様が私に親しく話しかけてくるのも女性達を上手にかわすのも王子としての仕事の一部ではないかと思っている。
私がロク先生の弟子ではなく染物師でもなかったら、きっとヨルン様はトロい女の子が一人そのへんにいるなくらいの態度で接していたと思う。
「ヨルン様にはお姉様の王女が一人いらっしゃって、その方を女王にって望む貴族も少なくないんです。それで敵を作らないよう軽薄に振舞って、本音や実力を隠そうとしているところがあって……」
ヨルン様は愚かすぎず、優秀過ぎず、周りから浮かないようにバランスをとっているように見えた。状況や相手によって、自分の印象をどちらにでも転がせるように注意を払っている。
それがわかるのは私の前でヨルン様が自分を隠す必要がないから。
私が王宮内のゴタゴタに巻き込まれる可能性はゼロに近いというのもあるけど、ロク先生以外に身寄りもなく友人もいない私がヨルン様を利用したり、貴族の派閥に取り込まれたりする心配もないから、気楽な存在だと認識されているからなんだと思う。
お気楽、のんき、ぼんやり――そんな私はラウリがすでにサンドイッチを半分食べてしまっているにも関わらず、まだ二口目をもぐもぐと口の中で咀嚼していた。
「あいつは複雑な立場なんだな」
「はい。ヨルン様のお母様の身分が低いことを理由に国王には相応しくないと言う貴族もいて、難しいお立場なんです」
「なるほどな。よくある話だ」
竜人族でもよくあることなのか、ラウリはあっさり納得してくれた。
私も最初はラウリのようにヨルン様を軽い人だと思っていたけど、その印象は会うたびに少しずつ変化していった。
ヨルン様と握手をした時の手が豆だらけで剣の練習を熱心にされているのだとわかったし、王家が所有する文献を借りにロク先生と王宮の図書室へ行った時は人の目から隠れるようにして、図書室の片隅でひっそりと勉強する姿を幾度となく目にした。
さっきだって、キャンディ屋の前に可愛いマリエッタがいるのに彼女を一度も見ず、手を振らなかった。可愛い女の子が好きなら、マリエッタを見逃すはずがない。
「ヨルン王子は自分のことを理解してくれているお前を気に入っているんだな」
「気に入っているというか、ヨルン様は私がトロいから、面白くてからかっているだけです」
「そうは見えなかったが」
「向こうは昔馴染みの知り合いだとしか思ってないですよ。それに私がロク先生の弟子だから……」
私に染物も染色術も、自分の知識をたくさん与えてくれたロク先生。ロク先生の弟子として、その名に恥じぬ染物師にならなくてはいけない。
まずは町の人と仲良くなり、気軽に依頼されるような存在になることを目指している私。ロク先生は王都では知らぬ者がいないくらい有名で、頼りにされていたんだから……
そう、私が目指しているのは町のみんなから頼りにされる染物師!
『まあ、素敵なドレス。その布地はどちらで?』
『森に住む可愛い染物師、アリーチェちゃんが染めたのよ』
――これですよ。
妄想してニヤニヤしてしまった。
「おい。いつ、サンドイッチを食べ終えるんだ? まだ半分も食べてないぞ」
「あっ! は、はい、そうですよね」
二口しか食べていないことに気がついた。
ラウリのほうはすでに食べ終えて木陰に転がり、そよそよと風に吹かれながらウトウトとしている。
待たせるのも申し訳なく思ったので、サンドイッチのレタスをちぎってラウリの口の中に入れた。その様子はウサギみたいで、パリパリと食べる姿が可愛らしい。
それが楽しくて、しばらくラウリにレタスをあげていたけれど、私は気がついてしまった。
こ、こ、これって……よく考えると恋人同士がやるアレじゃないですか?
ハッとして周りを見回すと、近くのベンチで恋人同士が『はい、あーん』なんてハレンチなことをしている!
人の姿となったラウリを想像し、レタスをサッと口の前から奪い取った。
「私ときたら、なんてことをしてるのっー!」
「は? なにを言っているんだ? 自分が苦手なレタスを俺に食わせていただけだろう? いいから早くサンドイッチを食えよ。具が落ちそうになっているぞ」
「レタスは苦手じゃありません。あ、具がっ……危ないっ!」
手に力がこもったせいで、サンドイッチの中身が飛び出してしまった。
慌ててサンドイッチを食べると、喉に詰まらせてしまい、声も出せずにもがき苦しみ、どんどんっと胸を叩いた。
ラウリがなにをしているんだという顔で眺めながら、木苺ジュースが入ったカップを体でズイッと押して差し出し、尻尾で背中を叩いてくれる。
「ううっ……サンドイッチが喉に詰まって死ぬかと思いました……」
「そんな間抜けな死に方だけはやめろよ」
「はい……」
喉を潤してくれる木苺ジュースの甘さが私に優しい。
無事にサンドイッチを食べ終えると、ガラス瓶やコップを片付け、薔薇の花で染めて作った薄いピンク色のランチクロスをたたんだ。
「もう帰るのか?」
「いえ。ヨルン様の依頼を受けに仕立て屋のルチアさんのところへ行きます」
買い物は済んだけど、ヨルン様から依頼を受け取るため、ルチアさんの店へ行かなくてはいけない。
ラウリは私の言葉を聞いて目を細めた。
「仕立て屋か」
「はい。お世話になっている仕立て屋さんなんです」
「なぜ、仕立て屋がヨルン王子と繋がっている?」
「さあ……? ルチアさんは顔の広い人ですし、あまり疑問に思ったことはなかったですね」
ラウリに言われ、ヨルン様とルチアさんが知り合いだということに気づいた。
ずっと黙っていたラウリが口を開いた。
口をきかなかったのはヨルン様がどんな人間なのか、ラウリは見極めていたのかもしれない。どれがヨルン様の本心なのか、私にもわからない時があるから、その気持ちはよくわかる。
「私からすると、なにを考えているかわからないことのほうが多いですけど、明るく接してくださるから、とても人気があるんですよ」
通りに並ぶ露店から小麦や野菜などの目的の食材を買い終えると、噴水の石のふちに座った。
黒コショウとスパイスがよく効いた肉入りのサンドイッチは膝の上に乗せると、まだほんのり温かい。
行列ができる肉屋のサンドイッチはその場で焼いた熱々の分厚い肉を挟んでくれる人気商品。こんがりとした分厚い肉は脂を焼く音をじゅうじゅうと鳴らし、焦げた肉の香ばしい匂いは通りに漂い道行く人の足を止める。
このサンドイッチは私には大きすぎて、最後まで食べきる前にお腹がいっぱいになってしまうけど、今日はラウリがいるから半分にできる。肉の脂がついて、透明になった紙を丁寧にはがしながら、ラウリが食べやすいように携帯用ナイフを籠から取り出して一口サイズに切った。
「ふむ。これは美味だな」
「竜の口に合ってよかったです。新鮮な葉野菜のパリパリ感とスパイシーな肉が合うんですよね」
「食卓の向上のため、参考にしよう」
「は、はあ……仕事熱心ですね」
そこまで考えてサンドイッチを買ったわけではなかった。
ラウリは家政夫としてのプロ意識なのか、研究家のような顔をし、肉のスパイスの種類を探りながら味わっている。
竜は草や生肉を主食にしているんじゃないかと思っていたけど、竜人族は人間と同じものを食べるということがわかってきて、ホッとした。これで鱗のために肉を狩りにいかなくて済む。
森の染物師から森の狩人に職業が変更になるところだった。
術でかっこよく獲物を狩る女狩人アリーチェ!
それも悪くないかもしれないと思ったけど、トロい私が獲物から逃げられて反撃されるところまで想像できて、ちょっとせつなくなった。
「おい、俺の鱗を見すぎだ」
「あ、すみません。つい……」
本音が態度にまで漏れ出て止められない。
ラウリから私は危険人物として認定されたらしく、サンドイッチがのった紙を引きずって私から距離を取る。私とラウリの間にできた隙間にぴゅうっと風が吹き、寂しく感じた。
信頼関係のディスタンス、私とラウリの心の距離、いつになったらこの距離を埋められるの――心の中でポエムを刻む。
一度懐いたはずの犬が私から逃げて行くという過去の悲しい記憶を思い出し、再度、信頼関係の構築をと、ラウリに手を伸ばすも避けられてしまった。
「俺の鱗に触るな」
「厳しい……」
「襲われないように貞操を守っているだけだ。鱗一枚とはいえ、俺に危害を加えようとするとはとんでもない人間だ」
「私がそんなやましいことを考える女に見えますか?」
「やましさを通り越して変態だと思うぞ」
初対面、全裸を披露したラウリに言われたくない。
鱗を眺めるのを諦めて、籠の中から木苺ジュースの瓶を取り出した。鮮やかな赤色をした木苺ジュースをブリキのカップに湧き水で薄めた木苺ジュースを注ぐ。
肉のサンドイッチを食べた口に木苺の甘酸っぱい味がさわやかに感じる。
昼食を食べている場所は私のお気に入りの場所で、眩しい日差しを遮る木陰とひんやりした噴水の石、生い茂る草木が町の人達から私の姿を隠し、ホッと一息つくにはうってつけの場所だった。
豊富な湧き水があふれる噴水の横からは水が石組みの水路から流れ出る仕組みになっていて、流れる水は傾斜のある石組みから小さな滝のように流れ、滝の下に置かれた石は水を弾く。その清らかな水の流れを目で見て楽しむことができた。
「あの男。王子にしては女性に対する振る舞いが軽いように感じたが、いつもああなのか?」
そう言いながら、ラウリはブリキのコップから器用に木苺ジュースを飲み干し、サンドイッチをぱくっと一口で食べた。私の方はまだ一口目だというのに早すぎる。
「ヨルン様が女性に対して社交的なのは表向きだけで、本当は真面目な努力家なんですよ」
「そうなのか?」
「う、うーん……。でも、これは私の見解なので、参考にならないかも……」
正直、昔馴染みとはいえ、私にもヨルン様の言葉の真意はいつもわからない。
でも、ヨルン様が私に親しく話しかけてくるのも女性達を上手にかわすのも王子としての仕事の一部ではないかと思っている。
私がロク先生の弟子ではなく染物師でもなかったら、きっとヨルン様はトロい女の子が一人そのへんにいるなくらいの態度で接していたと思う。
「ヨルン様にはお姉様の王女が一人いらっしゃって、その方を女王にって望む貴族も少なくないんです。それで敵を作らないよう軽薄に振舞って、本音や実力を隠そうとしているところがあって……」
ヨルン様は愚かすぎず、優秀過ぎず、周りから浮かないようにバランスをとっているように見えた。状況や相手によって、自分の印象をどちらにでも転がせるように注意を払っている。
それがわかるのは私の前でヨルン様が自分を隠す必要がないから。
私が王宮内のゴタゴタに巻き込まれる可能性はゼロに近いというのもあるけど、ロク先生以外に身寄りもなく友人もいない私がヨルン様を利用したり、貴族の派閥に取り込まれたりする心配もないから、気楽な存在だと認識されているからなんだと思う。
お気楽、のんき、ぼんやり――そんな私はラウリがすでにサンドイッチを半分食べてしまっているにも関わらず、まだ二口目をもぐもぐと口の中で咀嚼していた。
「あいつは複雑な立場なんだな」
「はい。ヨルン様のお母様の身分が低いことを理由に国王には相応しくないと言う貴族もいて、難しいお立場なんです」
「なるほどな。よくある話だ」
竜人族でもよくあることなのか、ラウリはあっさり納得してくれた。
私も最初はラウリのようにヨルン様を軽い人だと思っていたけど、その印象は会うたびに少しずつ変化していった。
ヨルン様と握手をした時の手が豆だらけで剣の練習を熱心にされているのだとわかったし、王家が所有する文献を借りにロク先生と王宮の図書室へ行った時は人の目から隠れるようにして、図書室の片隅でひっそりと勉強する姿を幾度となく目にした。
さっきだって、キャンディ屋の前に可愛いマリエッタがいるのに彼女を一度も見ず、手を振らなかった。可愛い女の子が好きなら、マリエッタを見逃すはずがない。
「ヨルン王子は自分のことを理解してくれているお前を気に入っているんだな」
「気に入っているというか、ヨルン様は私がトロいから、面白くてからかっているだけです」
「そうは見えなかったが」
「向こうは昔馴染みの知り合いだとしか思ってないですよ。それに私がロク先生の弟子だから……」
私に染物も染色術も、自分の知識をたくさん与えてくれたロク先生。ロク先生の弟子として、その名に恥じぬ染物師にならなくてはいけない。
まずは町の人と仲良くなり、気軽に依頼されるような存在になることを目指している私。ロク先生は王都では知らぬ者がいないくらい有名で、頼りにされていたんだから……
そう、私が目指しているのは町のみんなから頼りにされる染物師!
『まあ、素敵なドレス。その布地はどちらで?』
『森に住む可愛い染物師、アリーチェちゃんが染めたのよ』
――これですよ。
妄想してニヤニヤしてしまった。
「おい。いつ、サンドイッチを食べ終えるんだ? まだ半分も食べてないぞ」
「あっ! は、はい、そうですよね」
二口しか食べていないことに気がついた。
ラウリのほうはすでに食べ終えて木陰に転がり、そよそよと風に吹かれながらウトウトとしている。
待たせるのも申し訳なく思ったので、サンドイッチのレタスをちぎってラウリの口の中に入れた。その様子はウサギみたいで、パリパリと食べる姿が可愛らしい。
それが楽しくて、しばらくラウリにレタスをあげていたけれど、私は気がついてしまった。
こ、こ、これって……よく考えると恋人同士がやるアレじゃないですか?
ハッとして周りを見回すと、近くのベンチで恋人同士が『はい、あーん』なんてハレンチなことをしている!
人の姿となったラウリを想像し、レタスをサッと口の前から奪い取った。
「私ときたら、なんてことをしてるのっー!」
「は? なにを言っているんだ? 自分が苦手なレタスを俺に食わせていただけだろう? いいから早くサンドイッチを食えよ。具が落ちそうになっているぞ」
「レタスは苦手じゃありません。あ、具がっ……危ないっ!」
手に力がこもったせいで、サンドイッチの中身が飛び出してしまった。
慌ててサンドイッチを食べると、喉に詰まらせてしまい、声も出せずにもがき苦しみ、どんどんっと胸を叩いた。
ラウリがなにをしているんだという顔で眺めながら、木苺ジュースが入ったカップを体でズイッと押して差し出し、尻尾で背中を叩いてくれる。
「ううっ……サンドイッチが喉に詰まって死ぬかと思いました……」
「そんな間抜けな死に方だけはやめろよ」
「はい……」
喉を潤してくれる木苺ジュースの甘さが私に優しい。
無事にサンドイッチを食べ終えると、ガラス瓶やコップを片付け、薔薇の花で染めて作った薄いピンク色のランチクロスをたたんだ。
「もう帰るのか?」
「いえ。ヨルン様の依頼を受けに仕立て屋のルチアさんのところへ行きます」
買い物は済んだけど、ヨルン様から依頼を受け取るため、ルチアさんの店へ行かなくてはいけない。
ラウリは私の言葉を聞いて目を細めた。
「仕立て屋か」
「はい。お世話になっている仕立て屋さんなんです」
「なぜ、仕立て屋がヨルン王子と繋がっている?」
「さあ……? ルチアさんは顔の広い人ですし、あまり疑問に思ったことはなかったですね」
ラウリに言われ、ヨルン様とルチアさんが知り合いだということに気づいた。
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